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わたしの人工的な帰省

 「帰省」の準備をする。
 友人たちに連絡を取る。幸い、仲の良かった全員と会えそうだ。といってもわたしを入れて五人だけだから、全員集合が非現実的というわけではない。
 とはいえ一人とは五年ぶり、わたし自身も帰るのは二年ぶりだから、貴重な機会ではある。町はわたしが住んでいた頃からだいぶ様変わりしたけれど、二年に一度は帰るようにしているから、ちゃんと「わたしの町」のままで、あのころからの友だちと変わったところを言い合うのもお決まりの娯楽だ。
 せっかくだからあのころにはなかった、ちょっといい宿に泊まることにする。
 パートナーに宿泊先を送り、「いいでしょ」と言う。
 いいねとパートナーが言う。楽しんでおいで。でもそれは帰省なの?
 帰省と呼んでいる、とわたしはこたえる。もうあなたとも長いから、わたしの内面と同じ用語を使いたいと思うよ、だから帰省と呼ぶよ。

 実際のところ、その町はわたしの生まれ故郷ではない。進学のために引っ越して、修士課程を出るまで六年間いただけの場所である。赤の他人ならぬ赤の他土地だ。でもわたしはその町がとても好きだった。それに十八歳から二十四歳の六年間は、どうかするとゼロ歳から十八歳までと同じくらい、大量の思い出をつくってくれた。第二の故郷という慣用句さえ、その場所にはいくらか軽い。
 そしてわたしには本物の帰省先、すなわち実家はない。わたしは東京都内の、それも賃貸住宅の育ちで、両親はわたしの在学中にさっさとコンパクトな住まいに移った。わたしは都内に就職したが、自分で賃貸を借りる以外の選択肢を思い浮かべもしなかった。
 わたしが出産すると、母は通いで手伝いに来てくれた。狭いけどうちに泊まる? と誘ったのだが、「ほんとうに狭いからいやだ」と平気で断り、「たまにはこの家と赤ちゃん任せて二人で外出しなさいよ。泊まりでもいいわよ。あたし、一人でNetflix観まくりながら子守したい」などと提案するのだった。
 ついでに、パートナーのご両親は彼の実家にあたる一軒家を売って、ちょっと豪華な高齢者向け住宅に入居している。まだ介護は必要ないのだが、そのような高齢者のための住宅があるのだそうだ。
 そんなわけで、わたしたちはときどき、双方にとってなじみのない現在の親たちの住居へ日帰りで赴き、子どもの(親たちにとっては孫の)顔を見せる。そういうのはたとえお正月期間にやったところで帰省とは呼ばないだろう。親たちはまだ元気だから、遊びに来たいときに来ていて、特別な感じもない。

 「帰省」で会うお友だちは正月に実家に帰らなくてもいいの。
 そのように訊かれてわたしはこたえる。ひとりはもともとあの町の近くの人。ひとりはご両親がわりと高齢で、去年実家仕舞いをしたから、今後はお正月ヒマなんだって。あと一人は学生時代から実家と疎遠だったし、もう一人も今は自由だから。
 説明しながら思う。考えてみれば、年末年始の帰省というのは若者に多い習慣なのかもわからない。親戚づきあいがさかんな一族ならもっと強制力があるのだろうけれど、親きょうだいと自分の二世代だけのつきあいなら自分たちのいいようにするだろう。一人っ子なら(わたしもそうだ)よけいに「集まる」感がないし、きょうだいと仲が良いともかぎらない。

 各自が帰りたいところを故郷と呼べばいいのだし、今住んでいるところだけが帰るところ、というのも素敵だと思う。
 もちろん、それは別の誰かにとっては、非現実的なきれいごと、恵まれた人間の戯れ言にすぎないのだろう。
 実家仕舞いをした友だちとは五年ぶりで、彼女はこれまでの年末年始の大半を実家での役割に捧げていた。別の友だちとは、彼女が結婚してから離婚するまで一度も、彼女の夫の同伴なしに会うことができなかった。
 わたしの知らない「イエ」を当然とする世界に、彼女たちは住んでいた。
 わたしが好き勝手できる親のもとに生まれたのはただの幸運だ。パートナーはわたしが選んだが、そのご両親までコミで選んだのではない。パートナーのご両親がわたしたちの過ごしかたをわたしたちの判断にまかせてくれるのはただの幸運である。
 それでも、好きにしたらいいんだ、と思う。
 わたしはもうとうに大人で、大人というのは自分の世界のあり方を決められるものだと、そう思っている。そのために孤独になることも引き受けなければいけないと思っている。
 そんなだから、自分の年末年始を自分の好きにする友人たちと集まれることが、ことのほか嬉しい。孤独になってもやむを得ないと思っているから、よけいに嬉しい。




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