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スクラムマスターは (たぶん)すでにいる

初めてスクラムを学んだ時、二人のリーダーに名前をつけていることに感動しました。

スクラム』によれば、トヨタの主査は人事権限を持たずにプロダクト全体を動かします。しかし、その役割を担えるようになるには30年かかる。だからジェフはその役割を二つに分けたそうです。それが、プロダクトオーナーとスクラムマスターです。

チームをペアで動かし、全体を前に進ませる。それがスクラムの本質で、美味しいところだと思います。なぜかというと、あなたが全部はできないから...です。

クリエイティブ・ペア

この「違うタイプのペア」が二人でリーダーシップをとるパターンは以前から存在していると考えていました。だいぶ後から知ったことですが、野中郁次郎先生はこれを「クリエイティブ・ペア」と呼んでいました。私が感じたそうしたペアを、いくつか紹介していこうと思います。

プロ野球

星野仙一島野育夫

燃える闘将・星野仙一監督の横には、常に島野育夫コーチがいました。中日ドラゴンズで11年、阪神タイガースで2年。島野が在籍していた時期、阪神は最下位になったことが一度もありません。

島野はアップ中の選手を注視することを徹底させていました。故障や体調、ときには気持ちの浮き沈みまで動きに現れるといいます。星野が退任を決めた時、最も心配していたのは自分のことより参謀・島野の今後だったそうです。

参考:阪神に生きる島野イズム(中日スポーツ)

落合博満森繁和

落合監督は野手出身です。投手起用は森コーチに完全に任せ、一切口出ししませんでした。「わからないことは、わかる人に任せる」という信頼です。

落合博満森繁和についてこう語っています。

森繁和は、すべてを任せられる参謀である。私の中日ドラゴンズでの8年間、勝負の本質は彼なくしては語れない

8年間すべてAクラス、4度のリーグ優勝、日本一1回。球団史上最強のドラゴンズを作り上げました。

参考:森繁和『回想』(ベースボールチャンネル)

サッカー日本代表

トルシエ山本昌邦

フランス人監督トルシエと日本人選手の間に立ち、現場を機能させたのが山本昌邦コーチでした。1999年ワールドユース準優勝、2000年シドニー五輪ベスト8、アジアカップ優勝、2002年ワールドカップベスト16。

通訳のダバディ氏は振り返ります。

選手が怒られている時は『無理に訳さなくていいんだよ』と、山本昌邦さんに言われましたね

激情家のトルシエの横で、山本は違う形でチームを支えていました。

参考:「赤鬼」と呼ばれたトルシエの素顔(THE ANSWER)

監督とチームドクター

以前、サッカー日本代表のフィジカルコーチの方に聞いた話では、日本代表は監督とチームドクターがそうした関係だそうです。勝負の世界を見る監督とは別の視点で、選手の心身を見守る存在です。

監督が植え付ける戦術を実行するためには、選手の体調を整え、怪我や心身の状態を常に良い方向に調整していくシェフやフィジカルコーチの役割が欠かせません。それを取り仕切るのがチームドクターであり、監督と同格の権限と責任を持っていたといいます。

ちょうど2026年北中米W杯の組分けが決まりました。日本代表はテキサス州を中心にメキシコ北部と、勝ち進めばアメリカ東部への転戦となるドローになりました。短い期間での転戦を支えるチームスタッフの力が結果に大きく影響することは間違いありません。

森保一山本昌邦

2023年から山本昌邦ナショナルチームディレクター(TD)として、森保一監督を支えています。トルシエ時代はコーチとして、森保時代はTDとして。同じ人が、違う監督のもとで違う形の「ペア」になっています。

会社経営

盛田昭夫井深大

ソニーを創った二人です。井深は技術者としての直感と創造性で新たな製品のビジョンを掲げ、盛田はそれを実現可能なビジネスとして確立する実務力を発揮しました。

井深はこう語っています。

嫌なこと、大変なことは、みんな盛田さんが引き受けてくれた

盛田は常に「ソニーは井深と私が創った会社」と語り、井深の存在を前面に出していました。

参考:「嫌なこと、大変なことは、みんな盛田さんが引き受けてくれた」(日刊工業新聞)

本田宗一郎藤沢武夫

本田宗一郎藤沢武夫に実印と会社経営の全権を委ね、自らは技術者に徹しました。モノづくりは本田、お金は藤沢。研究開発・技術は本田、営業・財務・管理は藤沢です。

藤沢は妻に「あなた我慢できるの?」と問われた際、こう答えました。

私は人と組める男ではない。それは分かっている。だけど、この人となら面白いんだ

藤沢が副社長の退任を決意すると、本田は「俺は藤沢あっての社長、俺も一緒に辞める」と言って、本当に社長を辞めてしまいました。

参考:究極のナンバー2―ホンダを世界企業に育てた藤沢武夫の経営哲学

そしてスクラム

野中郁次郎と竹内弘高

知識創造理論を世界に広めた二人です。『知識創造企業』は二人の共著です。そしてこの二人が1986年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』に発表した論文「The New New Product Development Game」が、ジェフ・サザーランドがスクラムを生み出すきっかけとなりました。野中先生は「竹内とは合わないんだ。それがいい」とおっしゃっています。

参考:野中郁次郎の理論が世界のITエンジニアに受け入れられる理由(Biz/Zine)

ジェフ・サザーランドとケン・シュウェイバー

Scrumを世に送り出したジェフ・サザーランドとケン・シュウェイバーもまた、違うタイプのペアでした。

ジェフはウェストポイント(米国陸軍士官学校)出身、ベトナム戦争で偵察飛行に従事し、スタンフォード大学統計学修士号コロラド大学医学部で生物測定学の博士号を取得した学術・理論志向の人物です。一方ケンは、40年の開発キャリアを持つソフトウェア開発者であり、Scrum Allianceを設立して認定スクラムマスタープログラムを創設した実践・普及志向の人物です。

1995年にOOPSLAカンファレンスでScrumを発表し、2010年に最初のScrum Guideを書きました。二人は今も別々の組織(ジェフはScrum Inc.、ケンはScrum.org)を持ちながら、Scrum Guideという一点だけは共同で守り続けています。

参考:The Scrum Guide

共通点

「俺とお前は違う」 という前提。最終責任者が、違うタイプを信じて任せる。だから知的コンバットが生まれます。

ただの役割分担ではなく、一緒に何かをしていこうと協調している。背中を預けている。まさに、熱意ある共犯者です。

クリエイティブペアへの第一歩は、野中先生が言うように「俺とお前は違うよね」です。徹底的に意見を闘わせ、その先にある相互理解、相互主観の世界に達することが重要だと、野中先生はおっしゃっていました。そんな簡単に人は分かり合えない。だから時間をかけてすれ違いながら、ぶつかりながら学ぶということです。

なぜこの構造が重要なのか

このブログはスクラムマスターについてのアドベントカレンダーでした。トヨタの主査のようなリーダーを二つに分けて、プロダクトオーナーとスクラムマスターに分けたのだ、という話を端緒に、私が知っている範囲の有名なペアの例を挙げてきました。

スクラムチームにとって一番大事なのは、ゴールに向かって成果物を生み出す貢献者たち、すなわち開発者です。人と人の間で仕事をする中間ブローカーは存在しません。人に仕事を押し付けるのではなく、自ら生み出し、協調し、課題を解決していく実践者たちが開発者(たち)です。

そして、それを導くのがプロダクトオーナー、支え促すのがスクラムマスターなのです。いずれの役割も、独りよがりになってしまってはこなせません。スクラムマスターがチームメンバーとつるんでプロダクトオーナーに対抗してるようじゃダメです。開発者たちを尊敬することは、周囲の人々を尊敬しないということではないんだと思います。

また、この「違うタイプのペア」という視点は、アジャイルの中でも「スクラム」でのみ注目されている部分だと思います。アジャイルが好きな人の中でも、この視点が好きな人ばかりではないし、できればもっと技術的な話だけをしたい人も多いでしょう。しかしそれも多様性なんじゃないかと思います。

スクラムマスターとしての第一歩

もしあなたが今スクラムを始めようとしているなら、まずスクラムマスターとしてできることがあるかもしれません。

優先順位を決めている人を見つけて、プロダクトオーナーとして、はっきりとビジョンを示してチームに任せるスタイルを提案して寄り添います。そしてチームメンバーには一人一人状況を明らかにし、徐々に協働を促し、Doneに導いて、リズムと自己効力感を高めていきます。

あなたがプロダクトを始めようとしているなら、そうしたことができそうなバディを見つけ、必要なスキルと経験を得てもらえるように支援しましょう。

スクラムマスターは人を見て支援する役割です。人によって得意不得意が出やすいエリアでもあります。共感性を持つだけでなく、寄り添いつつ、相手の成長のために押し返す勇気と誠実さが必要です。相手をコントロールしたい人には向きません。

 

スクラムマスターは(たぶん)すでにいる

しかし、スクラムマスターはスクラムが名前を付ける前から、その構造は存在していたと考えています。スクラムが2つの役割として名前を付け、野中先生はクリエイティブ・ペアと呼んだにすぎません。もともと存在している立ち位置なのです。

だから、あなたのまわりにもスクラムマスターはきっと既にいます。あなたが見つけてくれるのを待っています。見つけ、機会を与え、信頼すれば、きっとうまく働いてくれるはずです。あなたから「こうして欲しい」を伝えることが、その先に続く大きな成功への、大事な一歩目になるのかもしれません。

 

スクラムマスターについての素敵な記事が今後も続くと思います。ぜひチェックしてみてください。特に明日のJ.K.はむちゃくちゃいいことを書いてくれると期待しています!

adventar.org




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