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映画『爆弾』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週月曜、11時台半ばのCIAO CINEMA 11月24日放送分
映画『爆弾』短評のDJ'sカット版です。

酔った勢いで酒屋の自販機と店員に暴行を働き、警察で尋問を受けることになった「スズキタゴサク」と名乗る中年男性。彼は、霊感が働くとうそぶくのですが、実際に都内で彼の予告通りに爆発事件が起こり、刑事は当惑します。しかも、爆発はまだまだ続くとスズキは発言し、警察は組織をあげて捜査に乗り出すのですが…

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原作は、「このミステリーがすごい! 2023年版」で1位を獲得した呉勝浩の同名ベストセラー小説。監督は『キャラクター』や『帝一の國』の永井聡が務めました。スズキを佐藤二朗、スズキとの交渉に挑む刑事を山田裕貴染谷将太渡部篤郎が演じる他、伊藤沙莉坂東龍汰寛一郎などが出演しています。
 
僕は先週金曜の昼、TOHOシネマズ二条で鑑賞してきました。当初から観客動員で好成績を叩き出してロングヒットとなり、報知映画賞で作品賞をはじめとする5部門にノミネートされるなど批評面でも好調とあってか、10月31日の公開から3週間を経過しても、お客さんは結構多かったです。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

[c]呉勝浩/講談社 [c]2025映画『爆弾』製作委員会
呉勝浩の生み出した原作がまずすごいということは前提として、137分に及ぶ上映時間のほとんどをハラハラさせ続けることができたのは、日本のミステリー映画として相当高いレベルで面白いと言わざるを得ません。自堕落な中年男が酔っ払って起こした暴行と器物損壊。どこの町にもありそうな、刑事も「やれやれ、またか」と言いたくなるような事件を機に警察へと入り込んだスズキタゴサクが始めたのは、一見無邪気なようでいて、その実かなり知的な言葉のやり取りで構成されたゲームであり、ゲームでは済まされないリアルタイムで展開する凄惨な事件です。小石が起こした波紋は際限なく広がり、肥大化し続けていきます。関わる人数も多くなる。スズキが繰り出す言葉はどれも周到に計算されていて、その謎を解く「楽しさ」と「禍々しさ」が同時に押し寄せてきます。そして、社会における人の命の価値、経済格差、序列、不条理、悪意といった目を背けたくなる事象をえぐり出されていきます。

[c]呉勝浩/講談社 [c]2025映画『爆弾』製作委員会
見事に構築された物語ではあるものの、映画化は簡単ではなかったはずです。なにせ、取調室という密室での対話が軸になるわけで、下手すると画面構成が単調になるわけですから。永井監督や脚本家陣の作戦は的を射ていました。密室での知的遊戯としてのミニマルな会話劇においては、染谷将太渡部篤郎山田裕貴、そして寛一郎という4名の刑事にそれぞれ的確なキャラクター造形を行うことで変化をつけ、彼らを通して警察という組織の構造や問題点を見せています。あの取調室は、言わば物語のコントロール・ルームになっていて、外にいる警察官や取調室から出ていった刑事たち、さらには事件の関係者たちを動かす、というより、操る格好になっていました。たとえば、爆弾がいつどこそこで爆発する可能性があるとわかれば、警察はその対応に追われる。あるいは、スズキタゴサクの過去の行動・足跡や人間関係を割り出そうと捜査を展開する。こうした外の動きを巧みな編集でパズルのように組み合わせることで、佐藤二朗が頭を丸めて挑んだ鬼気迫るスズキのクロースアップから、爆弾がどこに仕掛けられているかわからない恐怖を煽るロケ撮影のロングショットまで、画面に抑揚をつけることに成功したんですね。

[c]呉勝浩/講談社 [c]2025映画『爆弾』製作委員会
特筆すべきショットもいくつもありました。僕がハッとしたところを、2つ挙げておきます。まずは、序盤、染谷将太演じる等々力刑事と警視庁からやって来た頭の切れる山田裕貴演じる類家刑事の最初のやり取り。ふたりは捜査本部の外で短い立ち話をして、山田裕貴は本部へ戻ります。カメラは本部側、室内に据えられていて、ガラス扉の向こうに染谷将太が立っているのを捉えているのですが、山田裕貴が通った後に扉が揺れているので、ガラス越しの染谷が微細に揺らいで見えるんです。これによって染谷演じる等々力の心の揺らぎと、これから起こるだろう出来事の不穏な予兆を表現していました。

[c]呉勝浩/講談社 [c]2025映画『爆弾』製作委員会
続いては、細かい描写は避けますが、スズキが話していたエピソードのひとつが嘘だと判明する場面。映像はあたかも「こういうことがありました」と再現VTRのごとく展開していたのですが、実際には再現でもなんでもない作り話だということを、その映像内のたったひとつの小さな動きと視線のみで表現し尽くしていたことには、目を見張りました。あれは映画でないとできないうえに、なかなか思いつかない見事な演出でした。

[c]呉勝浩/講談社 [c]2025映画『爆弾』製作委員会
といったように、微に入り細を穿つキャラクター造形とそれを体現する俳優たちの演技、物語内で起こる事件の計画性に匹敵する緻密な脚本構成、丹念に考え抜かれた映像演出によって、少なくとも今年屈指の上質なエンターテインメント大作になっています。笑ってはいけないと思いながら不覚にも笑ってしまうセリフも結構あります。「嫌味が咲き誇っています〜」というスズキの言葉につい声を出して笑ってしまいました。と同時に、特に物語の終盤、事件の全容がある程度見えてきたところで、理屈としてはわかるけれど、現実問題としてこんなことがそれだけの時間で仕組めるものだろうかという疑念が浮かんだことも事実です。特にミステリー好きの観客なら、そうした穴は他にも見えてくるでしょう。でも、そうやって垣間見える穴を間髪を入れず繰り出す次の展開で覆い隠す勢いがこの映画にはあるので、僕はあまり使わない言葉ですが、あえて使えばジェットコースター的な面白さがあるから最後まで熱が冷めないんです。

法廷占拠 爆弾2

原作には、去年出版された続編があります。そう、この映画も終わってもモヤモヤする余韻が上手に残してあります。これだけ高いレベルの映画化で、興行的にも批評的にも成功しているわけですから、僕も続編が観たいです。原作の続編『法廷占拠 爆弾2』は、迷わず買ってしまいました。読みながら、映画の続編を待つことにします。ものすごく求心力のある映画なので、映画館で集中して鑑賞するのが最善の策ですよ!
おいおいおい、これ最後、どんな気持ちになったら良いんだ。そんな強烈な余韻に覆いかぶさってくるのが宮本浩次が担当したこの主題歌です。

わたしは目撃者 [Blu-ray] 恐怖 ダリオ・アルジェント自伝

ところで、スズキタゴサクが冒頭で提案する「9つのしっぽゲーム」。山田裕貴演じる類家刑事は、検索してもそんなゲームは出てこないって言ってましたが、僕はダリオ・アルジェントの映画『わたしは目撃者』を思い出しました。あれ、オリジナルタイトルが「9尾の猫」なんですよ。オマージュ? 関係ある? ない? 答えは藪の中であり、風の中です。

さ〜て、次回、12月1日(月)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『金髪』です。岩田剛典演じる未熟な中学校教師が、生徒たちの金髪デモに振り回されながら成長するシニカルなドラマ…。き、金髪、デモ!?  この強すぎるワードで一気に興味が湧いてきましたよ。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!



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