投票義務の話。
弁護士ドットコムの記事ですら論旨がぼんやりしてて、なんでこんなに解像度が低いのかなあと思う。全員投票の制度で投票が義務じゃないのって、そもそもセキュリティホールでしかない。
まず前提として、民意を標本調査じゃなく全数調査するのは、標本選択におけるあらゆる不正の懸念を廃し、これこそ真正の調査であると証明するため。
オレは選挙なんて標本調査でいいと思う…とかいうと、猛烈に嫌な気がするでしょ?
でも、慎重に設計された標本調査が不完全な全数調査よりはるかに低コストではるかに正確なのは統計の常識なんだよね。全数調査って非常に危うくて、国政選挙のような巨大調査なら、母集団は全有権者の104,169,874 人(令和6年9月登録日現在選挙人名簿及び在外選挙人名簿登録者数)となる。つまり投票率の1%は1億の1/100だから104万人くらい。投票率99%だったとしても、特定の意見を持つ人だけを100万人排除することができるわけだ。
投票率99%でも危うい世界。それが全数調査なんだよね。
それでも標本選択という人を介するプロセスを信用せずに、あえて全数調査するのがこの選挙というシステムだ。それならそれで、主権者が全員参加する仕組みを担保するのは当然のことではないだろうか。
だって投票を妨害することで、誰かの意見をまるまる無かったことにできる危険な方法を取ってるんだから、脆弱性に対処するのはシステムとしてあたりまえのことでしょ。
現行制度でも、あからさまな投票妨害は当然違法なんだけど、たとえばある層に向けて「選択的に」投票から気をそらすキャンペーンを張ることができる、というセキュリティホールがある。
これ、かなりの大穴だと思う。
数十年前には「無党派層は寝ててほしい」と首相が言って問題になったこともあるけど、彼らが依って立つ組織票というのがそもそも歪んだ方法だ。組織票(後援会づくり)が選挙の基本と思ってるようだけど、むしろ民意が正確に反映されないセキュリティホールを突くことで不当に儲けるためのノウハウでしかない。
これを使いたい人たちがずーっと政権に居るんだから、陰に陽にあなたの投票意欲を削ぐ「間接的な投票妨害」は常に行われてるものだと考えた方が、たぶん判断を間違えないで済むんじゃないかな。つまり、あなたが「特に投票なんかしたくない」「選挙にも政治にも興味がない」と思っているのは、実はあなたの意思ではないかもしれない。
そもそも人間はコミットしたものにしか関心が持てないから、選挙や政治に無関心なのは投票してないため、という面もある。民主制って自分でシステムを決めてその中で生きるシステムで、選挙って自分の生活環境の方向性を決める場だ。自分の生きる環境に興味がない、なんて本来ならありえないと思うんだよね。
ここで義務投票制という考えが出てくる。
投票を義務にする意味はいろいろあるけど、着目したいのが、「間接的な投票妨害」を防ぐための強いインセンティブを「投票者側に」持たすことができるという効果。義務化は投票者に強い内的動機づけをする。間接的な妨害は内的な動機づけには勝てないので、かなりの不正をキャンセルできるということだ。
義務化はだいたい罰金を伴ってる。これはヒトの脳は獲得よりも損失に強く反応するから。
額は問題じゃない。なぜなら、たとえ微額であっても損失を防ぐためになら人間は行動してしまうから。フリーミアムモデルの話でよく言われたんだけど、たとえ1円でも「支払い」が生ずるようにすると利用者はガクッと減る。微額の罰金は投票を大きく前進させる。
この好例がオーストラリアの制度だと思う。シンガポールの例なんかでは相当な厳罰なのが、オーストラリアはたったの20豪ドルの罰金になってる。これ、日本円で2000円だけど、物価のクソ高いあちらの人の感覚だと1000円とか、もしかしたら500円くらいかもしれない。このくらいの名目的な徴収で、シンガポールと同等の投票率90%が確保できてるんだから素晴らしいと思う。
日本でやるとしたら、反則金500円とかかな。もちろん前科とか賞罰とかには入れない。単なる500円の支払い。こういうのでも非常によく反応する人は多いので、選挙の民意調査としての質は非常に高いものになると思う。
罰金がどうしてもあかん、という意見が強かったら、報奨金にしてもよい。名目的な額(やっぱり500円とか)を最初に配っておいて、投票しなかったやつには返納させる。一度得たものを失うことは単なる損失より大きいので、効果は罰金と同じか、もしかしたらさらに強くなるかもしれない。
これでようやく民意の正確な調査に近づくわけだ。
……こんな感じで考えてると、現行制度の「不正確さ」がいかにおかしなものか実感できるんじゃないですかね。
投票は義務にすべき。
アシモフの短編集。収録されてる短編『投票資格』は超電子脳マルチヴァクもの。標本調査が行きすぎて1人を徹底的にインタビューすることが大統領選挙、という未来のアメリカが描かれてます。中立性が担保できれば理論的にはここまで行けるよねw 50年以上前に見通してるのがすごい。