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『ラストマイル』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 10月15日放送分
映画『ラストマイル』短評のDJ'sカット版です。

アメリカ資本で日本でも通信販売最大手のデイリーファストが毎年11月に実施する大々的なセールのブラックフライデー前夜。商品を出荷する超巨大な倉庫である関東センターから配送された段ボールが開封されると爆発する連続事件が発生します。センター長に着任したばかりの舟渡エレナは、直属の部下であるチームマネージャーの梨本孔と事態の収集を図るのですが、会社幹部、配送を担う関係会社、そして事件を追う警察の間で板挟みになっていきます。
 
ヒットしたテレビドラマ『アンナチュラル』と『MIU404』の演出をしていた塚原あゆ子が監督。脚本も両ドラマの野木亜紀子。プロデューサーもこれまで一緒にドラマを作ってきた新井順子と女性たちが先頭に立って作りました。センター長のエレナに満島ひかり、チームマネージャーの孔に岡田将生が扮したほか、大倉孝二宇野祥平火野正平阿部サダヲ安藤玉恵のほか、石原さとみ井浦新薬師丸ひろ子松重豊綾野剛星野源麻生久美子などなど、ドラマの出演陣も多数出演しています。
 
僕は先週金曜日の昼、大阪ステーションシティシネマで鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

公開が8月末ですから、もう2ヶ月近く劇場でかかり続けているわけで、ドラマを観ていたお客さんだけではなく、単体としての作品の力がびしばし伝わって浸透していることですよね、どう考えても。それは脚本の野木亜紀子の手腕も大きいんですが、ドラマ2本を一緒に作ってきた女性トリオ全体の勝利と言うべきでしょう。それというのも、物語の種となった「通販で届いた荷物が爆発する恐怖」というアイデアは塚原監督のものなんですよ。そっから新井プロデューサーもあちこち取材して現場のあれこれを調べ上げて、野木亜紀子が脚本に仕立てていますから。その脚本の巧みさは確かに唸るものがあるんですが、冒頭部分なんてしばらくセリフはないのに、的を射たカメラアングルと編集リズムでもって、何も言わずとも、状況がよくわかるうえに、重要なキャラクターとその関係性をそれぞれサラッとだけど印象的に配置しているんです。そして、何よりスタイリッシュだから、タイトルが出るところなんて思わず声を出しそうになるかっこよさでした。

(C)2024 映画『ラストマイル』製作委員会
後で振り返ると、この時点で映画が描こうとしているテーマがちゃんと芽吹き始めているんですよ。届けられる荷物。小さなライトバンに荷物をたくさん載せて高速を走る下請け末端の配達員親子。モノレールに乗っかって配送センターへ向かう大勢の派遣労働者。駅でバスに乗り換える中、主人公のエレナが乗るのはハイヤーです。配送センターに入る時には、倉庫内の大量の作業員がブルーのパス。エレナはホワイト。違うレーンを通ります。職種による人間の分類が行われている現実が浮き彫りになりますね。あと、劇中ではテレビの中継で使われるヘリコプターや、もちろんトラックにバイクが登場。あと、多国籍通販サイトの日本支社のトップと思しき、ディーン・フジオカ演じるあのなんかいけ好かない青年が走るルームランナー。そして、もちろん荷物が動くベルトコンベアーなどなど、乗り物や動き続けるマシンがそこかしこに出てくるんですよ。これは塚原監督が選択して意識的に見せているもので、エレナと孔のふたりが登場する場面がどうしても配送センターのコントロール・ルームという閉鎖空間に集中しがちなので画面に変化を出す効果もあるんですが、それと同時に、現代社会というのは、かくも24時間動き続けている、止まらないというのが特徴なんですよということをイメージとして強調する役割もあります。まるで、止まっているものは死んでいるとでも言わんばかり。

(C)2024 映画『ラストマイル』製作委員会
そう、この社会において、止まるというのは死を意味する。人間も血の流れが止まると死んでしまうわけですが、社会においては物流が止まれば死んでしまうんだということがテーマなんですよね。だから、死なないように、僕たち社会を構成する個々人という細胞は、社会の物流=血流を止めないようにと、何かを注文することを強いられている。人は何かが欲しくないと金を払って注文なんてしませんから、社会は人々の欲望を喚起し続ける。もはや、本当にほしいのかどうかを考える前にポチッとなとしてしまうくらいに焚きつける。デイリーファストのあちこちで使われるキャッチコピーは「What Do You Want?」でしたよね。そんな高度にシステム化された資本主義の原動力たる欲望に突き動かされた商品の配達を担うのは、これまた欲望の生産者でもある生身の人間なわけです。がしかし、24時間365日絶え間なく動き続けるこの欲望の終わりなき再生産は、人の欲を満たす一方で、人の心身をすり減らし、摩耗していく容赦ないシステムでもあるわけですね。こうしたテーマは、このグローバルな現代にあって、各国にはびこる社会問題ですね。だから、たとえばケン・ローチ監督は2019年の『家族を想うとき』で、宅配業者の末端で個人事業主の男が不在配達の多発から地獄を見るさまが描かれていました。それが今作だと、火野正平宇野祥平の親子に当たります。でも、同じ問題でも日本では日本だからこその広がり方をしていることがちゃんとわかるようにしてあるし、実は末端の人間だけでなく、管理する側もまた強烈な心理的負担、プレッシャーがあるんですよね。こんな人を蝕むシステムはどこかで改善しないと破綻するということがわかっていても、企業や資本の論理と顧客の欲望、そして人々の無関心=スルー力がそれを許さない。地獄ですよ。しんどい話です。

(C)2024 映画『ラストマイル』製作委員会
でも、そのしんどい話を野木亜紀子と塚原監督はきっちりエンタメに仕上げたのがすごい。爆弾はいくつあるのか。何が目的なのか。犯人は誰か。出てくる人物がそれぞれに不自然な自分語りをしないおかげで、はっきり言ってみんな怪しく見えてくる。テレビドラマでは視聴率が落ちるから許されないことですけど、主人公のエレナすら信用できなくなるんですよ。そんなミステリー、サスペンス的な味つけを軸にすばやい展開で社会への事件の波及を見せ、それだけ物流が社会を下支えしていることを既存のドラマとクロスさせる形で相当数のキャラクターを出しているのに物語は混乱させず、僕みたいなこの世界の一見さんもしっかり取り込めるって、すごすぎます。そりゃヒットするよ。細かいところで引っかかりはいくつかあるんですけど、今日はもう指摘しません。これだけ太くて重いクサビを日本社会に軽快かつ痛快に打ち込んでみせたことに敬意を払う所存です。タイトルのラストマイルとは、荷物が辿る長い道のりの最後の最後、配達員がお届け先に運ぶ最後の距離を指します。僕たち消費者は、そのファーストマイルなんですよね。Want欲望の出発点。だから、観客は否応なく、ほぼ全員が当事者です。鑑賞後に僕たちが作品から受け取るのは、思ったより重い荷物です。それをひとりひとりそのままにせず開封して考えていくことが大事。骨太な一作でした。
最近はもう主題歌王子と僕が呼んでいる米津玄師の主題歌もお見事。とにかく、この人はテーマのすくい取り方がうまいんですよね。

さ〜て、次回2024年10月22日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『若き見知らぬ者たち』です。我ながら良いチョイスだったんじゃないかと思いますよ(くじ引きだから偶然だけど)。日本映画のばりばりメジャーな快作の後には、インディー作品で成功した内山拓也監督の商業映画デビュー作。それこそ、一般的には「若き見知らぬ監督」かもしれませんが、いきなりの国際共同製作です。『佐々木、イン、マイマイン』を絶賛して泣いていた僕としては、次はどう来るのかと興味津々です。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!



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