
土が生まれる現場 @山梨県八ヶ岳
1.4/50 Summilux ASPH/ Leica M10P
安宅和人『風の谷という希望』(英治出版、2025)図版8-9より
昨夜、宇野常寛さんの宇野書店にて*1、『風の谷という希望』(#谷本)の出版記念で、対談を行った。
宇野さんは #谷本 をご覧になった人なら御存知の通り、この風の谷をつくる運動の立ち上げ段階からのメンバーであり、風の谷憲章の起草者の一人でもある。御立尚資さんと僕との3人で、このプロジェクトの様々な班の源流の一つというべき文化・全体デザイン班を担当している。ちなみに、もう一つの源流が熊谷玄さん、大藪善久さんが率いられている空間デザイン班だ。
移動の際にあまり経験したことのないレベルの大渋滞に巻き込まれ、大幅に遅刻してしまったのだが、他にも風の谷側からコアメンバーが何人も参加していたので(白井智子さん、菊池昌枝さん、鈴木款さん、占部マリさん)、うまく場を繋いで頂き心から感謝している。
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僕が25分ほど遅れて加わってからは、まず僕の方から「風の谷」と僕らが呼んでいるものは何なのかという話から始まり、続いて宇野さんとの公開対話、文化・全体デザイン班的な議論が行われた。かねがね重要な問題だと僕らが考えているガバナンスについて、ひとしきり議論が続いた。具体的にいえば、
- 「谷」の豊かさと成長エンジンである多様性と包括性をいかに育んでいくか
- 集団行動は苦手だが、谷を愛し、暮らす人をいかに包括し、「谷」をガバナンスしていくか
- 空間・景観・文化価値に深いダメージを与える人たちの発生をいかに予防するか
といった話題だ。
この延長で、文化・全体デザイン的なメインテーマである、疎空間でありながら、価値創造、変化を生み出し続けられる空間、文化の土壌とは何か?ハレではなくケの中からクリエーションを生んでいく場とは?それはどういう人達でそういう人達が集まってくる空間とは?という投げ込みが宇野さんからあった。
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それを受け、僕が語り、宇野さんと盛り上がったのは次のようなことだった。
谷本をご覧になった人なら理解して頂けると思うが、「土壌」すなわち「土」は、僕らの大好物なテーマであり、ある種、谷作りのすべての前提課題の一つと言える。土は、地球以外のどこにも存在していない。月にも火星にも全く存在しない。なにもないところから人間がつくることも出来ない(『風の谷という希望』第8章、第13章)。
土は、砂利、砂、粘土、莫大な生物の死骸と成れの果て(腐葉土など)、微生物・菌類、大量の水の集合体であり、その土地の豊かさそのものを反映している。水が一滴もなく、生物がいたことすらない月や火星に土がないのは当然と言える。
重要なのは、土壌が豊かになるプロセスだ。単に他所から花を持ってきて植えても、土地は肥沃にならない。過去の生物の死骸を微生物や菌類が分解し、栄養として循環させる環境があってこそ、真に豊かな土壌が生まれる。分解者がいなければ、どんなに立派な植物も根を張ることができない。
その「土壌」を文化・価値創造に当てはめると、どうなるのか。
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水や生命を受け止める、砂利、砂、粘土という物理的な構造は、風の谷的にいえば、多様な人達の異質性を壊さずに受け止める豊かな隙間、すなわち「サンゴ礁」的な空間を意味している(『風の谷という希望』第7章、第14章で詳述)。
森や田畑の生命の栄養源となる「莫大な生物の死骸と成れの果て」は、「谷」においては、そこの土地から生まれた文化、景観、様々な建造物、はたまた文学や絵画なども含まれる。多くが「土地の記憶」と僕らが言っているものだ*2。しかし、これらの文化的遺産や過去の知的蓄積(書籍なども含む)は、そのままでは栄養にならない。それらを解釈可能な形で批評し、咀嚼し、新しい文脈で活用できる形に「分解」する営みがあってこそ、文化創造の土壌として機能する。
土地の記憶は、谷における求心力の「三絶」(絶景、絶快、絶生)の「表面(おもてめん)」に大きく寄与するが、それを生み出す分解作用は「裏面(うらめん)」といえるだろう。谷の三絶は極めて重要な概念であり、可能であれば別途どこかで議論したいが、簡単に言えば、
絶景:都市では得られない圧倒的な景観
絶生:創造性あふれる生活基盤
絶快:土地ならではの出会いと気付き
になる。『風の谷という希望』第6章で詳述したので、関心を持たれた方は手に取ってもらえればと思う。ほとんどの疎空間は、この三絶の複数の側面でかなりの課題、すなわち巨大な伸びしろがある状態だ。
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土における「微生物、菌類」は、谷における文化・価値創造土壌の視点からすると、まさにそこに住む人たちになる。谷の人というと、きれいな花や立派な木のようなイメージを思い浮かべるかもしれないが、どちらかといえば、この豊かな土地を育む膨大な微生物(バクテリア、原生生物、古細菌)、そして菌類のような人、その多様性こそ大切になる。
菌類は様々な生物の死骸を発酵、呼吸過程を通じ分解し、土地の豊かさを作り上げ、大きな循環の円を完結させる。文化の土壌においても同様で、過去の文化的遺産や知識を新しい時代に適した形で解釈し直し、批評し、次世代に引き継ぐ「文化の分解者」こそが不可欠なのだ。他所から持ってきた分かりやすい成果を単に移植するだけでは、その土地固有の文化的豊かさは生まれない。
思えば、風の谷本で論じている文化・価値創造の2つの軸(第7章)、すなわち、多様な人達の異質性を受け止めるサンゴ礁的な空間軸と、文化を育む「熟成・発酵」という時間軸を考えると、この菌類人類の話はこの交点的な話になる。空間的な「隙間と出会い」があって菌類的な人が入ってきても、時間をかけて文化を分解し、発酵させ、新しい価値に変換していく営みがなければ、真の文化創造は起こらない。
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宇野さんはこのような展開を期待して投げ込まれたのかよくわからないが、実に味わい深い問いだった。
この菌類としての人類の話は本当に興味深い話だったと終わったあと、参加者の方々から口々に聞いた。僕らとしても是非掘り込もうと宇野さんと語って終わったのだった。その後、かなりの数の質疑応答が行われたが、これについては宇野さんのPlanetsメンバーになればいずれ公開されると思うのでそちらをご覧頂ければと思う。
ちなみに宇野書店では現在、風の谷関連書籍の選書フェアを開催している。現時点で200種類近い関連書籍が展示販売されており(一点しかないものも多い)、圧巻の品揃えだ。
『「風の谷」という希望』フェア開催!
— 宇野書店 (@Unoshoten_) 2025年9月4日
宇野書店で安宅和人さん自ら選書した100冊超の本が並ぶ、大規模なフェアです!1冊しかない本もたくさんあるのでお早めに覗きに来てください! pic.twitter.com/YoZO2i272B
これらの書籍は、他のいくつかの大型書店でも展開している選書フェア(開催書店については英治出版のXアカウント https://x.com/eijipress をご参照)で配布している冊子(写真)に掲載されたリストから、現在入手可能なものを相当量集めたものである。

実はこの選書リストの元となっているのは、風の谷のコアメンバー内で共有している400冊近い基本関連図書リストだ。章ごとに数十冊という膨大な分量のため、書籍の巻末には掲載できなかったが、遠からず風の谷/一般社団法人「残すに値する未来」のホームページで公開を予定している。
宇野書店は人工芝が敷かれた空間で、靴を脱いで気持ちよく歩き回れる。風の谷関連書籍に加え、宇野さんが自ら選んだ約6千冊の興味深い書物を手に取りながら過ごせる、贅沢な読書をしつつ選書できる空間としておすすめだ。
店舗名: 宇野書店
所在地: 東京都豊島区北大塚1-15-5 東邦レオ東京支社ビル2階
オープン日: 2025年8月1日(金)
営業時間:平日 10~21時、土日・祝日 12~20時
定休日: 不定休、フロア面積: 150平方メートル
一般からの問い合わせ先:03-5907-5500(東邦レオ 東京支社)
prtimes.jp
(土に関心を持たれた方々への参考図書)