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『愛がきこえる』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週月曜、11時台半ばのCIAO CINEMA 1月19日放送分
映画『愛がきこえる』短評のDJ'sカット版です。

聴覚に障がいのある父シャオマーと一緒にろう者のコミュニティで暮らしている7歳の少女ムームー。耳の聞こえない親を持つ耳の聞こえる子どもコーダである彼女は、小学校に通わず、父や仲間の手話通訳をしながら暮らしていました。ある日、5年前に離婚して出ていった母が現れ、ムームーにもっと普通の生活をさせるべきだと引き取ると主張します。親権をめぐる諍いは裁判に発展。シャオマーは新たな仕事を探し、ムームーを学校に通わせるのですが、高額な弁護士費用が負担になり、闇ビジネスの片棒を担ぐ羽目に…

あなたがここにいてほしい (字幕版)

監督は、商業映画デビュー作『あなたがここにいてほしい』が中国で社会現象となった新進気鋭のシャー・モー。シャオマーを演じたのは、アイドルグループEXOのレイとして活躍を続けるチャン・イーシン。キャストには、ろうの当事者が多数参加しています。
 
僕は先週水曜夕方にMOVIX京都で鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

©CKF PICTURES (Ningbo) Co., Ltd. / iQIYI Pictures (Beijing) Co., Ltd. / Shanghai Tao Piao Movie & TV Culture Co.,Ltd.
先週評した韓国映画『大命中!MEは何しにアマゾンへ?』に続き、邦題にまず言及します。オリジナルのタイトルは「不説話的愛」で、意味合いとしては「沈黙の愛」みたいな感じなんだと思います。言葉を発していない状態でも伝わるということでしょうから「言葉を超えた愛」としても良いかもしれません。主人公の親子は、基本的に手話でやり取りをするわけで、音声を伴ったコミュニケーションではなくても育まれる人間関係は存在するのだという作品のメッセージが表現されているんだと思います。ところが、邦題の『愛がきこえる』というのは、まるで逆のタイトルとも言えるわけですよ。沈黙、音はないと原題は言っているのに、「きこえる」ですもの。主人公はろう者なのに、「きこえる」としている。これは映画を観ればわかりますが、シャオマーがなんとかしてムームーの声を聞こうとするところがありますよね。そして、自分でも言葉を発音しようとする。ムームーの手を自分の喉に当てて、その揺れを伝えようともする。僕は「愛がきこえる」なんてポエティックすぎるんじゃないかと思っていましたが、鑑賞後は納得どころか「これしかない」と感心しています。「聞こえる」とまっすぐにポジティブに言い切ったこと。しかも、「聞こえる」を「きこえる」とひらがなで表記することで文字から「耳」を消して意味を広げたこと。加えて、その聞く対象を原題にあった「愛」という抽象的なワードにしたこと。抽象概念に本来は音なんてないですからね。『愛がきこえる』、見事な邦題です。で、今週の短評を終えても僕としてはいいくらいですけど、邦題は日本の配給会社の仕事なんで、作品そのものにもさすがに言及しないといけませんね。

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30代半ばのシャー・モー監督は、腕があります。その腕を支える努力もしています。中国は人口が世界一なわけですから、聴覚に障がいを抱える人の数も当然ながら多いです。少なく見積もっても2000万人はいるとされています。監督はその実態を3年にわたって取材してまわりました。この物語はあくまでフィクションですが、ろう者がたくさんキャスティングされていることや、エンドロールに登場する当事者たちの暮らしぶりや笑顔を見れば、どれだけの人に接しているかわかりますね。そのうえで、残念ながら彼らが詐欺に巻き込まれてしまうことが多いと知り、映画に反映させていきます。その詐欺の手口には観ていて腹が立つし、歯がゆいものがありますが、なぜ被害にあってしまうのかという理由と彼らの置かれている就労をめぐる厳しい環境もよくわかります。この映画は父親と一人娘の絆が本人たちの意志とは裏腹に引き裂かれてしまうというメロドラマを基本としていますが、ろう者の暮らしぶりをきっちり伝え、その障がいを利用して弱いものいじめを行う人がいることをハラハラするクライムスリラーの手法で見せてくるというジャンルの掛け合わせをしているんです。音楽の使い方がストレートすぎるかなとか、悪役がわかりやすく悪いなとか、僕みたいな人にツッコまれやすい部分もあるけれど、それ以上に巧みな演出も目立ち、この作品は優れた社会派エンターテインメントとして成立しています。シャー・モー監督のバランス感覚と手際の良さは、今後さらに飛躍する可能性を秘めていますね。

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狭い部屋の二段ベッドで、鏡越しに手話で楽しく会話するシャオマーとムームーの姿なんて、映画的な巧い見せ方でしたね。クライマックスのひとつである空港のシーンは、ガラス越しで声を出しても聞こえないんだけれど、手話だからこそ意思疎通できるふたりの特性を活かした演出になっていて、ダイナミックに横移動するカメラと走るふたりの動きが感動を呼ぶ名演出でした。あそこなんて「愛がきこえる」を見事に体現するシーンです。舞台の街には海はないんですが、海や鳥、クジラというモチーフを何度か挿入するのも効果的でした。考えてみれば、ムームーがニュージーランドへ行くという設定も、文字通り「海外」なんですよね。

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これはもちろん日本にも同じことが言えますが、ろう者は外見で障がいの有無が判断できません。だからこそ、彼らは助けが必要な場面でもそれを見せまいとしてしまうがために、かえって狭い範囲や人間関係に閉じこもってしまう傾向がある。そんな中で、海というのは「井の中の蛙大海を知らず」という言葉通り、広い世界の象徴として機能します。この映画は構成も見事で、大人になったムームーが過去を回想し、最後にまた現代に戻ります。そうすることで、狭い世界にいて父ひとりを助けようと躍起になっていたいたいけな女の子が、ひとりの立派な女性として社会を広く見据えて大勢に手を差し伸べていることの意味がよくわかるんですね。大人になったムームーが、なぜ一目でその人がろう者かどうかわかるのかという疑問が冒頭のシーンで設定され、その答えがエンディングでわかるとき、僕はこの映画を観て良かったと心底思いました。この規模での公開というのが実にもったいない! ぜひあなたも、「愛をききに」劇場へ出かけてください!

評では俳優の演技に言及しませんでしたが、EXOのレイことチャン・イーシンは、本当に見事だったし、役作りのためにろう者のコミュニティを取材して中国手話を覚えてという努力もすごい。ここではサントラや主題歌ではなく、シンガーとしてのレイの魅力を改めて取り上げて、Lauvとのコラボナンバーをお送りしました。

さ〜て、次回は、1月26日に評する作品を決めるべく、おみくじを引いて僕が引き当てたのは、『ウォーフェア 戦地最前線』です。毎週おみくじに入れているのにさっぱり当たらない『ズートピア2』をそろそろと発言していたところ、動物たちの楽園からイラク戦争の戦地、それも最前線に放り込まれることになりました。まいったね、こりゃ。でも、アレックス・ガーランドは監督として『シビル・ウォー』で名を上げたところなんで、これも相当興味深く、覚悟を決めて劇場へ向かいます。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!



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