「豊かさとは、少なく生きること」
こんな名言で知られるウルグアイの元大統領、ホセ・ムヒカ氏。理想の政治家として人気を博し、2025年5月13日にお亡くなりになったことは、日本のメディアにも大きく取り上げられました。
本作は、氏や友人たちのインタビューを中心にしたドキュメンタリー映画です。ピンクの文字のタイトルに氏の笑顔、一見ほっこりかわいい映画のように思えますが、そんな甘くはなかったヨ……。
哀愁あふれるタンゴをBGMにして、描かれるのはゲリラ活動、投獄、極限の拘留生活、現実と理想のはざまで揺れる政治哲学。ホセ・ムヒカという「本気で世界を変えようとした人物」のリアルがビシバシ伝わってくる、静かでパワフルな一本でした。
目次
- 「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」のあらすじ
- 「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」はどんな映画か
- 「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」の言葉
- まとめ
「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」のあらすじ
アップリンクさんより。
国民のより良い生活のために自己犠牲をいとわず、予想外の政策を打ち出すムヒカ。そんな姿に憧れる映画監督がいた。それは故郷ユーゴスラビアの混沌とした時代と庶民をパワフルに描き、世界三大映画祭で絶賛された名匠エミール・クストリッツァだ。民族や宗教の対立が故郷を引き裂く悲劇に巻き込まれたクストリッツァは、トラクターに乗る大統領の存在を知り、「世界でただ1人腐敗していない政治家だ」と直感。2014年からムヒカの撮影を開始し、大統領としての任期満了する感動の瞬間までをカメラに収めた。極貧家庭に育ち、左翼ゲリラとして権力と戦い、愛するパートナーと離ればなれの苛烈な拘留生活を経て、大統領として国民に愛されたムヒカ。波乱万丈の人生が終盤にさしかかった彼が語る言葉に、今こそ耳を傾けたい。
映画『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ』公式サイト
「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」はどんな映画か
ホセ・ムヒカ氏について、私は日本の報道に少し違和感があるのです。全部チェックしたわけではないので一概には言えませんが。氏を道徳家、あるいは夢想家として報じてはいないか。
お金よりも友人が大事。
多くのものをほしがる者こそが貧しい。
これでは確かに現実離れした理想を説いているだけに思われるかもしれません。
しかし氏は徹底的なリアリストであり、お金の価値も使い道も知っている。その上でお金よりも大事なものがあると言う、その思想はどうやって育まれたものなのか。その答えがこの映画にあるように思います。
ここからはいくつか、映画の中で語られた氏の言葉をご紹介してみましょう。
「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」の言葉
自分の考えは牢屋で生まれた。あれがなければ浅はかで卑しい人間になっていただろう。
裕福とはいえない家庭に生まれたホセ・ムヒカ氏は、20代の半ばで左派組織トゥパマロスに参加。誘拐や銀行強盗などの犯罪にも手を染め、軍の収容所に収監されます。このとき、足に13カ所、お腹に12カ所の銃弾を受け、肺の4分の3と脾臓を失ったとか。
役13年にも及ぶ収容所での生活は過酷で、一日にコップ一杯の水しか与えられなかったといいます。家族や友人にも会えない孤独の中で生まれた「お金より友人が大事」という言葉は、理想でもなく夢想でもなく、切実な本心だったのではないでしょうか。
銀行を襲ったことは後悔していない。銀行に押し入るのは気持ちがいい。
あれれ、ちょっと過激なお言葉ですね。
ホセ・ムヒカ氏がゲリラとして活動した時代は、南米に多くの軍事政権が誕生した時期でした。ウルグアイもそのひとつ。軍は新自由主義を推し進め、格差を広げ、貧困層を弾圧しました。
そうした時代にムヒカ氏は、社会主義革命を実現するための活動に身を投じたのです。
氏はまた、「(銀行は)労働ではなく人の金で金儲けをする」、それは正しいことなのか問うています。
若い頃は、壊すのは簡単だと思っていた。でも作り直すのは大変なんだ。
収容所から解放されて後、政治家としてのあゆみを始めたホセ・ムヒカ氏は、しかし、社会主義的な政策に傾倒することはありませんでした。
ウィキペディアより
経済は専門家に任せた。前任のバスケス大統領時代から経済の指令塔であり、左派経済学者であるアストリ副大統領は非実用的なチリ式新社会主義を標榜しながらも、実際の政策では実用主義経済を優先した。二人の就任後にウルグアイ経済は7%ずつ成長し、1人あたりのGDPが南米最高を記録し、貧困率を下落させ、国民を豊かにした[3]。
経済(=お金)が大事であることを否定はしないのです。
同時に、自分の給料のほとんどを財団に寄付、そのお金で貧困層向けの住宅を建てるなど、福祉にも取り組みました。とてもバランスが取れていて、私はこうした点がこの人物の真価であるように思います。
貧しい人は花を栽培すればいい。富裕層は花を買う。
彼自身も農場を持ち、花や野菜を作って売っていました。福祉にのみ頼って生きるのではなく自活の道を考える、そんな現実的な一面がうかがえます。
革新はときに害になる。携帯電話にカメラがついたのもそうだ。いつも足止めを食らわされる。どうせなら老人向けの携帯にトイレをつけてほしいもの。
ときにはこんなユーモアも。大統領になっても、ショッピングモールにひとりで出かけるホセ・ムヒカ氏には、写真撮影や握手を求める国民が後を絶ちません。
どんなときにも恋は生まれる。パートナーはお互いにとって緊張からの避難場所。安全地帯。
配偶者のルシア・トポランスキー氏とはゲリラ活動の中で出会ったとのこと。彼女は偽造書類の部署(?)にいて、ムヒカ氏がその書類を受け取りに行ったのがなれそめだとか。
そのときのことをムヒカ氏は「夜の稲妻に撃たれたように恋に落ちた」と語っています。
まとめ
「共和制の大統領は君主ではない。国民と同じ暮らしをすべきだ」
「政界で探すべきは大きな心と小さな財布の持ち主」
などなど、よく報じられるような名言もたくさんあったのですが、本記事ではあえて、氏の人柄が伝わるものを選んでみようと思いました。うまくいったでしょうか。
私は、氏は単なる理想家ではないと思うんですね。若い頃に社会主義の夢を描き、挫折し、しかしあきらめずに現実を見据え、向き合い、その上に理想を実現しようとしたリアリスト。そういう印象があり、この映画でもそうした面をうかがい知ることができたように思いました。
最後に。画面を見ながら殴り書きでメモしたものですから、語尾などに違いがあるかもしれません。平にご容赦のほどお願い申し上げます。
Q.E.P.D.
