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『幻愛 夢の向こうに』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週月曜、11時台半ばのCIAO CINEMA 3月2日放送分
映画『幻愛 夢の向こうに』短評のDJ'sカット版です。

舞台は香港郊外。統合失調症を抱える若者レイ・ジーロックは、病気をコントロールしながら小学校で働いています。ある日、街で偶然であった女性ヤンヤンに一目惚れして仲を深めるのですが、病気を打ち明けられないうちに症状が悪化。幻覚に苛まれるようになります。一方、治療のために通っているセラピーで出会ったのが、臨床心理士を目指す大学院生で、なんとヤンヤンにそっくりの女性イップ・ラム。彼女は統合失調症の症状のひとつ「恋愛妄想」について研究していて、ロックを調査対象にしたいと申し出ます。

トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

香港では2019年に公開されて社会現象化した本作。監督・脚本・製作は、社会派の劇映画やドキュメンタリーを手掛けてきたキウィ・チョウ。レイ・ジーロックに扮したのは、メインキャストのひとりを演じた『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』が日本でもロングランとなったテレンス・ラウ。イップ・ラムは、台湾で演劇を学んだセシリア・チョイが演じました。
 
僕は公開日2月20日(金)夕方にアップリンク京都で鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

Photon Films (HK) Limited © 2019 All Rights Reserved
1月に短評した中国の映画『愛がきこえる』では、ろう者が主人公でした。そこでは、障がいが外見からすぐにわからないことによって生じる問題に少し言及しました。精神疾患である統合失調症もそうなんですよね。主人公の若者ロックも障がいを持っているけれど、グループセラピーに通ったり、場合によっては薬を服用して症状をコントロールしながら、真っ当な社会生活を送っているわけです。ところが、彼らの場合には、精神疾患への偏見や差別があるという事情から、なかなか地域にすんなり溶け込めなかったり、恋愛感情が芽生えても病気について打ち明けられずに踏み込めなかったりということが現実にあります。自分のことを包み隠さずにはいられないというのは辛いことですよ。受け入れられなかったらどうしようという不安。本当のことが言えない不満。それが、症状を悪化させることがあるとしたら、ますます辛いことです。

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この作品は、アバンタイトルの部分、プロローグに相当するお膳立てのパートが良くできているなと感じます。香港の雑踏の中、ひとりの中年女性が何やら苦しそうな様子でひとり佇んでいたと思ったら、やおら服を脱いで下着姿になる。周囲の人は驚いて距離を置きつつも、好奇の目をスマホに託す野次馬と化している。誰も手を貸さないところへ、ロックともうひとり若い女性が手を差し伸べ、救急車を呼ぶ。それがロックとヤンヤンの出会いです。ロックはすぐに気づいたんですね。その中年女性が幻覚に苛まれてしまっていたことを。序盤ですが、ネタバレしないように注意しますね。このプロローグの終わりで、ロックも実は統合失調症の患者であることがわかるんですが、そのきっかけが実に巧みです。さっき僕が話したカミングアウトの難しさもわかるし、幻の愛と書くタイトルの重みも突きつけられます。そこから今度は、ヤンヤンと似た女性で、臨床心理士を目指す大学院生ラムが登場。ロックのヤンヤンへの想いをより突っ込んで研究するうちに、これは臨床のルールとしてはあってはならないことですが、ふたりの距離が縮まっていく、つまりは禁断の恋愛にもつれ込んでいくという流れです。

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こうして言葉で整理していくと、すごく特殊な恋愛物語のように思えてくるかもしれませんが、監督自身も言っているように、精神医療をきちんと取材してモチーフにしてはいるものの、テーマとしてはもっと普遍的で、人を好きになって愛を求めることの喜びと苦悩です。その意味で、極めて純度の高い恋愛映画と言えます。ロックの事情だけでなく、ラムの取る行動の裏に彼女の過去が影響していることがわかってくる後半はサスペンスの様相を呈しながら、宙吊りになったふたりの恋模様は振り子のように揺れながら強度を増し、やがて決定的な選択を迫られることになります。僕は正直、手に汗握りましたよ。

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現実と幻覚がシームレスに行き来するカメラワークと編集に恐れ入るとともに、僕が注目したのは、ロケーションの妙です。香港の郊外を舞台にしたのは、取材に基づいて、ロックのような境遇の人が人混みを嫌うという事情もあるのでしょうが、団地を舞台にしたことで、あの直線で区切られた人工的な空間が主人公たちの社会からの疎外感や孤独・孤立を画面に浮き彫りにできると踏んだからでしょう。トンネルが3回出てくるのはもちろん偶然ではなく、その閉鎖性を利用しながら、物語が次のフェーズへと移行する、くぐり抜けるという象徴的な意味を持たせていたからです。そして、香港のあの軽鉄、路面電車のような鉄道も頻繁に出てきました。主人公たちを遮ったり、区切ったり、車内の混み具合もキャラクターの心情を示唆していましたし、レールを走るということの社会的な意味も込めていたでしょう。監督の演出は、その意味で的確です。ちょっとアップが多すぎるなという印象もありますが、その分、広い画とのコントラストが活きていました。

異人たち

僕が想起したのは、山田太一原作で2年前にこのコーナーで扱った『異人たち』です。あちらは同性愛がモチーフでしたが、社会にやすやすと受け入れられないマイノリティの恋愛という意味で通底するものがあるし、その分、愛の純度と強度が高まるという作品と言えるでしょう。今作のエンディングは、観る人によって正反対の解釈が可能なオープンエンディングです。それも、タイトル通り、現実なのか幻なのか、愛の行方を観客が持ち帰って考えることができるのは好感が持てます。パンフレットにはロケ地マップも掲載されていまして、香港の旅行気分、生活者気分も味わえる、辛くもあるけれど素敵な作品です。蛇足かもしれませんが、主演のふたりはこの作品をきっかけに付き合い始め、日本で結婚式を挙げました。この難しい役に没入した結果と言えるでしょう。脚本執筆の動機は監督の失恋だったそうですが、幻の愛を通じて現実のカップルが誕生したのはすばらしいことです。
主題歌を担当したのは、小さな塵に埃と書く、英語ではLil' Ashesとして活動する男女2人組のユニットです。この曲はメインボーカルが女性のバージョンと男性のものとあるんですが、今日は主人公ロックの気持ちを意識しながらJonathan Ver.をお送りしました。

さ〜て、次回3月9日に評する作品を決めるべく、おみくじで僕が引き当てたのは、『#拡散』です。いつの間にか「分断」という言葉が当たり前に使われるようになって、ギスギスした雰囲気が広がったり、迂闊には触れにくい話題が増えたり… どなたも身に覚えのひとつやふたつあるんじゃないでしょうか。この分断をテーマにした映画も増えてきていますが、この作品はどこまで深く切り込んで本質に迫るのか。しっかり観てきます。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!



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