FM COCOLO CIAO 765 毎週月曜、11時台半ばのCIAO CINEMA 9月15日放送分
映画『ヒックとドラゴン』(2025)短評のDJ'sカット版です。

バイキングたちが暮らすバーク島。時折襲来するドラゴンたちに悩まされていて、人間たちはいつかドラゴンの巣に攻め込んで全滅させたいと考えていました。族長で「かしら」と呼ばれるストイックの息子ヒックは、父のような立派なバイキングになりたいと願っているものの、身体の線は細くドジなところがあり、周囲からは戦士に向いていないと考えられています。一方で発明が好きなヒックは、ある日、自分の作った投石機で凶暴と言われるドラゴンのナイト・フューリーの撃墜に成功。とどめを刺そうとしますが、弱った姿とその目を見て実行に移せず、むしろそのドラゴンにトゥースと名づけ、人間とドラゴン、ヒックとトゥースの秘密の交流がスタートします。
2010年に3Dアニメとして公開され、評価も高かった物語をベースに、脚本も監督も同じディーン・デュボアが手掛けました。主人公ヒックを『ブラック・フォン』でイーサン・ホークと共演していたメイソン・テムズ、父親でバイキングの「かしら」ストイックをジェラルド・バトラーが演じています。撮影監督は、『マトリックス』シリーズや『ベイビー・ドライバー』で知られるビル・ポープが起用されています。
僕は先週金曜日の午前中、MOVIX京都で吹き替え版を鑑賞してきましたよ。それでは、今週の映画短評、いってみよう。
『ヒックとドラゴン』は、もともとはイギリスの児童文学でして、日本でも全12巻で訳が出ています。それぐらい長大で、枝葉の広がっている原作があるので、アニメのTVシリーズ化もされていて、Eテレで放送されたりしていましたが、今だとNetflixでまとめて見られるものがシーズン6まであります。ただ、欧米と比べて日本での知名度が高いかと言われれば、名前こそ知っていても作品は見たことないという人が結構多い印象です。その証拠に、今回の実写版が直接のベースとしている2010年の劇場アニメは3部作でいずれもアニー賞やゴールデン・グローブ賞で高い評価を得ているにも関わらず、2が日本で劇場公開されなかったんです。それが故にと言うべきか、公開初週の観客動員ランキングでは6位にとどまっています。鬼滅や『8番出口』や『国宝』といった強敵がいるので、僕はこれでも大健闘かなと思いますし、声を大にして表明しておきたいのは、原作もの、シリーズものだからと臆することなく、前知識ゼロの状態でここからバイキングとドラゴンの世界に入ってまったく問題ないですし、この実写版を観ることで、アニメの映画やTVシリーズ、あるいは原作小説へとハマる人も多くなるでしょう。それぐらい、クオリティーが高いし、作品に流れるテーマやメッセージは2025年の世相にピントが合っているので、僕は強く鑑賞をオススメします。
原作に惚れ込んでいるのは、監督・脚本を務めたデューン・デュボア。この人は元々はディズニーに在籍していて、こちらも今年実写版がヒットした『リロ&スティッチ』の生みの親でもありまして、『ヒックとドラゴン』の劇場アニメ3部作もすべて手掛けていて、要するにアニメの人なんです。だから、これが実は実写映画初監督。ディズニーが先導する形でブームになっている「実写映画化」の企画を受けて、アニメ版のハートが失われるようなことになってほしくないと、自ら立ち上がり、初めてのライブ・アクション演出に向けて、達者なベテラン撮影監督のビル・ポープを仲間にいれることで圧倒的な迫力をものにしました。僕は今回アニメ版もU-NEXTで遅ればせながら鑑賞して確認しましたが、基本的に同じストーリーです。ただ、実写版は尺が30分ほど長くなっています。その分、冗長な部分があるのじゃないかという懸念は見事に払拭されていますよ。アニメ版1作目から15年経ったということで、より現実世界に即したアップデートが施されている他、各エピソードに厚みと奥行きを与えていますし、フェロー諸島、アイスランドなどでのロケーションによる本物の大自然の中をキャラクターが飛び回る迫力を考え合わせれば、意義のある30分なので、これが初『ヒックとドラゴン』という人はもちろん、アニメ版のファンも納得どころか興奮の実写化です。ドラゴンたちのCGはジュラシック・シリーズのそれに匹敵するレベルだし、バイキングに扮した俳優たちの衣装もメイクもアニメ版に忠実でありながら、ちゃんと実在感があります。「かしら」のストイックを演じたジェラルド・バトラーなんて、実際より3倍近い大男の迫力を出すために、総重量40キロの衣装を着用して撮影に臨んだということらしいですよ。まさに気合十分ですね。

ドラゴンという架空の生き物が大きな魅力となっているので、ポケモン的な印象も受けますが、僕が鑑賞して感じたのは、このシリーズのドラゴンというのは、モンスターというよりも野生動物のメタファーとして機能していることです。日本だと最近はクマと人間の共生が問題となっていますよね。そこに重ねることもできます。同時に、長い歴史を通して互いに大きな被害を受けてきた民族の対立を重ねることができるようになっています。リベンジ、復讐、報復以外の選択肢はないという状況をいかに脱することができるのかというテーマもはっきりとあります。この作品における人間たちは、自らをバイキングと呼んでいるように、中世北ヨーロッパのあのバイキングがモデルではありますが、舞台となっている物語内のバーク島に住むバイキングたちは、単一民族ではなく、世界各地から集った人類の精鋭部隊といった雰囲気で、民族的な多様性があり、ポリコレに配慮したという背景もあるだろうけれど、ドラゴンという人類共通の敵に立ち向かうことで一致している状態と考えればすんなり受け入れられます。ただし、その分、この島の人たちは好戦的でマッチョです。「かしら」たち戦士を中心にしたヒエラルキーがあることもうかがえます。そこに、ヒックという思春期の少年の存在が一石を投じるわけですね。彼は、当初こそ自分もただただ強くなって社会に貢献したいという考えでしたが、力は弱いし、やさしさや臆病さが仇となっていました。ところが、そのやさしさや知識欲、実験精神を武器に、既存の価値観を転倒させ、憎悪や恐怖を克服することで長年の負のスパイラルにくさびを打ち込み、その隙間から光を招き入れていきます。同時に、それぞれの立場や世代の成長物語でもあり、恋愛のスパイスも軽くまぶしてある。ゲーム的な楽しさもあれば、傷を負った動物や人間への配慮という点で身体障害者の社会への包摂を描いていることも重要です。

デュボア監督は、撮影初日にキャストやスタッフを集めてこう宣言したそうです。「興行的にヒットする映画になるかどうかはわかりません。でも、私はこれを、みんなが誇りを持って家族に見せられるような映画にします」。出来上がった作品は、見事その通りになっているし、僕も自信を持ってオススメしますよ。続編の制作も決まっているということで、この実写化によって日本でもファンの裾野が広がることを願っています。
今回は主題歌はありません。そこも攻めているなと感じたところ。なので、15年前のアニメの主題歌を聞いてください。ヨンシーの起用は、やっぱりアイスランドのイメージですかね。

