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第1644回 歴史という「異界」に触れ、AI時代の視座を獲得する

 

 AI技術の加速度的な進化を背景に、「AIが人間の手に負えない存在になるのではないか」という危惧が絶えません。しかしその懸念は、人間の意識や思考特性が今後も「不変」であることを前提としています。
 AIの進化に伴い、人間の意識が拡張し、思考のあり方そのものが変容する可能性は十分にあります。だからこそ、AIに取って代わられないための策を練る以上に、私たち自身の意識をどうアップデートしていくかという「心の備え」が重要になるはずです。

「思い込み」というフィルターを自覚する

 私たちは常に、自分が「こうだ」と思い込んでいるフィルターを通して世界を見ています。
 かつて人々が「神」を中心に社会を築いたように、時代ごとに共通の「思い込み」があり、それがその時代の現実(ルール)を形作ってきました。
 過去の人々を「盲目的だった」と笑うのは簡単ですが、現代人もまた、別の「思い込み」の中に生きているという点では変わりません。
 人間はいつの時代も、自分の見ている景色こそが「現実のすべて」だと思いがちです。しかし、それは常に一側面に過ぎません。そこで必要になるのが、理屈としてではなく、実感として「別の視点」を持つ力——すなわち「メタ認知」の力です。
 「人には多様な価値観がある」と口では言いつつ、いざ自分のこととなると固執してしまう。それは本当の意味での多視点ではありません。真のメタ認知とは、「今、自分が見ている世界は、バイアスのかかった仮の現実に過ぎない」と一歩引いて受け止める、しなやかな知性のことです。

なぜ今、歴史空間なのか

 かつて、このメタ認知を養う最良の手段は「異国への旅」でした。しかし、グローバル化によって世界の価値観が均質化した現代では、かつてのような「別世界」を体験することは困難です。また、宇宙スケールで物事を俯瞰することも一つの手段ですが、私たちは肉体を持つ人間である以上、より切実な「人間のリアリティ」を伴った視点を求めてしまいます。
 そこで今、私たちが目を向けるべきは「歴史空間」です。歴史の中に生きる人々は、私たちと同じ人間でありながら、全く異なる地平で世界を捉えていました。
 歴史を学ぶ際の最大の陥穴は、過去を「現代の価値観」という物差しで測ってしまうことです。例えば、奈良時代女性天皇の存在が挙げられます。 
 現行の皇族典範の基準に慣れた私たちは、過去の女帝を「男系継承までの単なる中継ぎ」と解釈しがちです。
 しかし、歴史を虚心に眺めれば、別の姿が見えてきます。飛鳥時代、有力な男系男子(中大兄皇子)がいながらも斉明天皇が即位し続け、推古天皇は39歳で即位してから35年もの長きにわたって国を治めました。これらは到底「中継ぎ」という言葉では片付けられません。
 武士の時代以降に定着した性別役割分担とは、全く異なる原理が、奈良時代飛鳥時代に、働いていた可能性があります。
 とりわけ大きな違いは、女性の霊性に対する認識の違いでしょう。
 古代日本では、巫女の霊性を中心とした共同体が築かれていました。
 男系天皇固執する人たちは、女性の霊性を信じていた過去の人たちのような感受性を持ち合わせていないのです。

現代を相対化し、未来を拓く

 歴史と向き合うことは、単なる知識の習得ではありません。それは、現代という時代を「数ある選択肢の一つ」として相対化し、俯瞰する眼差しを得ることに他なりません。
 歴史を通じて、その時代ごとの価値観や人生観の変遷を知れば、AI時代における人間意識の変容も、ごく自然な進化の過程として受け入れられるはずです。
 今の時代の価値観に固執して未来を悲観するのではなく、変化を前提としたしなやかな視座を持つこと。その準備こそが、いたずらな不安を拭い去り、AI共生時代への希望を切り拓く鍵となるのではないでしょうか。

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