はじめに
10月に入り、猛暑が続いた長い夏もようやく落ち着こうとしています。
朝晩は肌寒い日も増え、季節は少しずつ秋・冬へと移り変わっています。
気温が下がるにつれて体の不調を訴える方が増えますが、その中でも特に多いのが「痛み」や「しびれ」に関するお悩みです。
「腰・膝が痛い」
「足がしびれる」
「肩こりがひどくなる」
こうした声をよく耳にします。
今回は、寒くなる季節に増える“痛みとしびれ”について、中医学の視点からその原因と対策についてわかりやすくお伝えします。
中医学で考える「痛み」と「しびれ」
本題に入る前に、中医学で考える「痛み」のメカニズムについて少し触れてみましょう。
中医学には、「経絡(けいらく)」という独特な考え方があります。
経絡とは、気血が全身をめぐる通り道のことで、気血がスムーズに流れることで、臓腑や筋肉、皮膚、関節などに栄養が届き、体の機能が正常に保たれています。
このことは中国の古典(黄帝内経)にもしっかり記載されています。
「経脈者、所以行血気而営陰陽、濡筋骨、利関節者也。」
訳:経脈は気血を運行させ、陰陽を栄養し、筋骨を濡し、関節の動きをスムーズにさせる。
この経絡が何らかの理由で 栄養(気血)が届かない、あるいは 流れが滞る と、痛みやしびれが生じると考えられます。
これを中医学では、
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不栄則痛(ふえいそくつう):気血(栄養)が届かないことで起こる痛み
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不通則痛(ふつうそくつう):気血の流れが滞ることで起こる痛み
と表現します。
いわば、経絡は私たちの体の中に張り巡らされた“道路”のようなものです。
道路が凸凹していたり、通行止めになっていたりすると、車がスムーズに走れず物資が届きません。
道路の修復(栄養を補う)や交通整理(気血の流れを良くする)を行うことで、車が不自由なく走れるように、体の中の気血を補ったり、巡りが整えば、痛みやしびれは自然と軽くなっていきます。
痺証(ひしょう)と麻木(まぼく)
中医学では、あらゆる痛みを「痹証(ひしょう)」、しびれを「麻木(まぼく)」と呼びます。
「痹」とは、本来「通じない」「塞がる」という意味があります。
つまり、経絡の流れが滞り、気血がスムーズに通らなくなることで痛みやこわばりが生じる状態です。
一方の「麻木」は、
・「麻」は皮膚や筋肉がしびれている状態で、かゆくもなく痛くもなく、まるで虫や蟻が這うような感覚(蟻走感)
・「木」は皮膚の感覚が鈍く、触れても反応が乏しい無感覚の状態
つまり「麻木」とは、気血の流れが悪くなり、末梢の神経や筋肉に十分な栄養が届かないことで起こるしびれのことです。
このように、痛み(痹証)も、しびれ(麻木)も、根本には「気血の巡りの異常」があります。
そして、その巡りを妨げる原因として多いのは、「寒さ(寒邪)」「湿気(湿邪)」、そして「血の滞り(瘀血)」です。
💡ちなみに古典では…
中国の古典(黄帝内経)では、「痹証」について下記のように記されています。
「風寒湿三気雑至,合而為痹也。其風気勝者為行痹,寒気勝者為痛痹,湿気勝者為著痹也。」
訳:風寒湿の三気が雑わり至って、合して痹となる。その風気、勝れたるものは行痹と為し、その寒気、勝れたるもの痛痹と為し、その湿気、勝れたるものは着痹と為す。
タイプ別で考える「痛み」「しびれ」
1.寒邪(かんじゃ)
水が氷ると、さらさらとした液体が固体になるように、体内の気血も「寒邪」の影響を受けると気血の動きが停滞します。
その結果、気血の流れが滞り「不通則痛」の状態となったり、さらに慢性的にこのような状態が続けば、やがて臓腑や筋肉には栄養(気血)が届かず「不栄則痛」となります。
<痛みの特徴>
✅ジンジン・ゾクゾクと痛む
✅痛む部位がはっきりしている
✅温めると楽になる
身体を温め滞った気血の流れを良くする漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:桂枝加朮附湯、五積散、真附湯など
「気血」の不足や、「腎虚」が見られる場合は、当帰四逆加呉茱萸生姜湯や独歩顆粒、参茸補血丸などを合わせると良いでしょう。
「腎」については、👇のブログをご覧ください。
五臓六腑:腎の働き / 補腎のすすめ - 日々の生活に漢方を
2.湿邪(しつじゃ)
湿度の高い日に除湿器を使用すると、タンク内に水がたくさん溜まりまるように、身体の中にも余分な水=「湿」が溜まると、重だるさや重さを伴う痛みが現れるようになります。雨の日や気圧が下がると頭・身体が重だるくなる方がいますが、これもまさに「湿邪」の影響によるものです。
<痛みの特徴>
✅重さを伴う痛み(ズーン・ドシッとした感覚)
✅腫れる(熱が伴う場合もある)
✅浮腫む
余分なお水(湿)をさばく漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:防己黄耆湯、清湿化痰湯、二朮湯など
また、「湿邪」は他の邪と組み合わさることが多く、症状に応じて使い分けます。
・寒湿(かんしつ)タイプ:冷えを伴う → 「寒邪」で紹介した方剤(桂枝加朮附湯や五積散など)
・湿熱(しつねつ)タイプ:熱感や炎症を伴う → 熱と湿を同時に取り除く「越婢加朮湯」「竜胆瀉肝湯」など
3.瘀血(おけつ)
寝ている間に腕に自分の体重がかかり、朝起きたときに腕がジンジンと痛んだり、しびれた経験はありませんか?
この状態に近いのが、いわゆる「血の滞り(瘀血)」によって起こる痛みやしびれです。
体のどこかで血流が滞り、局所的な「詰まり」や「渋滞」が起きている状態です。また、血が滞ることで十分な栄養や酸素が届かなくなります。
<痛みの特徴>
✅刺すような痛み、または鈍く続く痛み
✅痛む場所が局所的
✅夜や安静時に痛みが強くなる
血の巡りを改善する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:冠元顆粒、補陽還五湯、疎経活血湯など
4.その他(通絡させる生薬)
中医学には「以形補形(いけいほけい)」という言葉があります。
これは、植物や鉱物など自然界の形状・色・性質が、人間の体のある部分や臓腑と対応すると考え、それに基づいて薬効を推測するという考え方です。
例としては:
・胡桃(くるみ)=脳に似た形→脳に良い
・蓮子(れんし:ハスの実)=心の形に似る → 心を養い、安神作用
・豆類=腎臓の形に似る → 腎を補う
・人参(にんじん)=人の形 → 全身を補う(元気を補う)
経絡の通りを考えると、塞がった道を通じさせるような、細く長く、ニョロニョロと動く形のものが良さそうだと、古人は考えました。
そのような発想のもと、中国では昔から、
・地竜(ぢりゅう)→ミミズ
・全蠍(ぜんかつ)→サソリ
・蜈蚣(ごしょう)→ムカデ
などを「通絡止痛(つうらくしつう)」=経絡を通じさせ、痛みを止める目的で用いてきました。
上記のような虫類を使った漢方薬は保険にはないですが、漢方薬局では以下のような漢方薬を購入することが可能です。
・補陽還五湯:地竜を含む
・活絡丹:全蠍、蜈蚣、蘄蛇など
最後に
寒さが深まるこれからの季節、「痛み」や「しびれ」は、誰にでも起こりうる身近な不調です。
「年齢だからこれ以上できない」
「何年もずーっと同じ薬を飲んでいる」
「効いているかも分からない」
そんな思いをお持ちの方は、ぜひ一度漢方薬を試してみるのも良いかもしれません。
上記で紹介した漢方薬はあくまで一例であり、実際には体質・年齢・生活習慣によって選ぶ薬は大きく異なります。
冷えが強い方、疲れやすい方、むくみがある方など、それぞれに合った処方が存在します。
気になる症状がある方は、ぜひ一度ご相談ください。
痛みやしびれを和らげ、冬を快適に、そして温かく過ごすためのヒントがきっと見つかります。
ナカノメ薬局(株式会社ナカノメ)
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薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐