羽田圭介著「滅私」を読みました。Xでもよくプロモーションが流れてくるので、これも読みたかったんです。
感想はややネガティブです、ごめんなさい。
いろいろなミニマリストの人が出てきます。なんと、彼らの中にも流派があるそうですよ。家を「刑務所みたい」にしてしまった人、ログハウスに住み家庭菜園に励む人。いろいろ調べられたのでしょうね。
多様な人の描写も面白いです。ご興味のある方はぜひ。
羽田圭介著「滅私」のあらすじ
公式サイトより
愛着が湧く前に捨てる。それが鉄則だ――。ライター業の傍ら、極力ものを持たない生活を発信する冴津。貰った物は家に帰ると捨て、家具や服は徹底的に減らし、無駄を削ぎ落すことを追求する日々。そんな「身軽生活」を体現する彼の前に現れた“かつての自分”を知る男。その出会いは記憶の暗部を呼び起こし、信じていた世界を徐々に崩壊させていく。芥川賞作家が放つ、不穏でスリリングな超問題作。
羽田圭介著「滅私」の感想
まずは印象に残ったところを。
モノを気軽に捨てられるのは、簡単に買い戻せることを知っている人間だけ
一言一句そのままではありませんが、こんなことが書かれていました。
私も実は、同じようなことを考えたことがあるのです。よく、「いつか使うと思っていたら捨てられません」みたいなことを言われるじゃないですか。で、捨ててしばらくしたら「あれ使いたい。捨てるんじゃなかった」なんてことは案外あるものです。
そうしたときにパッと買い直せる経済力がある人や、ぐぬぬと歯噛みしない程度の余裕がある人じゃないと、思い切って捨てるのは難しいかもしれない。
モノを厳選して買い換える人のほうがモノをたくさん買っている
いつ買ったかわからないようなモノにあふれる実家の部屋で、主人公は考えます。両親は特にこだわりを持たず、モノを使っている。自分はより便利でオシャレなモノを厳選しようと、モノを捨てる。
どっちがエコといえるのか。ミニマリストはいわゆる「意識高い」生活を気取っているが、実のところ環境の負担になる生き方をしているだけではないか。
誰もがミニマリストになったら、色鮮やかなファッションも不要になってしまう。ミニマリストは文化に寄与しない。新しいものを産み出す力をそぐ存在ではないのか。
主人公の過去
モノを持たないスタイリッシュでどこかクールな主人公ですが、実は地元では相当の「ワル」だったことが明かされます。同年齢の人に、人体を欠損させるようなケガを負わせたり、なかなかのものです。
過去を知る人物が現れ、彼の周りをうろつき始めるのですが……。
そろそろ「滅私」の感想を本音で語ろうじゃないか
と、まあ、奥歯にものがはさまったような文章をつづってまいりましたが、ここからは少し、正直に思ったところを。ネガティブ寄りなので、気がかりな方は恐れ入りますがブラウザバックをお願いします。
まず、個人的にはですが、このように社会問題や社会的な現象をテーマにあげた作品に触れるとき、私が気になるのは「懲罰的な感情で創られたものではないか」という点です。
ざまぁ系と銘打っているものはいいんです。ぜんぜん嫌いじゃないです。でもそうでない風で始まって、「こらしめてやった」的な展開はちょっとしんどいかな。
さて、ミニマリスト。
自分にはできませんが、モノを少なめにして暮らすというのはそんなに悪いことでもないと思うんですね。この本に出てくる人たちは極端だし、やりすぎだとは思います。でもどんな暮らしをしていようが、別に問題ない、実際のところどーでもいい、というのはあるんです。
この小説は、ミニマリスト苦手、絶対不幸に違いないと考える人にはいいかもしれない。だけど別に、好きにすればと考える私のような人間には向いていないかも。
主人公は何もない部屋で、坂口安吾の部屋の写真をときどき眺めます。
こちらのサイトにありましたが、確かに、モノが散らばって雑然とした様子です。主人公はそれに、なぜかホッとし、この写真は捨てられないと感じています。
物語の最後でも、ゴミ屋敷といわれる家に(勝手に)入り浸り、そこで彫刻を作り始めるのですが、これはおそらく、雑然とした環境のほうが創作意欲はわいてくるのだ、という意味ではないかと思いました。
それはそうかもしれないけど、そーゆーのってまさにミニマリスト嫌いな人が好きそうな結論かも……などと。「ネッ、散らかってる方がいいんだよ」といった感じの。
ただね、先にも書きましたが、これはあくまで極端な人のお話なんですよね。たとえば美容がテーマだとしたら、オシャレ大好きかわいくなりたいといった程度ではなく、健康を害するほどのダイエットに励んでしまった人のお話、ということだと思います。
だとしたらポジティブに描くのは難しいはず。それはわかります。
文中に「ほとんどのモノは替えがきく。人間関係も同じ」。だから自分から関わらない(ミニマルな関係を求める)と、人生に何もなくなってしまうといった描写がありました。
しかし、都会で一人暮らしをして、しかもひとりで完結するようなインフルエンサーの仕事をしている人でもない限り、たいていの人は何らかの人間関係に縛られ、だからこそ自分の居場所くらいはお気に入りのモノだけで満たされていてほしいと感じるのではないでしょうか。
まとめ
かなりやりすぎ感の強いミニマリストのお話ではありました。最後はドタバタ悲劇に終わりますので、それが面白いっちゃ面白いかも。
文章は簡潔、ページ数も少ないので読みやすい。
無駄をそぎ落とすことに熱中しすぎて何もかも失った、それがテーマなのかもしれない。でもやっぱり無駄は無駄ですのでねえ。
主人公は、自分にとって何が無駄か無駄でないのか、基準が定まっていなかったように思いました。世間一般の「ミニマリストらしさ」に基準を置いてしまったところが不幸なのかな。自分の基準を突き詰めていく様子が、できるならば見たかった。
