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『入国審査』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週月曜、11時台半ばのCIAO CINEMA 8月18日放送分
映画『入国審査』短評のDJ'sカット版です。

バルセロナからニューヨークへとやって来たディエゴとエレナ。アメリカで永住して就労もできるグリーンカードをエレナが抽選で取得したことをきっかけに、パートナーのディエゴと新天地を夢見て入国する手筈です。ところが、入国審査で別室に連れて行かれたふたり。密室での尋問が始まります。理不尽な詰問を浴びせられる中、エレナはディエゴに疑念を抱くようになります。
 
監督・脚本は、アレハンドロ・ロハスとフアン・セバスチャン・バスケスというベネズエラ人のふたりで、バスケスは撮影監督も兼任しています。ディエゴとエレナを演じたのは、それぞれにスペインで数々の俳優賞を受賞しているアルゼンチン生まれのアルベルト・アンマンとブルーナ・クッシ。
 
僕は8月6日水曜日の夜、MOVIX京都で鑑賞してきましたよ。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

とてもシンプルなドラマです。僕が10数年ラジオで短評してきた500本以上の映画の中でおそらく最もミニマル。撮影期間は17日。製作費は65万ドルですから、今のレートで9500万円ほど。尺は77分です。本作は、この低予算ということを逆手に取った、ワンシチュエーションならではの工夫を凝らすことで、最大限の成功を収めています。観ている時も面白いけれど、鮮やかな幕切れで観終わってから考えさせるお土産も与えてくれるという痛快な1本です。

© 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE
ディエゴとエレナは、幸せそのものという感じでバルセロナを出発します。全体が短い尺なので、物語のセットアップもサクサク進めていますよ。とっとと空港行きのタクシーに乗り込んだら、エレナは親に電話をして、あくまで説明的ではない会話で、これが永住目的の移住であり、不安もあるけれどワクワクのほうが勝っていることや、家族関係が良好であることがすんなり伝わります。ただ、少々うっかりしている様子なのがディエゴで、ここに来て「パスポートはどこに入れたっけ」なんてわからなくなる始末でして、一度タクシーを止めるなんてことも。このディエゴは、嬉しそうなんだけれど、不安がつきまとうのか、どうも落ち着かない様子。目は泳いでいるし、時折、持病があるのか謎の液体の薬らしきものをスポイトで口から服用しているんです。ニューヨークの空港に着いてもそうです。やれ、税関の書類はどこだペンはどこだと、鈍臭いこと言っているところへ親切にもペンを貸してくれたのが、同じ便に乗っていたスペインのビジネスマンです。ペンを返すのは、「審査を通過した後で良いですよ。ごゆっくり」なんて言ってくれるんですが、結局のところ、そのペンを彼に返すことはできなくなります。なにせ、入国審査で引っかかってしまうわけですからね。

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ここで、さり気なくも演出が巧みなのは、このビジネスマンに「カタルーニャ語が上手ですね」と言わせていること。ここで観客に、ディエゴがスペインのカタルーニャ語圏出身ではないことをさり気なく提示しているんです。これは豆知識ですが、ふたりが暮らしていたバルセロナを州都とするカタルーニャ州では、学校教育でもカタルーニャ語がメインで、スペイン語は外国語のような位置づけです。つまり、ディエゴは少なくともバルセロナ出身ではないと観客にも広く伝わるんですね。言語もこの作品では重要な役割を果たしていまして、この後、ふたりは尋問を受けるわけですが、まず担当する審査官がなんとスペイン語を話せる女性なんですよね。だから、ふたりは内緒話も禁じられる状況になっていきます。こんな風に、この映画は情報の出し方が上手いです。少しずつ、過不足なく、適切な量の情報と新たな謎を観客に示すので引き込まれます。会話劇として、良くできているんですね。ワン・シチュエーションということもあって、極めて演劇的だし、実際に演劇にも脚色できると思うのですが、大雑把に言って、物語が進むにつれて、ふたりがどんどん閉鎖的な環境に物理的にも心理的にも追い込まれていく視聴覚的な仕掛けはしっかり映画的で、これが国際的な長編初監督とは思えない手腕です。

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乗ったが最後、ゴールまで途中で下りられないジェットコースター型の映画だけにネタバレに気をつけて、テーマのことを話します。もちろん、ここで言っているゴール=物語的帰結は、ふたりがアメリカ合衆国に入国できるのか否かなんですが、途中から別のテーマも浮かび上がってくるのが面白いところ。それは、人生の伴侶、人が誰かを愛する時、相手の過去をどこまでどれほど知っている必要があるのかという問題です。これは、とても普遍的ですよね。そして、少なくとも正当な手続きを経て入国しようとしている人のことを、国家権力がどうしてそこまで踏み込めるのかということも当然考えさせられます。僕も途中からディエゴのことが何度も信じられなくなって、むしろ審査官たちの尋問が人生相談に思えてくる瞬間があったことを認めます。でも、人生相談は権力を笠に着た高圧的なものであってはならないですよね。そう考えると、やはりこんなのは本来越権行為なはずなんです。そして、浴びせられる質問の数々は、国籍や育った環境、ひいては結婚と事実婚に象徴される個人的な価値観への偏見に基づいたものであることもわかります。

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冒頭でトランプ大統領がメキシコ国境に壁を建設する意向とのニュースが挿入されていることからもわかるように、これは分断に対する問題意識から生まれた映画であることは明らかですが、この理不尽な尋問の大きな問題は、正当な手続きを経ているカップルの間にも壁を生み出してしまうことです。僕たち観客が持ち帰るお土産は、こうした国家権力の暴走についてと、ディエゴとエレナの今後について想像すること。77分という尺から容易に想像できるかと思いますが、この映画は幕切れこそ肝で、それは極めて鮮やか。ラストショットのふたりの顔がそれを何より物語る、見事な演技でした。監督たちの実体験に基づいた脚本のようですが、ぜひともこれからもその映画的手腕を発揮して、それぞれに成功してほしいと心から願う快作でした。
 
映画の中で、この曲が実は2度使われます。1回目と2回目では、意味合いが全然違うんですよ。そんな選曲のセンスも良し。

さ〜て、次回、8月25日(月)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『ChaO』です。これが当たったら、CIAOでChaOを短評か。なんて言ってたら、本当に当たりました。アンデルセンの「人魚姫」をベースに、STUDIO 4℃がどう仕立てたのか。劇場へ出かけチャオ! さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!



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