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『クラブゼロ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 12月17日放送分
映画『クラブゼロ』短評のDJ'sカット版です。

良家の子どもたちが通う全寮制の名門校に赴任してきた栄養学の教師ノヴァク。彼女は自分の授業を取る教え子たちに、意識的な食事、コンシャス・イーティングを説きます。少食がいかに健康的か。少食が社会の束縛から自分たちを解放させてくれるか。少食がいかに環境に良いか。生徒たちはじわじわとその教えにのめり込み、校内外にも波紋が広がり始めます。

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監督と共同脚本は、ウィーンの出身で名匠ミヒャエル・ハネケに師事したジェシカ・ハウスナー。『ルルドの泉で』や『リトル・ジョー』といった作品で日本でも知られています。ノヴァク先生を演じたのは、『アリス・イン・ワンダーランド』でアリスに扮していたミア・ワシコウスカです。
 
僕は先週金曜日の朝、アップリンク京都で鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

ジェシカ・ハウスナー監督は、切り込みづらいテーマにスッと鋭いメスを入れる人で、カット割りも色使いもスタイリッシュ。その作家性が今回も端々に発揮されていて、一度見始めたらもう観客の興味を掴んで離しません。なぜそんなことができるのか、考えてみます。
 
まずテーマ。今回は食ですね。食べるというのは、あらゆる生き物が営んでいる、その種をその種たらしめる行為とすら言えるかもしれない。しかも、人間の場合には、そこに食文化も反映されるわけですから、伝統や思想、そして流行も関わってきます。ダイエットだなんだということもありますが、食べないと生きていけないわけだし、何か食べ物を口にするというのは、たとえベジタリアンであったって植物の命をいただくという意味では、他の生き物や環境から強い言葉で言えば収奪することによって成立する罪深い行為でもある。そこには原罪のようなものがあって、世界中のたくさんの宗教や文化によって何かしらの食の禁忌が存在するというのも、そこにつながる。奪うのいうのは命だけでなく、たとえば家畜の肉を食べるなら飼育することによるCO2の排出も無視できない量になるし、CO2に触れるなら自給率が低いとフードマイレージのこともある。農業にしたって森林伐採と言った自然の開墾や農薬などによる自然へのダメージもあって、それがしっぺ返しのように僕たちの健康被害にもつながってくる。ジャンクでケミカルな食事は肥満にもつながるし、飽食の一方で飢餓の問題もある。当たり前ですが、相当複雑かつデリケートなのが食にまつわるエトセトラだとざっくりまとめておきます。

Ⓒ COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023
日本とは比べ物にならないくらい、特にヨーロッパの若者たちには環境問題は自分ごととして考えられていて、向こうだと「環境問題」や「気候問題」なんて生ぬるい表現じゃなくて、はっきり環境危機や気候危機と言われています。だからこそ、今作の舞台となっているような全寮制のエリート校で栄養学のカリキュラムを充実したいという流れが出てくるのは必然でもあります。映画にはいろんな保護者が出てきますけど、多かれ少なかれ、今言ったような問題意識は共有されているからこそ、ここがポイントなんですが、主人公の女性教師ノヴァクというのは、保護者会からの要請と人選で学校にやって来るんですよね。だからこそ、相応の期待も栄養学の授業にはかけられているし、選択して受講する生徒たちも食への意識がそもそも高い。ただし、ノヴァクが生徒たちにかける期待は、さらにその上を行くほどに高いというズレが映画の発端で生じる面白さです。ノヴァクが生徒たちと車座になって語り合う内容は、真正面から反論できないし、概ねその通りだろうと思わざるを得ない「正しい」ものなんだけど、彼女が生徒たちに実践させる食事の様式は、毎度毎度少しずつおかしいし、行き過ぎているんですね。「意識的な食事」というのは、文字通り、今から口にするものを強く意識するところから始まるのだとして、生徒たちも学校の食堂で食べる前に、ナイフにささった食べ物をじりじりと見つめ、深呼吸をして初めて口にする。最初は些細な違和感なんだけれど、そのちょっとした行き過ぎも授業を繰り返していくうちに、はっきりと一線を越えたものになっていく、言わばカルト化していく洗脳が行われていきます。怖いんですよね。暴力も血も出ないんだけれど、怖い。恐ろしい。だから、上映前には、この映画には洗脳のような行動統制と摂食障害に関する描写が出てくるから気をつけろというただし書きが表示されるくらいです。ジェシカ・ハウスナー監督が絶妙なところを突いてくるのは、ノヴァクという人物の穏やかで理知的な造形です。あくまで反論しづらいもっともらしい言葉で、物腰も柔らかで強制なんてしないからこそ、生徒たちはあくまで「自由意志」で彼女に巻き込まれていくんです。思春期だし全寮制でもあるから、週末を過ごす自宅での保護者との交流よりもはるかに深く影響を与えていくことになる。

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今作では衣装と音楽が非常に特徴的です。全寮制の学校はコンクリートを多用したクールな建物の中に、ジェンダーフリーな制服として純真無垢な黄色、しかも少し調子の悪そうな緑がかった黄色のポロシャツを着た子どもたちが蠢いている。これは、ハチが飛び回るイメージもあったようです。ズームを使ったり、360度回転させたり、垂直に見下ろしたり、あえて人の頭を切るようなフレーミングをしたりするカメラワークの効果も手伝って、全体的に寓話的な印象を与えるのは、着想がもともとドイツの民間伝承でグリム童話にも出てくる「ハーメルンの笛吹き男」だからというのもあるようです。つまりは、社会の未来である子どもたちをどう守り、どう育むかという問題もテーマとしてあるんですね。

Ⓒ COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023
食と教育という、いずれも高度にサービス業と不可分になってしまった領域において起こり得る恐怖を描いてみせたジェシカ・ハウスナー。僕はとても興味深く、恐ろしく、そして滑稽にも映りました。一見、リベラルな思想や意識高い系と言われる行動様式を皮肉ったり揶揄したりしているように感じられますが、これは「善意がいかに捻じ曲げられることがあるのか」を見せているということがだんだんわかってきます。だからこそ、怖いし、皮肉めいているし、滑稽でもあるんです。カルトが広がっていくプロセスを描いているという点では、食に限らずあらゆる分野で出回る陰謀論や「良きこと」として世の中に流布している情報への免疫も付けてくれる秀作だと言って良いでしょう。ラストショットの明らかに『最後の晩餐』を意識した構図も、お見事でした。
曲は、ホイットニー・ヒューストンで有名なこの曲を、シンガーソングライターScott Matthewの渋いカバーで。寮の中で男女がこれを流しながら踊る場面がありました。あそこもドキッとするところだったなぁ。「え? 君、食べ物の匂いがしたけど、まさか、抜け駆けして何か食べた?」。ヒエ〜!

さ〜て、次回2024年12月24日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』です。原作は、なんか子どもたちに大人気みたいですよね。ただ、なんとなく、ちょっとした毒っ気もあるのかなと勝手にイメージしておりましたが、実写化で主役に起用されたのは天海祐希。なるほど! という感じでした。それが映画でどう広がるのか。大人も楽しめるのか。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!



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