窮鼠猫を噛む。
エゾイワナの中で、成長が良くて縄張りを主張するものたちは河川に残るけれど、成長が遅くて縄張りを主張しないものたちは、しかたなく川を下って海洋生活を行い、産卵の時に川を遡るが、海の方が栄養資源が豊かなので、身体がエゾイワナに比べてはるかに巨大となってアメマスと呼ばれる。
ここ数年、アメリカが、中国に対して半導体の最先端技術において様々な締め出し政策を行い続けている。
そのなかでも、心臓部にあたるのが極端紫外線(EUV)露光装置。人間の髪の毛の数千分の一の幅の回路を、レーザービームによってシリコーンウエハーに刻み込んでいくもので、年々、細密化していく最先端の半導体製造に欠かせない装置。
これは、オランダのASML社が20年以上をかけて、不可能だと思われていたものを、莫大な投資と人材を投入し続けることで完成させたもので、日本のニコンなどの企業も、その困難さと投資リターンの問題から撤退した分野だった。
それゆえ、この装置は、世界でASML社しか作れない。
ところが、アメリカによる締め出しで、この装置を購入できなかった中国において、ファーウェイという、総売り上げの10%以上を研究開発費に投資し(2024年の研究開発費が約3兆6420億円)、2024年末時点で全従業員の約54.1%にあたる113,000人が研究開発を担当している典型的な先行投資型企業が軸になって、わずか3年ほどで完成させてしまった。
さらに中国は、半導体チップの信号処理に電気の代わりに光を用いる「フォトニック集積回路」と呼ばれる技術の研究開発に注力している。アメリカによる中国に対する輸出規制により、現在のAI技術の進展に欠かせなくなっているエヌビディアのGPUプロセッサを入手できないからだ。
そして、先月末、上海交通大学、清華大学チームの共同研究によって、画像や動画生成で、エヌビディアのGPUを速度とエネルギー効率の両面で100倍以上も上回る性能を持つ「光演算チップ」を構築したことが報じられた。
「極端紫外線(EUV)露光装置」にしろ、「フォトニック集積回路」にしろ、それがどこまで実用に耐えうるものになっているかはわからず、もしかしたら、これらの情報は、中国政府によるアメリカ政府に対するに揺さぶりで、規制や制限を与えることの無意味性を訴えるための戦略かもしれない。
しかし、人間もまた追い詰められたり締め出されたりすると、猫に噛み付くネズミにもなるし、アメマスになる可能性もある。
歴史を俯瞰しても、アメリカ合衆国を築いて発展させる力となった人たちの大半は、ヨーロッパの囚人や、連れてこられた奴隷たちや、ナチから逃れたユダヤ人、アイルランドのように大飢饉によって新天地に希望を見出すしかなかった人たちだ。
アメリカじたいが、ヨーロッパに対して、アメマスになっているのだ。
今日の世界にはユダヤ人の大金持ちが多く、科学者を含めて様々な分野で活躍している人も多いため、ユダヤ人を人種的に優秀とみなす人もいて、そこから、日本人のユダヤ人ルーツ論というものまである。
しかし、その考えは間違っていて、ユダヤ人は、個人主義にもとずく近代資本主義世界に適する生き方を、他のどの人たちより早く始めることになり、それゆえ、この時代に最適化しているだけであり、時代環境が変われば、また別のことが起こり得る。
ユダヤ人は、聖書にキリストを裏切った「ユダ」が登場するため、中世のヨーロッパで差別の対象となってしまった。
そのため、一般の人々と同じ暮らしから締め出された。当時の人々の暮らしの拠点は、都市ではなく地方であり、土地を持ち、土地を耕すことが基本だった。しかしユダヤ人は、そうした暮らしを営むことができず、しかたなく都市を拠点にして、金融業に携わることになった。当時、金融業は、賤しい仕事であり、現在のウォール街の高給取りのように、超難関大学卒業のエリートが目指す分野ではなかった。
また仮に何かしらの会社で働くことになっても、差別によって待遇に差がつけられ出世も望めない。だから、家庭内でも、日本のように大企業への就職を家族一丸となって目指すのではなく、独立自尊の精神が養われる家庭環境とならざるを得なかった。
日本においても、戦後、在日韓国人の人たちが、日本の企業に就職して努力しても差別によって報われないから、自ら起業することや、スポーツ選手や芸能人といった個人の能力が問われる分野で活躍することを目指して家族が一丸となっていたことと似ている。
人間の歴史法則は、そのように、前の時代では生きづらい状況にあった人たちが、時代環境が変わることで優位になり、その逆も起こることが繰り返されている。
人間に限らず生物の世界も同じで、6000万年前に恐竜が滅んだ時も、それまで陰に隠れていた身体の小さな哺乳類が生きやすい時代へと変わった。
5億4000年前のカンブリア大爆発は、地球上の酸素量の増加が引き金になったと考えられる。
今でも酸素は錆の原因になったりするが、もともと原始生物にとって酸素は毒だった。
しかし地球上に動物より先に現れた植物は、光合成によって大量に酸素を吐き出す。そのため10億年前くらいから地球上の酸素量は増えていった。
その結果、その酸素をエネルギーに転換する構造を持つ生物が大量に生まれた。それまでの単細胞生物とは異なり、生存戦略が爆発的に多様化し、現代に見られる動物の基本的な体の構造のほとんどが出現した。これがカンブリア大爆発とよばれる。
「進化」という言葉に対して、「より優れていく」という意味合いでとらえている人が多いが、そうではなくて、地球上のすべてのものは、限りある資源の中で、環境に適した形質を持つ個体が生き残り(自然選択)、それが世代を重ねることで種全体が変化していく道筋を辿っているにすぎない。
現在、人間世界に起きていることも同じで、急速に進むAI化によって、これまで、この世の春だった人たちが生きづらくなる可能性もあるし、これまで生きづらかった人たちにとって、とても良い環境になるかもしれない。
AIが、「人間」に与える影響について、様々なところで議論がなされている。
人間の能力を上回るAIによって人間の仕事が取って代わられたり、支配される云々など。
そのように、「人間」を一括りにしてしまうことが間違っている。
どの時代でも、その環境に適したものと、そうでないものがいる。
現在、「生きづらさ」を訴える人がとても多いようなのだが、生きづらさを解消する最適の道は、自分を変える努力をすることか、異なる環境で生きるか。それが、数億年を超えて変わらない生き物の摂理。
人間は、理屈であれこれ考えるが、その理屈は、これまでの100年くらいのあいだに組み立てられた範疇のものでしかなく、その範疇の理屈は、これからの変化に通用しないだろうと、私は思っている。
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