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朝倉かすみ「平場の月」原作の感想・孤独と断絶の恋愛小説・ややネタバレあり

平場の月 (光文社文庫)

 

朝倉かすみ著「平場の月」を読みました。最初はモヤモヤだったけど、最後は一気読みの面白さ。愛されずに育った人の孤独と、その孤独な人に愛情を注ごうとする人の切なさと、よい小説でした。

 

ネタバレあり。映画化もされたそうで、原作小説の感想です。

 

 

 

「平場の月」のあらすじ

 

光文社さんのサイトから。

 

朝霞、新座、志木―。家庭を持ってもこのへんに住む元女子たち。
元男子の青砥も、このへんで育ち、働き、老いぼれていく連中のひとりである。須藤とは、病院の売店で再会した。中学時代にコクって振られた、芯の太い元女子だ。50年生きてきた男と女には、老いた家族や過去もあり、危うくて静かな世界が縷々と流れる―。心のすき間を埋めるような感情のうねりを、求めあう熱情を、生きる哀しみを、圧倒的な筆致で描く、大人の恋愛小説。

朝倉かすみ 『平場の月』 特設サイト | 光文社

 

「平場の月」の感想

私はそもそも恋愛に興味が薄いんですよ。まったくないというわけではないけど、恋愛を人生の中心に据えているようなガチリア充の人たちをみると、ああはなれないと思う。陰キャなんですよね、結局。

 

ですのでこの「平場の月」も、最初はずっときつかった。50の男女が出会っただァ、中学のときの初恋だァ、しかも女が死んでいるだとォ、ありがち必至のメロドラマじゃねえかァ……などとやさぐれながら読んでいたのですが、ちょうど半分のあたりから俄然面白くなりました。

 

ひとり暮らし・パート女性のリアル

大学を出て証券会社に就職した須藤だが、結婚に失敗、その後貯金も失い地元へ戻って来た。今は病院の売店で働きながらひとりで暮らしている。経済的に厳しいという理由で、青砥とはやがて須藤の部屋で会うようになった

 

和室が2室。台所はふたりで立つには狭すぎる。建付けが悪く、エアコンでは十分に暖まることもできなかった。ふたりの食事が売店の残り物だったりと、生活感のある描写が続く。

 

須藤は病を患い、人工肛門をつけることになる。こちらの描写も、経験者ではない私にとってはかなりのリアリティがあるように思え、物語に違和感がなかった。

 

須藤の過去・差し出された手を取ることができない孤独

須藤が亡き人であることは冒頭の描写からわかった。須藤は、青砥いわく「太い人」。さっぱりとした物言いの、言ってみれば「女子らしくない女子」だ。だから恋愛までのパートもそれなりに、ベタベタしていなくて悪くはない。だけど、恋人の死というありきたりの話がどう転がるのか心配ではあった。

 

それが面白くなるのは、須藤が「頼れない人」であることがわかるあたりから。

 

お金に余裕がない須藤に、青砥は食事代くらい自分が持つと申し出る。しかし須藤はうんとは言わない。病気になってひとり暮らしも心細いだろうと、一緒に暮らす時期もあるが、回復した須藤はひとりの部屋へ戻っていく。

 

恋人同士になっても、いや、青砥は残りの一生を共にしたいと願ってさえいるのに、須藤は彼が差し出す手を取ることができないのだ。

 

やがて須藤は自分の過去を、家族のことを話し始める。母親が出て行ったこと、父は母をひどいやり方で突き放したこと。ひとりで生きようと決意したこと。それなのに大人になってからの恋愛は、まるで両親の結婚のように不毛であったこと……。

 

幼い頃に安心できる環境で育つことができなかった子供は、人に甘えることができない。誰にも頼らず生きていこうと決めた須藤が、誰かに頼らなくては生きていけなくなったとき、どれだけみじめで心細かったか。

 

最期まで青砥に会おうとはせず、須藤は妹に看取られて亡くなる。「合わせる顔がない」と言い残すが、青砥はお金がない須藤も、病気になった須藤も、全部受け入れていたのにと思うと、その仕打ちは残酷にさえ思える。悲しくむなしいけれど、それが須藤だといえばそうなのかもしれない。

 

まとめ

須藤が過去を語ったとき、青砥もあわてて自分の失敗を話す。その場面が印象に残りましてね。

 

私もよくやるし、やられたこともある。ひどい経験をした人をなぐさめるために、自分も同じだと伝えるために、軽蔑なんてするわけがないと言いたいがために、余計なことを口走って相手を傷つける。あるあるですよね。

 

このときの断絶と、ふたりがそれぞれに抱いた孤独と、なんとも切ないですわ。

 

映画もぜひ観てみたいです。

 

 

 

 

 

 

 




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