FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 3月25日放送分
映画『ドマーニ!愛のことづて』短評のDJ'sカット版です。

1946年、5月。ローマの下町にある半地下に暮らす中年女性デリアは、何かにつけて暴力を振るう夫、意地悪な寝たきりの義父、そして子どもたちの世話をしながら、複数の仕事を掛け持ちして、家を切り盛りしています。キリキリ舞いの毎日の中で、ちょっとした息抜きは、市場で働く友達のマリーザや自動車整備士のニーノといった仲間とお喋りをするくらい。そんなある日、年頃の娘マルチェッラは裕福な家の息子からプロポーズされ、デリアのもとに謎めいた手紙が届き、この一家に変化が訪れるようなのですが…。
監督、共同脚本、主演を務めるのは、これが監督デビュー作となる人気俳優のパオラ・コルテッレージ。夫のイヴァーノには、『おとなの事情』などイタリアを代表するヴァレリオ・マスタンドレアが扮しました。2023年のイタリア国内興行収入ランキングでは、『バービー』や『オッペンハイマー』を凌ぐ堂々の1位を記録し、イタリア版アカデミー賞のダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞では19部門にノミネートして、主演女優賞、助演女優賞、新人監督賞、脚本賞を獲得する快挙となりました。
僕は去年のイタリア映画祭の試写と、今回の全国一般公開のためのメディア試写で鑑賞してました。先週木曜日の京都シネマでの上映ではトークショーも行いまして、ありがたいことに満席となって盛り上がりましたよ。それでは、今週の映画短評、いってみよう。


そんなキャリアを経て、ついに彼女が自分でメガホンを取ることになった。意外だったのは、第二次世界大戦直後の貧しさと混乱に満ちた時代を描いたこと。基本的には現代の社会の歪みや落とし穴を描いてきた彼女が、どうしてそんな昔の話を作ったのか。彼女はこの疑問にこう答えています。「祖母や叔母、両親から聞いた話には、喜びと哀しみ、面白さと悲劇が入り混じっていました。彼らが目にしてきた人生には、親族や近所の人々、路地裏の子どもたちの物語がありました。その中で、女性たちはしばしば”当たり前”として受け入れざるを得ない抑圧に直面していました。この物語では、そんな女性たちの絶望と、その中に芽生えた小さな希望を描きたかったのです」。この発言に僕なりに補足を加えるなら、今に続く民主主義国家イタリア共和国の原点としての1946年をきちんと描くことで、それから今日までの歩みと今もって克服できていない社会の問題を過去から照らし出そうという意識がこの作品には息づいています。

首都ローマの集合住宅の中庭や広場。そこに集う老若男女のバイタリティ。不屈の精神とたくましさ。でも、それは単純に懐かしいなと思うようなものではなく、たとえば主人公のデリアも家庭を切り盛りするためにいくつも賃金の低い仕事を掛け持ちし、子どもたちの世話をし、介護もしながら、あろうことか家庭内での夫からの暴力も甘んじて受け入れている。彼女には自分の時間もない。ただただ、馬車馬のようにして働いている。それが彼女の世代のありふれた女性像だったわけですね。だからこそ、現代の観客たる僕たちは、デリアの幸せを願います。あの半地下の家を飛び出して、もっと自由を謳歌してほしい。そこに、かつて何かあったのかなかったのか、やさしい自動車エンジニアの男性が登場する。もう、いっそのこと、飛び出しちゃえよって、そんな生易しいものじゃないし、なにより息子がいる、娘がいる。特に娘は守ってあげたいのだけれど、代わりに守ってくれそうな金持ちのぼんぼんと仲睦まじいご様子。しかも、その娘からは「私はお母さんみたいになりたくないんで」なんて言われてしまいます。でも、そのあたりから人間関係の風向きが変わったり、強さが変わるようになって、デリアが何か企んでいるようなことがほのめかされ、あれよあれよと気づけばサスペンスな展開になって、まさかの爆破事件まで起きて、これどうなるんだというところで、これだけは言っていいでしょう、かなり驚きの展開と鑑賞後も尾を引く問題意識というのが観客と共有されることになります。パオラ、マジですごい! 映画というものをよくわかってる。カメラの画面サイズを比喩に使うとするなら、それまで寄りでクロースアップ撮っていた庶民の名もなき中年女性の話が、一気に引きのロングショットにズームアウトするイメージです。デリアのような女性はひとりじゃない。たくさんいる。そして、時代を越えて今のイタリアにも日本にも程度の差こそあれいる。パオラはそう訴えているわけです。生きづらさを抱えて、それを黙って受け入れるのは違う。そんな現代的な眼差しですね。

今のイタリアにもジェンダーの問題はたくさんあるし、DVの殺人事件も後を絶ちません。まったく褒められたものではないけれど、この作品に600万人の観客が集まり、データによれば45%が男性だったことは大いなる希望です。ちなみに、この作品を観た僕の母親は言ってました。「私は当時7歳だったし、住んでいたのもローマではなくトリノだったけれど、映画に出てきたあの日のことは、食べた料理まで覚えている」と。それがどんな日なのか、どんな出来事なのか、ぜひ劇場でご確認ください。モノクロだし、辛気臭い話に誤解されるかもしれませんが、映画の歴史をリスペクトした撮り方で、使っている音楽も実はいろんな時代のものをうまく混ぜています。その感覚も含めて、はっきり現代的な作品なんですよ。ちなみに、オリジナルのタイトルを直訳すれば、「まだ明日がある」。僕たちの明日を考えるためにも、ぜひあなたもご覧ください。パオラ、やったよ! Bravissima!!!
この曲は、2013年にリリースされたもので、タイトルの意味は、口をつぐんで。言葉を発しなくても、意見は表明できる。
さ〜て、次回なんですが、2025年4月1日から、CIAO 765は放送時間が変更になり、月曜から木曜、11時から15時までの4時間の生放送となります。それに伴い、いろいろとコーナーの整理などもありまして、CIAO CINEMAは火曜から月曜に変更します。ということで、短評は1週お休みとなり、次回は4月7日(月)の11時台に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『白雪姫』です。ディズニー渾身の実写化シリーズ最新版ということになりますが、賛否は割れているようですね。僕はどう受け止めることになるのかしら。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!
