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『ANORA アノーラ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 3月18日放送分
映画『ANORA アノーラ』短評のDJ'sカット版です。

ニューヨークのブルックリンでストリップダンサーとして働くアニーことアノーラ。勤め先のクラブで知り合ったイヴァンは、ロシアの大富豪の息子で、今は両親の持つブライトン・ビーチの豪邸でひとり暮らしを満喫中です。店の外でも会うようになった2人は、贅沢三昧の日々を過ごした末に、休暇を過ごしたラス・ヴェガスで勢い余ってとっとと結婚。その噂を聞きつけてカンカンになったイヴァンの両親は、離婚させるべく屈強な男たちを送り込みます。

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法(字幕版)

監督・脚本・製作・編集を一手に手掛けたのは、これが長編8本目となる、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』などのショーン・ベイカー。主役のアニーは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でも好演したマイキー・マディソンが演じました。また、イヴァンにはロシアの若手俳優として期待を集めるマーク・エイデルシュテインが扮しています。第97回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞編集賞と、最多の5部門を獲得しています
 
僕は先週木曜日の午後にMOVIX京都で鑑賞してきました。平日昼間にも関わらず、かなり入っていましたよ。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

アカデミー賞の作品賞ともなれば、映画ファンだけでなく、映画館には年に数回くらいは行きますよって人の選択肢に入ってくると思うんです。僕が観に行った回もそんな雰囲気があって、ピンクに彩られたポスターに若い男女がふたり写ってますから、シンデレラ・ストーリーのバリエーションぐらいのイメージだった人は、だいたいが冒頭の10分くらいで結構びっくりしたんじゃないでしょうかね。主人公の務めるクラブが、まぁ、なんというか、はっきりいかがわしくって、キャバクラどころの騒ぎじゃないんですよね。フロアとかボックス席もあるんだけど、別料金でしけこむセミオープンなソファーっていうか肘掛け椅子的なものがずらずら並んで間に申し訳程度のカーテンで仕切りがあるだけで男性と接客する女性のイチャつきを横方向に舐めるように見せていくカメラワークの映像で先制パンチを食らわせてきます。シンプルに品はないです。ま、ショーン・ベイカー監督の過去作の雰囲気とか舞台設定を承知していれば飲み込めるんだけど、知らないとびっくりするでしょうね。え、これが作品賞? あたし、スクリーン間違えた? ただ、そこからはもうショーン・ベイカーの手玉に僕らはもれなく取られていくことになるってくらい、彼は特にこの作品において編集が巧い! 編集も自分でやってるんですよね。

©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. ©Universal Pictures
アニーは、富豪のどら息子であるイヴァンに見初められて、彼の家、要するに店の外でも会うようになります。年齢も近いし、金はあるけれど英語がネイティブではないイヴァンにしてみれば、少しでもロシア語が話せるアニーとは他の女性とは違う気安さがあって、それはアニーも同様なんですよね。家に行くと本当に金持ちだってことがわかるし、その財力はそれはブルックリンで野良猫よろしく暮らす彼女にしてみれば魅力なんだから、あくまでお金でつながる店よりも一歩踏み込んだ、あるいは踏み外した性的な関係を結ぶことにはなるけれど、しだいに心も許しつつ、イヴァンの仲間や自分の友達も交えたパーティーやラス・ヴェガスへの旅行を通じてしっかり絆らしきものが芽生え、超駆け足にゴールインです。これが映画のお膳立て。ここまでは、どんどんシーンを変えながら、ふたりの距離が縮まり、1週間の契約ガールフレンド期間の間に積み上げた、濃密であり目まぐるしい、若気の至り全開の恋模様がぎゅぎゅっと詰め込まれています。そこまでが1幕。ここはショーン・ベイカーの編集力が物を言います。いわゆるジェットコースター状態です。

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で、2幕目。ふたりの電撃入籍がイヴァンのお目付け役であるロシア系のエリアに暮らすトロスの耳に入るんですけど、このトロスは昼はロシア正教会の聖職者で、よりによって洗礼式かなんか大事な行事に臨席している最中で、ふたりの強面の髭とスキンヘッドにスマホで司令を出すんです。そうとは知らないイヴァンとアニーは豪邸で旅の疲れを癒やすように、これからの新婚生活に思いを馳せている。髭とスキンヘッド、家に突入。慌てふためいてパニックになるイヴァンとアニー。このあたりから、1幕目にもちょいちょい見られた、丁々発止のセリフのやり取りと、間の抜けたドタバタ、おっかないやらバカバカしいやらのどうしようもないアクションシーンが展開するスクリューボール劇が始まります。ここからはむしろ、およそ24時間のグダグダでオフビートな会話と行動連発のロード・ムービーの様相を呈してきて、1ショットの持続時間が長いものも増えてきます。こうした映画内の時間と物語内の時間の伸び縮みの緩急もお見事なんですよね。だから、2時間20分もある作品ですが、決して長く感じることはありません。そして、繰り返しますが、これがアカデミー賞作品賞なのかという出来事の小ささに苦笑してしまうFワードの連発と、なんともこぢんまりした話に逆に笑えてきます。

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ただ、やっぱり尾を引くんですね。アニーは学はないかも知れないけれど、ここから人生が開けるかも知れないという一縷の望みが絶たれそうになったことで、あの手この手で食い下がるし、イヴァンはあの胡散臭いロシアの大富豪に生まれたことで人生を8割9割規定されているかわいそうな若者ではあるけれどやっぱりどら息子だし、トロスやその部下たちもそれぞれに不憫です。ここに、新自由主義の末路のような人生の悲哀がしっかり展開しています。その中で、きっと誰もが好きになるのが、スキンヘッドの強面、登場した時には明らかにサブキャラだったイゴールなんですよ。イゴールは少ないセリフながら、そして暴力を効果的に震える腕力があるのに、「能ある鷹は」方式でアニーをずっと観察しつつ、彼女とのねじれたバディのようになっていきます。そして、ラストの解釈が分かれるあの車の中でのシーン。雪の降りしきるニューヨークの路上に停車したオンボロな車でのアクションの流れに胸を締め付けられます。生まれた境遇や環境によってスタート地点がこんなにも離れた人間たち。アメリカン・ドリームなるものにしっかり欺かれた者と、虚しくとも灰色の現実を生きていかざるを得ない人生を好むと好まざるとに関わらず受け入れている者がそこにいました。ド派手な色が眩しいくらいに輝き、音楽が爆音で鳴り響いて会話もままならないくらいだったクラブで始まった物語は、色も音楽もなく、エンジン音と雪を拭き取るワイパーの音、ふたりの息遣いだけが聞こえるアニーの家の前で終わります。ショーン・ベイカー監督は、こうしてアメリカ社会のあり方をしっかり縮図にまとめてみせました。すばらしい作品でした。イゴールもアニーも、どうか心からの笑顔をまた見せてくれと思いながら、僕も静かに無音の映画館を後にしました。
 

この曲は、映画の中で2度流れます。基本的には、主人公ふたりの高揚感を演出する効果を果たしていましたよ。

さ〜て、次回2025年3月25日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『ドマーニ! 愛のことづて』です。僕が長年プッシュし続けていたイタリアの俳優パオラ・コルテッレージが、ついに自分で監督し、脚本も書き、主演も務めるという大車輪の活躍で、なんと観客動員600万人というイタリア映画史に残るヒット作をものにしてしまいました。自分のことのように嬉しいので、ホクホクで語ることにします。僕は公式パンフレットにも寄稿している他、3月20日(木)には、京都シネマでのトークショーも行いますので、ぜひおいでください。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!




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