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『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 1月14日放送分
映画『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』短評のDJ'sカット版です。

2003年のカナダ、都市郊外の小さな町。主人公の高校生ローレンスは、不器用で社会と折り合いをつけることができず、本音をそのまま口に出してしまうことから、各所でトラブルを巻き起こしている映画オタクです。彼はニューヨーク大学で映画を専攻することを目標にしながら、少しでも進学の資金を貯めようと、地元のレンタルビデオ店でアルバイトを始めるのですが… 

©️2022 VHS Forever Inc. All Rights Reserved.
脚本と監督は、これが長編デビュー作となるチャンドラー・レヴァック。トロント国際映画祭で評価されたのを皮切りに、2023年のバンクーバー映画批評家協会賞では、カナダ映画の枠の中で、最優秀作品賞、男優賞、助演男優賞脚本賞の4部門を獲得しました。忘れがたい主人公のローレンスを演じたのは、アイザイア・レティネン。彼のことは覚えておきたいですね。
 
僕は先週金曜日の昼、アップリンク京都で鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

これ、監督脚本のチャンドラー・レヴァックさんは、女性なんです。彼女自身が経験したこと、かつての自分の痛かったエピソードなどもふんだんに盛り込まれているんですが、主人公は男子高校生です。つまり、わざわざ性別を変更しているんですね。これが功を奏しているし、この作品のテーマのひとつを考えるにつけ、とても大事な要素となっています。 
 
主人公のローレンスくん。彼がですね、実に主人公らしからぬ主人公なんですよ。ぽっちゃりしていて、お世辞にもおしゃれではなく、クラスの中心にいるタイプではありません。そういうキャラクターって、もちろん映画にはちょくちょく登場しますが、ローレンスくんは、クラスの中心にいないことを少なくとも表面上はまったく苦にしないし気にしていない。そして、何よりも、非常に弁が立つんです。1度喋りだしたら、もう機関銃のように言葉を放つタイプ。役者のアイザック・レティネンはラッパーという側面があるらしいので、それも納得の演技でした。要するに、扱いづらい奴なんです。高校の映画とかメディア論にまつわる授業風景が序盤に出てきますね。ローレンスはそこでもきっちりやらかしていて、先生から出された制作課題について興味が持てないからという理由で、それこそ先生はおろか生徒たちも興味が持てなさそうな自主映画を親友のマットと作って授業で披露します。このビデオがまた、いかにもMVにかぶれた感じで苦笑を誘います。あの時代の映画と音楽大好き少年が撮りそうなコマ撮りなんかも取り入れた実験映画風なんだけど、大多数がやはり興味を持てない中、唯一その場でその作品を「キュートだ」と褒めてくれた女子生徒がいるわけですよ。おっとこれは、この女の子も交えてローレンスにも仲間が増えるのかと思いきや、ローレンスくん、よせばいいのに、やれあのシーンは誰それへのオマージュだとかなんとか言って、君には理解してもらわなくて結構という態度を表明するという痛々しさ。人望なんてろくにないくせに、卒業に向けたクラスの思い出ビデオの撮影と編集すら「俺とマットのコンビでやりますんで。先生、ひとつ任せておいてください」って調子なんですが、構想がまずいまいちなんで編集作業も捗らないでいるところに、見るに見兼ねた相棒のマットが、例の女の子を助っ人に連れてきます。3人でやればきっと上手くいく。その通り! なはずなのに、ローレンスくん、映画史における凄腕女性編集者の名前をいくら出されても素直に認めず、2人を追い返してしまいます。
 

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こんな風に、一事が万事、彼はハッキリとマンスプレイニングの傾向があるんです。自信過剰で、知識をひけらかし、今言った女の子なんかが自分より無知だと決め込んで、相手を見下した態度を取るということ。一種のハラスメントですよ。この傾向が、周囲との溝を生むんだけれども、本人はどこ吹く風。このマンスプレイニングという行為や態度は、言葉の通り、男性に多いわけで、監督が主人公を女性から男性にシフトした理由はこのキャラクター造形にあると言えます。2020年代において、ありし日の映画をめぐる状況とそれにまつわるエピソードを懐かしむだけではダメという判断でしょう。親友と呼ぶべき、マットにも非常にぞんざいかつ不遜な発言をしてしまいます。

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そんなローレンスくんは、進路はここしかないと考えているニューヨーク大学に進学するにはお金が必要なんだと、自分の通っていたレンタルビデオ店でアルバイトを始める。そこの女性店長アラナが、実はI Like Moviesどころか、I Hate Moviesと言い切ってしまう人。彼女がその昔あこがれの映画業界で経験したことをローレンスくんに語って聞かせる名シーンがあります。あそこは、MeTooがあったからこそ生まれた見事な演出で、ローレンスは自分が美化してきた映画の裏側を知るとともに、自分が好きな分野でさえ、知らないことだらけだったと打ちのめされることになる。しかも、アラナからはナルシストと烙印を押されもする。

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もちろん、ローレンスくんもいきなりこうなったわけではないです。とある理由からシングルマザーに育てられたというトラウマもある。だからこそ、映画を観るという行為が、彼にとっての居場所であり、シェルターになった。ただし、映画を観るだけならまだしも、映画を作るのなら、自分がついつい見下してしまう他人とも仲間にならないといけません。つまり、人間的にもっと器の大きな存在に成長する必要がありますよね。そして、たとえ映画を作らないにしても、どんな仕事をするにせよ、いつまでも自分の小さな殻に閉じこもっているわけにはいかない。彼はそのことを、アルバイトや映画作りを通して、彼自身も傷つきながら、他人を傷つけながら、学んでいくことになる。だからこそ、例の思い出ビデオの上映には僕ら観客もグッと来るし、マットとの卒業アルバムでのメッセージ交換も味わい深くなる。そして何より、どことはここでは言いませんが、進学した先での映画の好みの変化と、それをもたらすことになるアラナ先輩の影響には、なんだか知らないけれど、観ているこちらも感謝の念を禁じ得なくなってしまいます。アラナさん、あなたは尊いよ。

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まとめます。これは、確かに映画好きの少年が成長する物語ではあるけれど、それだけなら、これまでも類似作はある。そこから一歩踏み込んで、映画を作ってきた人間たちの過ちや苦労を過去の膨大なアーカイブでもあるレンタルビデオ店で働くことで知り、世界はかくも多様で未知なるものや価値に満ちていることを悟る物語だからこそユニークなんです。映画ファンがニヤリとするネタもたくさんあるけれど、そこから何歩も踏み込んだ2020年代だからこそできた力作です。基本、固定カメラで俳優たちの闊達な演技を信頼するレヴァック監督の演出もお見事。すばらしい作品に、あなたも出会ってください。
サントラはですね、オリジナルのスコアを別にすれば、基本的には、今作の物語の設定となっている2000年代前半にカナダで流行った音が選ばれています。SUM41の名前も車に積み込んであるCD-Rにはありましたが、同じくカナダのパンクロックのバンドとして挙げられるNot By Choice。2002年のあちらのヒットMaybe One Dayをお送りしました。このタイトルも、内容とリンクしているようで、また良し!

さ〜て、次回2025年1月21日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『ビーキーパー』です。ジェイソン・ステイサムが『スーサイド・スクワッド』などのデヴィッド・エアー監督がタッグを組んだリベンジアクションということですが、養蜂というモチーフがどうアクションに絡んでくるのか、非常に楽しみです。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!



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