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『MELT メルト』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週月曜、11時台半ばのCIAO CINEMA 8月4日放送分
映画『MELT メルト』短評のDJ'sカット版です。

ベルギーの首都ブリュッセルに暮らす30がらみの女性エヴァ。カメラマンのアシスタントをしながら生計を立てていますが、親しい友人も恋人もおらず、妹との付き合いはあるものの、両親とは絶縁状態です。ある日、エヴァが少女時代に亡くなったヤンという少年の追悼イベントの案内がFacebookから届きます。それを機に、13歳の頃の忌まわしい記憶を思い出していくエヴァは、淡々と故郷の村へと帰る準備を進めていきます。
 
監督と共同脚本は、これが初監督作となる俳優のフィーラ・バーテンス。彼女が同じタイトルの原作小説を受け取り、自分で映画にしてみないかと製作陣に打診されました。13歳のエヴァを演じたのは、これが長編映画デビューとなるローザ・マーチャントで、2023年のサンダンス映画祭でベストパフォーマンス賞を獲得しました。大人のエヴァは、ダルデンヌ兄弟の作品『トリとロキタ』に出演していたシャルロット・デ・ブライネが担当しています。
 
僕は先週木曜日の夜、アップリンク京都で鑑賞してきましたよ。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

監督デビューを果たしたフィーラ・バーテンス。彼女は俳優として輝かしい経歴の持ち主ですが、演出が初めてとは思えないほど、脚本の構成も画面の構成も、監督業が既に板についたような作品になっていました。
 
物語は、孤独な都会暮らしの現在のエヴァが13歳の頃を断片的に思い出すことで進んでいきます。現在と過去が行ったり来たりするわけですね。なぜ彼女は誰にも心を開かないのか。どうやら少女時代に何かあったらしい。この映画においては、語り手がいるわけではなく、エヴァの視点で出来事が少しずつ提示されていくので、彼女の身に何があったのか、そして今何を考えているのかという謎が観客の興味を引っ張ることになります。ひとつひとつの短いシーンが過去の忌まわしい出来事の全体像を形作っていく中、大人のエヴァがその過去をどう清算しようとしているのか、あるいは決別しようとしているのかがだんだんわかってきて、気づいた時にはもう止められない事態に突入していく。過去の記憶と現在の計画。その因果関係がはっきりするのはラストまで待たなければならないところに、僕は脚本構成の妙があるとみています。はっきり言って、やるせないし、もどかしい。観客は探偵の役回りで与えられたピースから謎を推理していくんですが、それが解けた時にはもう手の施しようがない状況になっているんですね。もう一歩踏み込んで話すと、現在のエヴァは、ブリュッセルの自宅に大きな業務用製氷機を持ち込んでいて、少しずつ大きな氷の塊を作っているんです。その氷が文字通り「メルト=溶ける」タイミングと謎が解ける時というのが重なるんです。最後のシーンなんて、とても美しいんです。美しい分、悲しみは何倍にも膨らみます。

©Savage Film – PRPL – Versus Production-2023
もうひとつ、脚本と同時に映像においても重要なポイントとして、現在は冬で過去は夏と、季節も交錯させていることを挙げておかねばなりません。大人のエヴァを取り巻く光はとても弱く、画面はいつも薄暗くて彼女はいつも服を着込んでいます。まるで鎧のように。一方、13歳のエヴァにはまばゆい光が降り注いでいて、水着姿で無邪気に水と戯れます。タレントのYOUさんが本作に寄せたコメントが僕は見事だなと思ったので引用しましょう。「あの頃って、とにかく眩しかったみたいに言うけれど、その眩しい光の影といったら、漆黒で残酷で怖かったんだ」。思春期というのは、確かに季節に喩えるなら夏かもしれない。輝いているものと一般的には言われるかもしれない。でも、強い光はどす黒い影を容赦なく生み出すもの。そして、30前後というまだ若いエヴァを凍てついた冬の世界に閉じ込めてしまうことになる…。

©Savage Film – PRPL – Versus Production-2023
この季節のコントラストに加えて、水や氷に代表される液体をあちこちに登場させる演出も効果的でした。ワインや血もここに含まれます。さらには、カメや虫がひっくり返ってもがく様子というのも、ここぞというところで、でも、あくまでさり気なく挟んでいましたよ。
 
ここまで、少女エヴァの置かれた環境や起きた出来事には注意深く触れずに話してきました。既に観ている人にとってはこれで十分だろうし、観ていない人には、小出しにされる謎のヒントを先に頭に入れない方が映画体験としては良いかなという判断です。具体的なエピソードは脇へ置くとして、この悲劇が内包するテーマには触れておきます。それは、小さな村の閉鎖性、思春期の残酷さ、集団心理のおぞましさ、育児放棄など親と子どもの関係、女性の置かれた立場など多岐にわたります。13歳のエヴァは、当然まだまだ半人前なわけで、自分の身体の成長に戸惑い、周囲の友人たちの変化についていくのがやっとのウブな存在です。本来なら、家庭の中で、地域の中で、その小さな世界の中で、守られるべき存在です。ところが、様々な原因で彼女は救いの手や居場所を失っていくんです。それが、たまらなく辛い。探偵役を担うことになった観客ですが、残念ながらスクリーンの向こうに手を伸ばすことはできません。ただ、映画館の暗闇に明かりが灯って戻ってきたこの現実世界においては、僕たちは手を差し伸べられるはず。そんな余韻に僕は包まれました。

©Savage Film – PRPL – Versus Production-2023

実は、監督は僕と同い年なんです。エヴァは幼馴染と一緒に三銃士というチームを組んでいるんですが、劇中では93年の映画『三銃士』のポスターが貼られていたり、2002年のヒット曲ラス・ケチャップの『アセレヘ(ケチャップ・ソング)』がかかったりと、見事に自分の若かりし頃の記憶もくすぐられました。安っぽい言葉ですが、青春の光と影に思いを馳せるとともに、大人として人とどう向き合うべきか、どんな手を差し出せるのか、考えさせられる佳作でした。原作小説の脚色の仕方に、もう少し他の手があったんじゃないかと気になるところというか、明かされていない謎がどうしても残る部分とかツッコミもあるっちゃありますが、フィーラ・バーテンスさんは監督としての手腕が間違いなくある人なので、彼女のこれからにも期待が生まれたのが、もうひとつの収穫でした。

エンド・クレジットとともに、この英語の歌が流れてくるんですが、歌詞の対訳が字幕で出ます。主人公エヴァは自分の心の内を語る人ではないんですが、最後にこの歌が代弁しているようでした。サントラを担当したビョルン・エリクソンとベルギーの歌手ブランシュです。

さ〜て、次回ですが、来週11日が特番編成でCIAO765がお休み(僕はその特番を担当するので休みではないのですが…)になるため、8月18日(月)となります。お盆明けに評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『入国審査』です。子どもの頃から、何度やっても、あの入国審査ってやつが苦手です。何もやましいことはないのに、なんだか緊張するんですよ。幸い、別室に連れて行かれたことはないんですが、それでもいつもビクビクしてしまうんですから、この映画に果たして僕が耐えられるのか、試してきます。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!



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