
沢山産沸石類(蛇骨石)に中沸石があるという報告は、『地質学雑誌』等によると、昭和24年(1949)の齋藤光惠氏(小泉光恵 1923-2007) の研究が最初のようです。(他にもあるかもしれませんが。)
成分表の画像は、以下の論文の「第1表」より。
齋藤光惠「岩石及鑛物中の水分に關する研究(その二) ――所謂曹達沸石屬特に中沸石に就て―― (附)本邦に於ける中沸石の新産出」(『鑛物と地質 3巻2号』1949年9月)
9個の試料について化学分析と脱水現象の検討を行い、沢山産の2つの試料(Nd, Nc)を中沸石と判定し、1つ(Ne)を不純なもの(数種の鉱物の混合)としています。
平成元年頃の灰沸石の報告でも『上田の地質と土壌』(上田市誌 自然編 1)(2002)でも、この中沸石の報告については触れられていないので、(その後否定されていなければ、)知られていなかったのかもしれません。また、灰沸石の報告も地方の書籍に掲載されたので全国的には知られず、別の報告があるという指摘を得ることがなかったのかも。
灰沸石の確認も中沸石の確認も、調査は限定的のようで、それぞれの分布、成分置換の有無、外観・晶癖等は不明。
以下は関連の論文記事のリストです。(地質学雑誌の記事はまた消えるかもしれないのでできるだけ内容を書きましたが、原文と完全には同じではないです。)
「曹達沸石属」という名前があり、昭和20年頃も「曹達沸石」が暫定的なグループ名のように使われていたことがわかります。
田久保實太郞・齋藤光惠「沸石類の研究(豫報)」(『地質學雜誌』1947年5月)
https://ci.nii.ac.jp/naid/110003016882
沸石類中の水分については古くから多くの先輩により研究されてきたが,その多くは或る單一種類の實驗結果から脱水の機構及結合状態を推理したものが多い。更に他の多數の含水鑛物中の水分に就ても又同樣である。そこで我々は次の如き各種の物理化學的手段を適用して廣く含水鑛物中の水分に就いて再檢討し其の觀點から其等の諸鑛物を系統的に考察せんとするものである。實驗方法として(1)化學分析 (2)熱天秤による脱水曲線の決定 (3)吸收現象 (4)示差熱分析 (5)蒸氣壓測定 (6)光學性 (7)結晶構造 (8)水分中の重水含有量の測定等を計畫してゐる。
第1歩として沸石10種及所謂泥ニツケル鑛(大江山産)に就き熱天秤及示差熱分析法を用ひて脱水現象を考察し,その1部のものは化學組成も決定した。個々の結果の説明及得たる各2種類の曲線の圖示は省略して,之らを總括して得た事實を以下に述べる。第1に實驗に供した試料の範圍で沸石類の脱水現象は4種に分類出來て,1回の急激な變化で脱水(natrolite, stilbite, thomsonite), (2)2回の急激な變化で脱水(apophyllite, scolecite, laumontite), (3)連續的に徐々に脱水(analcime, chabazite), (4)複雜な脱水(heulandite, desmin, laumontite) を呈するものに分れる。此の事實は之ら鑛物中の水分の結合状態が同樣に數種に分類される可能性を暗示する。第2に,供試鑛物中には之を室温にて加熱すれば直ちに連續的に脱水を始め 100°c 前後に於て境界を劃することの甚だ不合理なものがある。故に 100°c 以下で放出される水分中には單なる機械的附着水でなく,特定の結合を有するものがある。從つて含水鑛物の組成を論ずる場合 100°c 附近を境として水分を H2O+) H2O-) に分つことは再檢討すべき餘地がある。
以上の事實に就ては更に,前記各種の實驗方法を用ひて,研究を續行し隨時詳報したいと考へてゐる。
齋藤光惠「曹達沸石―灰沸石系含水鑛物の脱水現象」(『地學 1巻1号』1949年7月)
http://hdl.handle.net/2433/186191
齋藤光惠「鑛物中の水分に關する研究(その2)」(『地質學雜誌』1949年の講演?)
https://ci.nii.ac.jp/naid/110003012024
(137)齋藤光惠: 鑛物中の水分に關する研究(その2) 曹達沸石―灰沸石系沸石類について(代讀)
曹達沸石屬に屬する曹達沸石・中沸石・灰沸石の關係に就てわ,之らが各々別個に獨立したものか,曹達沸石と灰沸石を兩端成分とする混晶であるのか,或は曹達沸石と灰沸石のみ存在して中沸石なるものわその連晶にすぎないのかという問題が古來多くの先人により取扱われた。筆者わ試料9個に就きその化學成分及脱水現象を檢討し,主としてこの觀點から上記の問題お取扱つた。化學分析の結果,9個のうち試料不純なため棄却したもの1個を除く殘る8個中にわ曹達沸石1個,中沸石3個,灰沸石2個が含まれ,殘る2個わ曹達沸石と中沸石の中間に位し,各方面から檢討の結果,曹達沸石中の Na2O 成分及 SiO2 成分が夫々 CaO 成分及 Al2O3 成分により置換されたものとみるのが妥當であると思われた。而して曹達沸石・中沸石・灰沸石に相當するものわ夫々特有の脱水現象を呈し,今假りに之らお夫々 n(300°C); m1(150°~300°C), m2(330°C); S1(200°C前後), S2(370°C) とすれば,曹達沸石と中沸石の中間に位する2個の試料わ夫々 n+m2, m1+n+m2 なる脱水現象お,又曹達沸石と灰沸石の混合物わ S1+n+S2 なる脱水現象お示す。試料數の少いために結論として多くお論ずることわ許されないが,上記の事實から次の樣なことがいえる。中沸石なる鑛物わ確かに獨立した1つの種として存在し得る。但し之と曹達沸石及灰沸石との關係が混晶お作り得るかどうかという問題わ,灰沸石との關係わ試料がないため何ともいえないが曹達沸石との關係わ M. H. Hey 或わ A. N. Winchell の結論した樣な混晶を作らぬという説に全面的に賛成出來ないものがある。尚中沸石試料3個のうち2個わ長野縣西鹽田村産(益富壽之助採集)で,本邦に於ける最初の發見である。
本研究の詳細わ「鑛物と地質」5月號(本年6月發行)に記載される筈である。
齋藤光惠「岩石及鑛物中の水分に關する研究(その二) ――所謂曹達沸石屬特に中沸石に就て―― (附)本邦に於ける中沸石の新産出」(『鑛物と地質 3巻2号』1949年9月)
『鑛物と地質 3巻2号』[20]頁より
(附) 本邦に於ける中沸石の新産出
この報告に旣に述べた樣に本研究に使用した試料のうち,益富壽之助氏から惠與された同氏蒐集の試料 Nd 及 Nc は共に中沸石と斷定された.産地は共に長野縣西鹽田村である.櫻井欽一氏によれば,本邦では 1882 年に松本收氏 13) が間瀨産方沸石の上に附着する白色の鑛物を分析して中沸石として記載したのが,中沸石産出の最初であるが,後曹達沸石と訂正された由で,從つて正しいものとしては,試料 Nd 及び Nc が本邦に於ける最初の中沸石である.ここに特に附記して報告する次第である.
參考文献
1) W. H. Taylor, C. A. Meek & W. W. Jackson: Zeit. Krist, 84 (1933) 373.
2) J. N. Fuchs: Schweigg, Journ. Chem. Phys. 18 (1816) 1.
3) R. Görger: Tschermaks Min. Petr. Mitt. 27 (1908) 255; 28 (1909) 79. 94.
4) H. L. Bowman: Min. Mag. 15 (1909) 216.
5) A. N. Winchell: Amer. Min. 10 (1925) 112.
6) M. H. Hey: Min. Mag. 23 (1933) 421.
7) W. O. Milligan & H. B. Weiser: Journ. Phys. Chem. 41 (1937) 1029.
8) A. N. Winchell: 前出
9) M. H. Hey: 前出
10) A. N. Winchell: 前出
11) M. H. Hey: 前出
12) W. H. Taylor; 前出
13) 松本 收: 東京化學會誌 3 (1882) 111
(1949年4月15日) 京都大學理學部地質學鑛物學敎室
松本収「「アナルサイム」及「メソール」ノ分析」(『東京化學會誌』3巻 (1882) p.110-113)
https://doi.org/10.1246/nikkashi1880.3.110
齋藤光惠・田久保實太郞「鑛物中の水分に關する研究(續報)」(『地質學雜誌』1950年7月)
https://ci.nii.ac.jp/naid/110003017088
(63) 齋藤光惠・田久保實太郞: 鑛物中の水分に關する研究(續報)――沸石類の脱水現象の各種の型に就て
1947年總會の講演會に於て發表した研究のその后の結果に就て述べる。即ち各方面の好意によつて集め得た累計42個(15種)の沸石試料のうち實驗可能なものに就き,主として脱水曲線の測定及び示差熱分析によつて脱水現象の檢討を行い,その結果實驗に供した試料の範圍では沸石類の脱水現象には次のような型のものが存在することが判つた。1) natrolite 型 (natrolite), 2) scolecite 型 (scolecite, apophyllite), 3) analcime 型 (analcime, chabazite, ptilolite), 4) heulandite 型 (heulandite, stilbite)。以上4種の基本的な型の何れにも屬しないで,夫々獨特の脱水現象を示すものとして mesolite, laumontite, epistilbite, unknown zeolite (湯河原産,櫻井欣一氏が發見し,林瑛氏によつて詳細な研究が行われている) がある。これらの結果は沸石類の分類に關する問題,含水結晶の結晶構造に關する問題等を取扱うに當つて1つの參考資料となろう。
(※正しくは「櫻井欽一氏」)
益富壽之助「標本玉手箱 第17回 42.中沸石」(『地学研究 13巻2号』1962年6月)より
我国では中沸石は長野県小県郡西塩田村手塚産について調べられた大阪大学の小泉光恵氏が発見されたのを嚆矢とし,大月産はこれに次ぐ日本第二の産地です.十数年前小泉氏が筆者に沸石類研究のためソーダ沸石を乞われた時差上げたものが中沸石であったわけで,その折,肉眼鑑定に限度あることを痛感したことを今も覚えています.
関連の以前の記事です。
灰沸石 Scolecite の確認について
https://kengaku5.hatenablog.com/entry/34917755
「蛇骨石=灰沸石」についての疑問
https://kengaku5.hatenablog.com/entry/28561231
「そろばん玉のような蛇骨石」の謎
https://kengaku5.hatenablog.com/entry/28567341
沢山産沸石類(蛇骨石)の研究史について(再)
https://kengaku5.hatenablog.com/entry/28743398
沸石の累帯的な構造
https://kengaku5.hatenablog.com/entry/32795634