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『サスカッチ・サンセット』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週月曜、11時台半ばのCIAO CINEMA 6月2日放送分
映画『サスカッチ・サンセット』短評のDJ'sカット版です。

北米と思しき奥深い山の中で暮らす4頭のサスカッチ。ボスと思しきオスとつがいのメス、その子ども、そしてもうオスがもう1頭。食料を調達し、交尾をし、遊び、寝床を作って眠る。そうした営みを繰り返しながら季節を越え、あてどなく森から森へと移動する。

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製作、監督、脚本は、菊地凛子を主演に迎えた『トレジャーハンター・クミコ』など、アメリカのインディー映画で存在感を放ってきたデヴィッドとネイサンのゼルナー兄弟。ネイサンはボスのサスカッチとして出演もしています。また、正直ほとんど本人とはわかりませんが、ジェシー・アイゼンバーグやライリー・キーオも出演しています。また、製作総指揮は、『ミッドサマー』などのアリ・アスターが務めています。
 
僕は先週木曜日の夜にテアトル梅田で鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

何から話せば良いのか困るっていうくらいに、不思議だし、戸惑うし、唖然とするし、笑えるし、なんだかわからんが心を動かされもしてしまうという、あまり類を見ない作品です。あれっぽい映画って有名な作品を挙げて説明するのが難しいので、順を追っていきますね。
 
まずジャンルですが、サスカッチという未確認生物UMAの生態を1年間つぶさに記録したドキュメンタリーの体をなしているフェイク・ドキュメンタリー、いわゆるモキュメンタリーということになります。サスカッチよりも、ビッグフットと呼ばれる方が多いとは思いますが、北アメリカ大陸の山の中に、やれ巨大な足跡を見つけたとか、60年代後半にはその姿が撮影された荒い画質のフィルムが出回って、日本のテレビでも紹介されたとか、要するにツチノコ的なものですね。監督のゼルナー兄弟は、そんな真偽のわからない映像に子どもの頃魅了されたそうで、世界中にいるUMAファン同様、その謎そのものという存在に夢中になっていきます。そして、調べてみると、雪男だとかなんだとか、世界のあちこちにサスカッチと似たような伝説があることにも気づく。実際、日本でもかつてオカルトブームがあったように、それこそ世界中でこうしたUMAを探し出したり捕獲したりするような物語や映画が作られはしています。ただし、いるかどうかもわからない妖怪的な、あるいは進化の過程でホモ・サピエンスと枝分かれした類人猿のような、そんな生態の検証どころか姿形も確かめようのない生き物をドキュメンタリーにするという発想がまずどうかしていますよね。

© 2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved.
ただ、このモキュメンタリーがまたさらにどうかしているというか、他に類を見ないのが、ナレーションがないこと。被写体が何しろ言葉を話さないので台詞がないこと。テロップもない。出てくるのは、4章構成の季節の文字だけ。映し出されるのは、お世辞にも美しいとは言い難い、スター・ウォーズのチューバッカのできそこないみたいな見かけのサルたちの暮らしです。そこに人間的な価値判断の入り込む余地がないくらいに、とにかく説明はありません。何も足さない。あるがままの自然主義的なアプローチで、語り手がいない神の視点のような構成にしてあるので、映画の中の世界がどうなっているのか、下手すりゃ、これ地球じゃないのかもしれないとすら思いますが、鹿とかアルマジロとか、蛇、カタツムリ、魚などなど、地球に現存する動物は出てくるので、地球なんだとわかる感じ。

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そして、次の疑問はこれです。ここに人間はいないのか。これはネタバレにはならないというか、この映画におけるネタバレとは一体何なのかもよくわかりませんが、人間はいます。というか、いるようです。いるはずです。なぜなら、人間の痕跡、人工物が出てくるから。監督たちが実際に参考にした、観客も思い浮かべる『2001年宇宙の旅』のプロローグでは、人類の進化の過程が表現されていました。そして、モノリスという人知を超えた黒い石板のようなものを発見しますね。そんな調子で、舗装道路であるとか、テントなどのアウトドア用品なんかを発見します。ラジカセや音楽にも接します。ただし、人間の姿というのは、劇中一度も出てきません。これが『サスカッチ・サンセット』最大の特徴にして仕掛けかもしれないです。普通は人間を出しますよね。人間そのものはあくまで不在なんです。となると、もはやサスカッチにとって人間がUMAであるかのような逆転構造が見え隠れするんです。サスカッチが驚いたり怯えたり恍惚としたりという様を僕たち人間が観察する。つまり、サスカッチを通して、僕たちは人間について考えることにもなってくるんですよ。

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彼らの暮らしは、むき出しの野生です。お腹が空けば、手当たり次第にむさぼり食うし、排泄して、交尾をする。その行動はどれも人間がするものだけれど、サスカッチのそれらは人間の僕らからすれば下品です。品がない。滑稽ですらあります。でも、猿そのものかと言えば、そうでもない。たとえば、星の数を数えようとする描写が出てきます。埋葬という行為もあるようです。棍棒で木を叩いて仲間を探すような行動、儀式のようなものもある。見ていると、不思議とサスカッチが愛おしくもなるんですよ。意味の押しつけはないのだけれど、僕たちは映画を観る習性として意味付けを行うんですよね。そこで浮かび上がってくるのは、人によって随分違うことでしょう。家族について、文明について、自然との関係について。そして、究極的には、いるかどうかもわからない、いない可能性のほうが高い伝説的な生き物をこんなにも夢中になって想像し、リアル過ぎる着ぐるみと特殊メイクを創造し、スター俳優がCG処理一切なしにヘトヘトになりながら過酷な撮影に臨んでいるというこの未知なるものへの人間の情熱についても考えますよ。

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結果として、これだけは保証します。忘れがたい映画体験です。観てしまえば、忘れることなんてできないしょう。「面白いよ」って誰にでも伝えて回るような映画ではないかもしれないけれど、これは病みつきになる人も一定数必ず出てくるカルト作です。映画が終わって、館内が明るくなって、僕のわりと近く鑑賞していた女性はグッズ売り場へ飛んでいってTシャツを買い求めていました。あれはきっと2度目3度目の鑑賞じゃないかしら。僕にはそこまでの熱気はないけれど、2025年に『サスカッチ・サンセット』を観たことは一生忘れないでしょう。僕は今静かに考えています。サスカッチにあの後サンライズは訪れるのだろうか。そして、人類は今サンセット、黄昏に向かっているのか。それとも、またサンライズは来るのだろうか。ぜひ、あなたも劇場でご覧ください。
 
この映画はノンバーバルでまるでサイレントのようでしたが、かつてのサイレント映画には映画館でミュージシャンが音楽を添えていたように、こちらにも音楽はあります。手がけたのは、テキサスの実験的なバンドThe Octopus Projectです。歌っているのは、メスのサスカッチを演じたライリー・キーオという主題歌The Creatures of Natureをオンエアしました。

 

さ〜て、次回、6月9日(月)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『秋が来るとき』です。おかしいなぁ。来週はサンクス・ウィークでもあるし、リスナーもみんな観たいだろうからと『ミッション:インポッシブル』を6本中3本にしておみくじを引いたってのに、インポッシブルでした。でも、良いんだ。だって、フランソワ・オゾンの新作だもの。観よう、観ようぞ! さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!



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