FM COCOLO CIAO 765 毎週月曜、11時台半ばのCIAO CINEMA 1月26日放送分
映画『ウォーフェア 戦地最前線』短評のDJ'sカット版です。

2006年、イラク中部の危険地帯とされたラマディ。アメリカ海軍特殊部隊ネイビー・シールズの8名は、市民に紛れ込むアルカイダの動きを監視し、場合によっては狙撃も行いながら、翌日に予定されている米軍地上部隊の移動を円滑にするミッションを受けていました。深夜に現地に入った8名は、一軒の民家を占拠して作戦を開始するのですが、とあるきっかけで敵の武装勢力との全面衝突に陥ります。
監督・脚本は、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』のアレックス・ガーランドと、その『シビル・ウォー』で軍事アドバイザーを務めたレイ・メンドーサ。彼は本作が描く作戦に参加していた元ネイビー・シールズの隊員です。作戦を指揮するエリックには、『メイズ・ランナー』や『ミッドサマー』などのウィル・ポーターが扮しています。製作は、A24です。
僕は先週水曜夕方にMOVIX京都で鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

戦争映画というのは一大ジャンルですから、いくつかのパターンができあがっていますね。ストーリーの起伏の作り方、作戦を成功に導くヒーローの存在、兵隊たちの絆などなど。少なくとも商業的な劇映画の場合には、基本的にはその類型の組み合わせとバリエーションで成立するものです。観客を昂らせるようなものであれ、無惨にも作戦に失敗する悲劇であれ、一定のドラマ性があり、主人公たちへの感情移入を誘う演出が用意されますね。ところが、この作品にはそういった要素は見当たらないんです。戦争映画でありながら、戦争映画のジャンル的特徴が一通り当てはまらないというのが最大の特徴ではないかと思います。

まず、説明がありません。この作戦がイラク戦争の中でどのように位置づけられたものだったのか。8名の隊員の名前や役割も、観ているうちにだんだんわかってくるという程度。試しに、この映画のあらすじをいくつか読み比べると一目瞭然ですが、あまりに説明がないので、書きぶりがかなり異なります。敵をイラク兵としているものもあれば、アルカイダとしているものもある。一応、補足しておくと、劇中でアルカイダという単語は一度も出てきません。要するに、隊員たちにもよくわからないのでしょう。だって、相手は市民に紛れているわけで、どこまで組織化されているのかも何名いるのかも定かではないんですから。

次に、主人公がいません。あえて言えば、8名の部隊全体なのですが、特に誰かが突出して描かれるわけではありません。敵方との戦闘に入って混乱が生じると、指揮系統は乱れ、パニックに陥る者、司令部との通信を切る者、正気の沙汰とは思えない言動をとる者など、現場はカオス。ヒロイズムは皆無です。同時に、敵を悪役に仕立てることもしていません。兵士たちは自分たちの苦境を呪うことはあっても、敵の武装組織を罵ることもありませんでした。それは彼らが高潔だというよりも、それぐらいに敵地最前線の兵士には情報がないわけで、個人的な恨みがあるわけではないことの表れでしょう。

この作品は、実際にこの作戦に参加したレイ・メンドーサ共同監督が、戦友たちに連絡を取り、ひとつひとつは不正確で曖昧かも知れない記憶と記録を照らし合わせて撚り合わせ、脚色も装飾も加えずに脚本が執筆されました。もちろん、始まりがあって終わりがあるので物語ではあるのだけれど、いわゆるドラマ性はありません。この戦争が良いか悪いかといった善悪の価値判断もない。あえて言えば、主役はタイトル通り、戦地そのものなのです。

民家を占拠した監視所が舞台となっていて、広い画はほとんどなく、彼らはじりじりとより狭いスペースに追い詰められます。時に煙幕が張られることもあり、視界が遮られることもある。そこで重要なのは音響デザインです。といっても、音楽ではなく、銃撃や爆発の音、そしてひっきりなしに交わされる通信。そして、爆撃の衝撃で兵士たちに生じる無音やくぐもってしまった音。さらには、阿鼻叫喚としか言えない兵士たちの言葉にならない声。このサウンドデザインは、僕は今回のアカデミー賞音響賞のノミネートから漏れたのが不思議で仕方ありません。あの音を体験するだけでも映画館で観る価値があります。

鑑賞後に覚えるのは、徒労感です。この作品は、先述したように価値判断を加えていないに近いんですが、だからこそ、余計に観客が感じるのは、「これはいったい何だったんだ」ということ。なぜ彼らがこんなことをしなければならなくなったのかという無力感です。呆然とします。その意味で、新しい一級の戦争映画であり、反戦映画とも言えるでしょう。
この曲は劇中での唯一の挿入歌なんですけど、頭でいきなり流れます。ベースキャンプ的なところで、みんなでMVを見ながら歌って盛り上がるんですね。またMVがセクシーなエアロビクスの映像なもんで、ゲスなテンションの上がり方をしていたと思ったら、すぐにイラクです。
戦地へ行く直前のガソリンみたいな感じでした。

