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映画『サンセット・サンライズ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 1月28日放送分
映画『サンセット・サンライズ』短評のDJ'sカット版です。

コロナ禍に入りたての頃。南三陸の宇田濱町の役場に勤める30代半ばの女性である関野百華は、上司から町内に増える一方の空き家対策を命じられます。まずは自分がと、所有する4LDKの真新しい一軒家をすぐに暮らせる家具付きの状態で貸し出してみたところ、東京育ち実家ぐらしで、超大手企業に務める同じく30代の釣り好き西尾晋作が食いついてきました。コロナも状況がみるみる悪化しているから東京の人はお断りしようと思った矢先、晋作はしっかりその物件に住み着く気満々で南三陸へやって来ます。
 
原作は、楡周平の同名小説。脚本は宮城出身の宮藤官九郎。監督は、テレビ出身でドキュメンタリーも劇映画も手掛ける、『あゝ、荒野』や『正欲』の岸善幸が務めました。主役の西尾晋作を菅田将暉、その晋作に家を貸す百華を井上真央が演じた他、中村雅俊三宅健竹原ピストル山本浩司(ひろし)、池脇千鶴小日向文世松尾貴史などが出演しています。
 
僕は先週木曜日の昼、大阪ステーションシティシネマで鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

いやぁ、なんかもう、さすがは宮藤官九郎という感じがしましたね。細かいネタもあるんだけど、まとめ方がお見事なんですよ。尺は2時間20分くらいだから、ちょいと長めではあるんですが、長いとは感じない出来事の配置とクライマックスの持っていき方、そして余韻の作り方。もちろん、そこには宮藤官九郎と初タッグ、そしてなんなら初コメディ演出となった監督岸善幸の健闘があることは言うまでもないので、いくつか具体的なシーンを挙げて紐解いてみましょう。

©楡周平講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
まずもってコロナ禍の初めの緊急事態宣言が出るちょい前、冬の終わりに物語の起点があるのが絶妙です。その直前に井上真央演じる百華が勤め先の役場から事例があり、空き家対策を専門にやりなさいと言われたのは良いけれど、何から手を付けていいやら。そうだ、担当の自分が先陣を切って離れを賃貸に出すというのはどうだろう。ほぼ新築。4LDK、家具もついているわけだから、ポンとそのまま住み始められるという利点もある。ネットでの募集に登録したと、晩御飯の合間に軽く報告するのが、中村雅俊演じる父親。どうやら、ふたりは親子で、父親の家で2人暮らし。じゃ、なんで立派な真新しい離れがあるのか。そこはまだ推して知るべしという感じで、この時点でははっきり描かれません。町には妙に新しい道路などと百華の実家みたいな古くからの家どちらもある地方のまだらな風景がある。
 
そもそも地方からの人口流出、過疎化の問題があって、そこに311があって、また10年ほどしてコロナ禍が始まる。昨年の能登もそうですけど、被災地には日本の地方が否応なしに対応を迫られる問題が前倒して濃縮して押し寄せるものなんですよね。個々人と町の失われたものを復興していくにあたり、そっくり元に戻せばそれで良しというものではない。町のインフラや建物の再建といったハード面においても、人のつながりや仕事のあり方みたいなソフト面においても、これからのあるべき形をデザインしていかないといけないというところに、今度はコロナです。そして、釣り好きの晋作のような男がホイホイやってくるわけですが、彼が特に東北に思い入れも縁もあるわけではなく、リモートワークに良さそう、家賃が安い、海が近い、あこがれの魚釣り三昧だと釣りバカ日誌的な動機満載なんだけど仕事は仕事でできる様子のフラットさが今作の大きな魅力になっています。そういう人がやって来るのがコロナ禍のスタートと噛み合い、もともとあった地方の人が東京の人に対して持っている卑屈さみたいな心の壁がディスタンスを取らないといけない自主隔離期間2週間と重なる序盤は、それでも家を抜け出してこっそり釣りに出ちゃう晋作と地元民のおっかなびっくりな交流を描きつつキャラ紹介もしていくという見事な話題の種まきになっていました。

©楡周平講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
そして、そのうち交流を持つのが、地元の居酒屋の大将を中心とする、井上真央演じる「ももちゃんの幸せを祈る会」のメンバーたち。当然、晋作はメンバーに警戒されますよ。ももちゃんの離れに住んでる東京から来た奴なんて、おいおい、それは彼氏なんじゃないか。幸せを祈る会としては、どんなやつだ。どこで知り合った。ネットだと? 出会い系か。マッチングアプリか。もう同棲間近ってことか。火のないところに煙は立たぬとはいうものの、すっかり噂が大炎上。これも田舎あるあるという感じ。そんな中、もろもろのディスタンスをだんだんと文字通り縮めていく役割を果たすのが、南三陸の食の数々。竹原ピストル演じる飲み屋の大将が、これでも食ってみろ、食えるかこの野郎とばかりに出してくる品々に、晋作は舌鼓を打ってそのおいしさに悶絶して「これはもてなしハラスメントだ」と言うのは爆笑ポイントでした。そういった会話が南三陸の方言で行われるのも良いんですよね。「食ってみろ」は、「け!」とか、「こっち来い」は「こ!」とか、わずか一音での日常会話も楽しいです。自然と食と言葉。田舎の魅力と独自性が伝わる一連のシーンです。僕も食べたことありますが、ネズミザメの心臓であるとか、メカジキのハモニカ焼きとか、もちろん刺し身全般、牡蠣、タコなど、京都珍肉博覧会を不定期開催する僕としても興味津々で、今すぐ出かけたくなる感じで、これは映画鑑賞の予期せぬ収穫でした。

©楡周平講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
そんな一連の食のシーン、そして映画全体でも肝となるのが、東北独自の芋煮会。これはほぼ映画オリジナルの場面です。都会チームと地元チームが腹を割って話すには芋煮会だという東北ならではの場面ですが、どちらの思い込みにも肩入れせずにカラッと笑い飛ばしつつ、これまでの常識に囚われずに現役世代が未来を描いていくやり取りになっているところですよ。宮城出身で東京に長く暮らす宮藤官九郎の優しい視点が滲んでいました。感極まる場面で大勢が棒立ちで見守るという日本映画にありがちな演出が出ちゃったのは玉に瑕でしたが…
 
空き家問題にしたって、家族のあり方にしたって、そこで暮らして離れた人、そこで今も生きる人、そこに住んでみたい人それぞれの思いを受け止めて調和させていくために、百華みたいな地域をよく知る地元の人と、晋作みたいなフラットな考えのよそ者どちらも必要なんだとよくわかります。そんな若者ふたりを中心にした行動を受け止めて反応する役者の演技も忘れがたいです。ふたりを見守る漁師にして貸船をしている中村雅俊や、地元を離れて暮らす松尾貴史のふたりは特に名演でした。

©楡周平講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
夕日で始まって朝日で終わる意味。時折入るロングショットの効果的な使い方。笑いは間合いが大事だからと自ら編集も手がけた岸監督の手堅い演出も好感が持てます。日本の多くの地方にもトレースして考えられる未来のあり方を思い描けるエンターテインメントとしては出色の出来栄えでしょう。当たり前だけど、自分のいる狭い行動範囲ばかりが日本じゃないし世界じゃない。未知の場所への興味や関心の心の目を持つことが観客一人ひとりの人生も豊かにしてくれると思えた映画でした。
 
途中2度ほど、青葉市子の歌声が響くのがすばらしいんです。この曲がじっくりかかるところなんて、もう!

さ〜て、次回2025年2月4日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『劇映画 孤独のグルメ』です。なんかもう、食映画2連発になりましたね。ミニマルな設計だった物語がスケールアップするとどうなるか。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!



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