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第1494回 古事記の冒頭の神々が意味するのは、宇宙の根本原理。

八景島シーパラダイスに行った。意外と強く心を惹かれたのは、クラゲたち。
 海でクラゲを見つけると、気持ち悪くて逃げてしまい、じっくりと観察することはないけれど、水族館では、色々な種類のクラゲをじっくりと見ることができる。この原始の生物は、5億年以上前から地球に生存し、その姿形は、その当時から変わっていないそう。
 クラゲは、身体の95%ほどが「水」で、神経は全身に張り巡らされているが、心臓はなく、脳もない。なのに、獲物が触手に触れるなどの刺激を受けると、触手に並んでいる刺胞から毒針が発射されて相手に突き刺さり、毒が注入される。クラゲはこの毒で相手を動けない状態にし、口に運んで食べるらしい。
 クラゲは傘を上下に動かしながら、ゆらゆらと漂うだけで、遊泳能力はほとんどないとされるが、直径2 mm~3 mmほどの「エフィラ」とよばれる幼生段階では、傘を高速で上下に動かして浮遊している様子が、一生懸命に泳いでいるように見えて可愛い。
 クラゲというのは、平安時代、すでに骨がないものの形容として幾つかの文学作品で登場しているのだが、古事記においては、国がまだ稚(わか)い段階の時、浮かんでいる脂のような状態でクラゲのように漂っていた時に、葦の若芽が成長するような勢いで、ウマシ・アシカビ・ヒコヂの神が生まれ、次にアメノ・トコタチの神が生まれたと、「クラゲ」のイメージをもとにした記述がある。
 この国がまだ稚(わか)い段階の時について、一つの国として「国の骨格がない」という意味ではないだろうかと私は考えている。
 古来、日本における神々の信仰は地域ごとに異なっていたが、地域の違いを超えて一つの国になるためには、普遍性のある宗教的理念が必要であり、それが仏教だった。
 学校の教科書では、西暦4世紀の頃からヤマト王権によって日本が統一されていたかのように教わるが、その当時、広い日本を、奈良か九州の一勢力が、当時の武器だけを使って支配することは簡単ではない。さらに、共通文字も無かった時代においては、様々な約束事を各地域に徹底させることができない。
 日本において訓読み日本語の共通文字の普及は西暦500年以降のことであると、考古学的にも考えられている。また太陰太陽暦という共通の暦の普及も、6世紀の第29代欽明天皇の時代以降であるが、中国の古代においても王権支配と共通文字や共通の暦関係は切り離すことができないので、日本の東西に渡って一つの秩序体制が整えられていくのは、史実として初代天皇と考えられている第26代継体天皇や、その息子の欽明天皇の頃からだと考えた方がいいだろう。
 対外的にも、6世紀以降は、新羅の統一と国力増強に対抗するために、日本を一つのまとまりのある体制にする必要性があった。
 とはいえ、一つの国としてまとまるためには、武力による統治だけでは不可能で、ビジョンの共有化が必要であり、ビジョンは、世界観の反映である。
 6世紀以降から律令制時代にかけての日本の官僚体制は、北魏に学ぶところが多いのだが、五胡十六国時代という異なる民族のあいだで熾烈な争いを繰り広げた時代の後に、少数民族鮮卑族が北部中国を統一したのが北魏だった。
 北魏は、国内に様々な民族が存在する状況の中で、国を一つにまとめるために仏教の理念を柱にした。雲崗、龍門、莫高窟の石窟寺院などが作られたのは、この北魏時代である。中国における仏教文化の最盛期は、北魏の時代から、同じ鮮卑族が中国全体を統治した隋と唐の時代までである。
 仏教は、西欧の一神教と異なり、創造神が存在せず、万物は因縁によって成立すると説明される。
 異なる民族には、異なる創造神が存在しているので、異なる民族を一つに束ねるうえで、仏教の理念は有効だった。
 このことは、古代日本においても同じであり、欽明天皇の頃より日本に仏教がもたらされ、飛鳥時代を経て深く浸透していき、律令体制が始まる時、持統天皇が、大王として初めて火葬された。
 そして、律令制が始まる時、この仏教理念の影響のもと、日本の神話は書かれた。
 古事記の冒頭に現れる造化三神のうち、タカミムスビカミムスビは、結びという言葉からもわかるように、仏教の因縁と縁起の原理を示している。全てのものごとが形として現れるのは、ある原因(因)があって、その原因が、それを助長するような条件=働きかけ(縁)に巡り会った時、その時々の現象となって現われる。
 タカミムスビカミムスビは対の関係であるが、万葉仮名で「かみ」は迦微と表記され、迦は「巡り合う」という条件=働きかけを意味するので、敢えて「カミムスビ」と表記されている方が「縁」で、タカミムスビが「因」ではないかと思われる。
 この世のすべて、因と縁のどちらが欠けても成り立たない。ゆえに固定不変な絶対の存在はどこにもない。この世界観が、仏教の「空の思想」である。
 アメツチはじめの時、仏教の因と縁を示すタカミムスビカミムスビの前に登場するアメノミナカヌシは、仏教の「空の思想」を示している。
 この造化三神を万物生成の根元に位置付けることは、万物を平等に扱うことと等しい。なぜなら、この世には何一つ不変で絶対的なものは存在しないという前提に立っているからだ。
 全てのものごとは、けっして固定的なものではなく、常に変化する運命にある。その流動こそが、生命の実相であり、新しき創造への橋となる。
 仏教がもたらされる以前の日本においても、そうした変化や流動を積極的に受け入れており、その縁をもたらすものがマレビトだった。
 日本は海に囲まれた島国であり、大陸から遠すぎず近すぎることもない絶妙な距離感が、独特の境界意識を育んできた。
 異界からやってくるマレビトは、得体がしれず恐い存在だが、珍しくて興味深く、自分たちの状況に変化を与えてくれる可能性を秘めていた。その変化を拒絶するのではなく受け入れる柔軟性が古代日本にはあった。
 唯一絶対神を社会の規範にしているところでは、境界の向こう側は恐怖と疑心暗鬼の対象だが、島国の多神教世界では、自分の力や想像力の及ばないものごとは崇敬や憧憬の気持ちも含まれた畏れの対象になりえたので、善悪二元論の排他性や、白黒を明確にさせる正義のイデオロギーは根付かなかった。
 日本が伝統的に育んできた文化芸術で、現在まで残るものの多くは「 畏れ」と深く繋がっている。
 能は言うに及ばず、建築や庭園や、どんな物づくりにおいても、「 畏れ」の気持ちが根本にあった。相互の関わりのなかで物事が存在する(縁起)という世の中の真理を心得ている者は、自我の都合によって対象(縁)を処理するのではなく、自らを謙虚にして対象(縁)への敬意と誠意を保つことが当たり前であり、それは、畏れ多さという心情の反映である。
 だからこそ、日本においては、古いものと新しいものの間に高い壁がなかった。神と仏は習合し、土着と外来は何層にも重なり合った。
 現在の日本人の多くが、自分を無宗教だと言うが、にもかかわらず神社で安産祈願を行い、葬式を仏教寺院で行う。また受験など人生の重大時に神社で願い事をするし、悪いことをしたら罰が当たると感じる心がある。
 そして固定不変の絶対的な存在はないと感じている人は多いし、「ご縁」という外部からの働きかけに対して、どう誠実に応じるかによって結果が変わってくることも理解している。
 こうしたことは、自分とは縁がないと思っている「古事記」における万物生成の原理を、無意識のうちに共有化している現れである。
 西欧文明に覆い尽くされた現代日本社会であるが、全てが外来のものに入れ替わったわけではなく、土着のものに重なっているだけである。
 今日の世界は、自分たちが信じる唯一絶対の正しさを掲げて、争い、憎み、平気で殺すということを繰り返している。
 それに対して土着の日本の信仰においては、世の中には唯一絶対の正しさもなければ、永遠不変の存在は存在しないし、何一つ、それ自体だけで存在していない。
 我執というのは、そうした道理を見失った状態である。
 我に囚われず、不幸や不運といった現象にさえ心をふりまわされず、因縁に対して誠実に向き合うことで、状況を復元する創造力が生まれ、それが結果として、自分自身と世界の平安につながる。
 そうしたビジョンは、とりわけ天災の多い日本で生きていくうえで、何よりも大事なことだった。
 律令制が始まる直前は、南海トラフ地震をはじめとして、聖書の黙示録のような深刻な災いが、たびたび起きていたことが、日本書紀にも記述されている。          (つづく)

 
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