「フランスで大ヒットした時代劇」と聞き、配信にあったから観た。そんな感じで、たいして前向きでもないまま鑑賞したのですが……よかった!
清廉潔白で融通が利かぬ武士、柳田格之進とその娘お絹の仇討の物語。落語をもとにしたものだそうです。
主演はもとより、脇を固める役者さんたちもすごかった。音楽も画面の色調も素敵だった。お話自体も、さほど大きなスケールの話ではないのに、残る感動はしみじみ深い。面白かったなあ。
映画「碁盤斬り」のあらすじ
公式サイトより
浪人・柳田格之進は身に覚えのない罪をきせられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われ、娘のお絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしている。
しかし、かねてから嗜む囲碁にもその実直な人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心掛けている。
ある日、旧知の藩士により、悲劇の冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は、復讐を決意する。
お絹は仇討ち決行のために、自らが犠牲になる道を選び……。
映画「碁盤斬り」の感想
先にも書いた通り、そんな思い入れがあって観たわけでもないんですよ。話題作、ふーん、くらいの気持ちで視聴をはじめ、前半の3分の1くらいのところで「もう観るのやめたい」となりました。
もうね、感情移入しちゃってるんですよ。まじめすぎて融通が利かない柳田格之進にも、格之進にほれ込んでしまった萬屋の旦那さんにも、カタブツの父を支えるお絹ちゃんにも、そんな彼女に恋する弥吉さんにも、みんなかわいいっ!
仇討の話ときいていましたのでね、これから先につらいことが待っているのがもう耐えられないんです。このままずっとお江戸の町でオジサンふたりが碁を打って、その横でお絹ちゃんと弥吉さんはドキドキやきもきラブストーリーをやっていればええじゃないか。
そんなことまで考えてしまいましたが、お話は進みます。
かつて同僚だった武士が現れ、格之進にかけられた嫌疑の真相を語りました。いざ仇討へ。しかし旅立とうとする格之進にまたも不運が訪れます。萬屋でなくなった金を彼が持っているのではないか、つまり、盗んだのではないかとの疑惑まで負ってしまうのです。
金を工面するため娘のお絹を遊郭へ入れ、長い旅の末ようやく仇を見つけた格之進。ここで仇の男が語る。いわく、格之進の融通の利かなさのために、藩を追われた者がいる。要するに、まじめな彼が不正を告発したために、クビになった役人がいるということですね。
ここで視点が変わります。ここまでは格之進の側からお話をみて、格之進に正しさを感じていたわけですが、その正しさが揺らぐのです。彼の正しさは人を傷つけるものだった。
正直なところ、私はこのお話の仇討は、悪が滅んでヨカッタヨカッタのスッキリ系だと思っていました。それでも十分エンタメとして面白いのに、ここでもう一段掘って人の社会の複雑さを突き付けてくるなんて。驚きでした。
さて、本懐を遂げた格之進。萬屋のお金も見つかり疑いは晴れ、結末は、もとになったという落語「柳田格之進」と同様です。あらすじをまとめたサイトがありましたので、ここに貼っておきます。
映画「碁盤斬り」役者の魅力
役者陣が豪華。賭け碁の親分(?)役に市村正親が出てきたときはびっくりしました。仇役は斎藤工で、そりゃこの人でただ単純なイヤな役になることもないか、などと。苦悩を背負った厚みのある悪役でした。
お絹ちゃんの清原果耶、弥吉さんの中川大志も、つい応援したくなるけなげさ、品の良さ。
萬屋源兵衛役の國村隼と遊郭のおかみ、小泉今日子、これは見ものですよ。格之進に心を動かされたときの源兵衛の演技、すごく印象に残っています。ほんの少し口元を緩めただけなのに、この人が変わったことがわかる。すさまじいもんですよ。
小泉今日子は人情味のある、しかし同時にすごみをにじませる役柄。貫禄、という言葉がぴったりのたたずまいが素敵でした。
映画「碁盤斬り」と遊郭の描写
娘、お絹を遊郭へやる件について。まずはこちらの記事を。
江戸時代には親孝行ととらえられたのかもしれませんが、やはり現代にはそぐわない価値観といえるのではないでしょうか。落語家さんの中にも、この「柳田格之進」を演じたがらない方もいるようで……。
映画では清原果耶がやっていた娘。
盗んだ嫌疑を掛けられた金を返すため、柳田は娘を売る。娘が自分から申し出たことではあるが、娘が娼婦になるのを認める。自分の意気地を守るため、娘を吉原へ売る。
これが、ちょっとついていけない。
落語を聞きおわって、いいはなしが聞けたな、とはおもえない。
客が喜ばない。
いわゆる「儲からない噺」なのだ。
だから演じる人が少ない。
私も、このお絹ちゃんがつらい思いをするのはイヤだと思っていました。もっとありていにいうと、お絹ちゃんが遊女として働くシーンをエロ目的で入れられるのはイヤすぎる、そう考えていたのですよ。
しかしそうした描写もなく、といって遊郭自体をキラキラにすることもなく、よいバランスだったと思います。
映画「碁盤斬り」が海外で評価された理由を考察してみる
素人なりに、です。すみません。
さて「碁盤斬り」、フランスでは大々的に宣伝され、その際には武士の忠義や精神性が取り上げられたといいます。なるほど、ジャパニーズサムライのワビサビがうけたんかいな、と思っていたのですがそんなことでもないと思う。
まず、日本人の私が観ても面白かったこと。お話自体は、先にも書きましたが、天下がどうのといった大きなものではないのです。武士とその娘の仇討という、言ってみればひとつの家族の物語でしかない。
しかしそこに江戸の豊かさ、人情に、四角四面では生きられぬという、いつの世にもどこの国にも共通するやるせなさがあり、実にしみじみとくる作品に仕上がっている。そこに心を動かされた人も多いということではないでしょうか。
ピアノ曲のBGMに色調を抑えた画面の美しさには芸術性の高さが感じられる。同時に、アクションもあり、ハラキリらしき場面もあって、エンタメとしても楽しめる。
いや~、思いのほかいいお話に出会えました。
まとめ
最後に、主演の草彅剛について。彼は演技をしていたんだろうか、彼の演技はすごいんだろうか。そんなことを考えました。だってあそこにいたのは柳田格之進なんだもの。
草彅くんの演技がすごいのか、柳田格之進になってしまった草彅くんがすごいのか、なんだかわからなくなっちゃった。それほどに存在感ある柳田格之進でした。
……だからね、最後に格之進がああしたことはわかる気がするんです。正しさという固い殻の中に自分を押し込めていたことに気づいた彼は、あの絵をああすることで殻を破ることができた。「清廉潔白であらねばならぬ」という言葉で封じ込めてきた自分の心を解放したかったんじゃないか。勝手ながらそう考えてしまいました。
※最後をのぞき、役者さんたちのお名前は敬称略とさせていただきました。
