FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 9月17日放送分
映画『夏目アラタの結婚』短評のDJ'sカット版です。

児童相談所で公務員として働く元ヤンキーの夏目アラタ。彼は、自分が相談に乗っている少年のたちの悪いイタズラから始まった使命を帯びて、連続殺人事件の犯人、品川真珠死刑囚に面会を申し込みます。緊張していたアラタですが、あろうことか、ガラス越しにプロポーズ。不意に始まったふたりの駆け引きが、やがて連続殺人事件の真相に迫っていくことになります。
原作は、同名コミックが累計260万部を超えるという乃木坂太郎。監督は「TRICK」や「SPEC」といったシリーズで一斉を風靡した堤幸彦。脚本は、『翔んで埼玉』シリーズの徳永友一が手掛けました。夏目アラタを柳楽優弥、品川真珠を黒島結菜が演じた他、佐藤二朗や市村正親なども出演しています。
僕は先週木曜日の夜、Tジョイ京都で鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。
堤幸彦作品ということで、さぞかしカメラも編集も音回りもガチャガチャしてるんだろうな。こういう先入観を映画ファンなら持つだろうと思います。それぐらいに、好みはさておき、映像のリズム感や仕掛けにはっきり特徴のある監督なんですよね。しかも、今回は主人公のふたりの男女が互いをほぼ知らぬまま獄中結婚してしまうという突拍子もないストーリーだということがタイトルから既に知らされているわけで、堤監督もそのぶっ飛んだ話にぶっ飛ばされないよう、映画のスタイルも相当かき回した感じになるのではないか。僕はそれぐらいの想定をしつつ、原作未読のほぼ知識ゼロで鑑賞してみると、これがですね、わりとしっかり夢中になって見てしまったんですよね。先週の『ACIDE/アシッド』に続き、手放しに褒めることはないのだけれど、どっこい結構面白いじゃないかと感じました。
それにはいくつか理由があります。1つ目は、たとえば冒頭に出てくるバッテン、あるいはXというシンボルの数々です。品川真珠が収監されている刑務所を空撮で俯瞰で捉えるところ。刑務所というのはその用途の特性上、変わった建築構造になっていることが多いですが、映し出されたのは、ふたつの細長い棟がクロスしてX字になっている。そこから僕たちの暮らしを取り巻くおびただしい数のXが編集で重ねられるんですね。フェンスのXとかわかりやすいけれど、他にも踏切とかいろいろあって、これまた空撮映像で捉えられた住宅街の一軒家の屋根も上から見ればXになっているのがあって、ハッとさせられました。不気味でもある。このシンボルについては、特に脚本上、ストーリー上、必要なものではないんですが、それがやがて、忘れた頃に繰り返され、ある場面、予想もしないところでまた出てきた時には、「うわぁ~」としっかり感心させられました。つまり、やみくもに重ねているんでなくて、トリッキーなスタイルをやりたいだけではなく、物語的に意図が裏打ちされていたんだということに巧さを感じたわけです。
なんだかんだ結構面白く見たもうひとつの理由は、地すべりを起こしていくジャンルです。最初はサイコ・スリラーとして始まるんですよ。逮捕時の奇抜なメイクから品川ピエロと呼ばれた若い女性に面会するアラタ。不気味ですよ。このあたり、アラタの内的独白、つまりは心の声がちょっとうるさいくらいにいちいち入るんですが、この内的独白という手法も、一歩間違えると映画ファンに嫌われるもの。要するに、なんでもかんでも言葉で心の動きを説明するなというやつです。確かにその通りで、それだったら映画というジャンルならではのストーリーテリングの醍醐味が損なわれるんですが、ことこの作品に関しては、まずアラタが一人暮らしでひとりでいることも多いから何を考えているのか掴みづらいのに加え、彼は物語上の理由から本心をなかなか口にしないキャラクターなんですね。特に面会室では、品川真珠との言葉の駆け引き、綱引きが行われるとあって、彼の心の声が入ることによって場面が一面的でない多層構造になるように仕向けているという意味で、必要な手法だと言えます。と頭でわかっていても、ずっとこれだったら漫画でいいんじゃないかと思う頃から、潮が引くようにこのヴォイス・オーヴァーが減っていくんです。それはなぜかと言えば、映画としてのジャンルがだんだんと変貌していくから。サイコ・スリラーに事件の真相をアラタや弁護士が追いかける素人探偵的なミステリーに変わり、法廷劇へとなだれ込みながらラブ・ロマンスさえ展開されるという有り様。こうなってくると、アラタの心の声はしだいにやんでいく。つまり、彼の言動と本心が一致していくから必要がなくなるんです。そう考えると、トリッキーに見えがちな堤演出ですが、ここでは必然性があるんですよね。
そして、何より、ストーリーがまったく読めません。真珠を特徴づけている歯並びのことや、数々の奇行も、なるほど順を追って物語的に裏付けが取れていくところも多く、進めば進むほど、死刑制度や児童虐待、司法制度の問題について考える切っかけも生まれてきまして、これはすごい話だと見ごたえがありました。シンプルに何か教訓を得るようなものではないけれど、生まれながらにして社会から爪弾きにあってしまう人間を社会がどう包摂すべきかということにも考えが及ぶ作品でした。さすがに無理があるだろうというところもあるんだけど、その突拍子のなさの中に「あり得るかも」という要素が点在しているのがこの作品の魅力であり、堤演出がうまくいっているところだと思います。一方で、結局は回収されなかったように僕には思える真珠の歌唱力やあの人物の殺しの真実について首を傾げざるを得なかったことも最後に付け加えておきます。
主題歌がまた結構フィットしていて驚きました。原作、乃木坂太郎の対訳が画面に表示されます。
さ〜て、次回2024年9月24日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『スオミの話をしよう』です。三谷幸喜監督作は5年ぶりとのこと。新聞でのエッセイでも撮影裏話を興味深く読んでいました。ただ、正直なところ、三谷作品は映画については、「作品による」というのが僕の素直な評価でして、今回はどうなのか。しっかり観てきますよ。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!


