リモートの読書会のテキストになったもので、ぼくはこの著作を全然知らなかった。
読後「これはとてもいい本だ」と思った。
一言で言えば、ぼくにとっては「共産党の綱領では解像度が低かった、1980年代から『失われた30年』が大企業支配と対米従属を基軸にコンパクトにまとめられている」からだった。
「あとがき」で本書の成立事情について次のように筆者は書いている。
研究所として上梓した2つの拙著『現代日本再生産構造分析』(日本評論社、2013年)と『衰退日本の経済構造分析——外需依存と新自由主義の帰結——』(唯学書房、2024年)の内容を中心に、多くの人が読みやすいように簡潔に書き下ろしたものである。後者の拙著の刊行後に、いくつかの学会・研究会で拙著の内容を報告させていただく機会をいただいたが、その際、多くの先生方より、一般向けの著者にまとめ直して刊行するようおすすめいただいた。(p.147)
専門書の内容を、140ページほどに短縮してわかりやすく書いたものだということだ。
コミュニストとして革命運動をやってきたぼくは、戦後日本の資本主義がどのようなものだったかのかを概括して理解しておくべきだという気持ちがある。なーんて大見得を切ったものの、気持ちがあるだけで、全然勉強していないのだが。
共産党は2004年に新綱領を制定して、そうした叙述をしている。しかし、不破哲三が起草しているせいであろうか、戦後からの経済構造の基本的なことが書かれているという感じで、1980年代以降の資本主義はぼんやりとしてしまうのである。
共産党綱領には「『逆立ち』財政」の記述が未だにあるのだが*1、これ自体はいかにも1990年代からせいぜい2000年代くらいまでの認識がそのままになっている。*2
そして、共産党の現場でも需要面からの把握や理解が多い。労働者に分配されていない、という話である(これはこれで正しい)。
企業サイド、つまり資本主義の蓄積がどのようにヤバいことになっているか、という点からの把握や理解は断片的である。
もちろん、2022年ごろに共産党は「やさしくて強い経済」という打ち出しをしていてその中で本書で書かれている話の一部を断片的にしている。
本書を読んでぼくはどのような認識を持ったのか。
高度成長期の構造も確かに輸出依存型だったが、1980年代はそれとは構造的に区別されさらに歪な形となっていた。
鉄鋼などの素材系産業はすでに衰えていたが、自動車・家電が中心となり、その集中豪雨型の輸出を、減量経営やME(マイクロエレクトロニクス)化などのコストカットによる国際競争力強化によって実現した。賃金はそれなりに上がったが、雇用自身は増えない。逆に言えば、減量経営による人減らしの中でも、一応企業の外には放り出さず、企業の中に抱え続けた。
問題は、これを90年代も追求しようとしたことである。自動車・家電などをコストカット経済によって乗り切ろうとしたために、リストラと非正規化が大規模に起こった。
さらに、アメリカは冷戦構造の崩壊とともに、これまでのような庇護ではなく、日本をライバルとして扱おうとし、日本に対する要求を次々と突きつけ、致命的なことは、アメリカ式の経営を持ち込み、日本企業は、株主のために「短期的利益」を上げることが至上命題となった。
1980年代と違い、日本の輸出はアジアとの競争にさらされ、アメリカは中国をパートナーにすることで回復・成功したが、日本がやったコストカット経済は失敗した。そして、リストラと非正規化により人材が流出し、産業がすごい規模で没落していった。
需要面では、コストカット経済によって国民・労働者が貧しくなり、供給面では短期的利益の追求が至上命題となった結果、長期的視点での経営・研究開発が痩せ、人材流出が続いた。
政府のお金の使い方がまともな競争力強化や産業支援ではなく、「官製市場」化、つまり既得権益や縁故に利権を与えるだけのいわば「甘やかし」をしている政策が中心になった。
アベノミクスはこの構造を改善するどころか、一層強化した。
本書では「既得権優先の経済政策」としてこれを批判している。金融政策は円安と金融利得(株高)を拡大するためのものでしかなく、輸出産業の支援、しかも「甘やかし」的な支援でしかなかった。
「アベノミクス」以来の経済・産業政策は、円安誘導による輸出産業支援、公共事業や公的部門の民間開放・官製市場化を通じたビジネスチャンスの提供、原発・火発を温存するエネルギー政策など、旧来技術に立脚した既得権益の温存をはかり、大手企業に短期的収益を保証する性格のものが多かった。(p.113)
日本の一人当たりのGDPは2000年代に米国を下回った。つまりそれまでは日本が上回っていたのであるが、今や44.5%にまで低下している。
下図は本書に載っているグラフだが、国内需要も国内供給力も衰退しているのがわかる。これとあわせて、貿易特化係数がマイナス、つまり貿易赤字となる都市が増えていっていることを見れば、日本の資本主義としての衰退がよくわかる。
そのような衰退の中で、大企業の経常利益だけが異常に伸びているという歪さも。

筆者(村上)はこのような構造を作り出した「根因」=規定的要因を「外需依存、対米従属、長期政権」という3要素にまとめている。
さらに筆者による次の指摘は重要だ。
持続可能な国内供給能力の形成を欠くことはできない。貿易赤字が常態化し、国内市場への輸入品の浸透が広がっている今日、供給力拡充を欠いた内需拡大策は、さらなる円安と物価上昇を招く要因となり得ることに留意が必要である。(p.146)
例えば給付金や減税で仮にいくら国民にお金をばら撒いても、そのお金で買うエネルギーや食料が輸入でしかなければ、ますます円安と物価上昇を招いて意味がなくなってしまうというわけだ。
書物としての本書をどう使うかについてだが、左翼、なかんづく共産党界隈の活動家は、ぜひこの本を読んで、1980年代から失われた30年全体にわたる概略的な日本資本主義像をつかむべきだ。そうした認識の形成にものすごく役に立つ。
特に参考文献として注に書かれているものは、学者ではなく、素人左翼である我々にとって勉強していく上で実に好都合なリストになっている。個人的に興味を惹かれた文献・論文を以下に数冊挙げておく。
- 平野健「現代アメリカのグローバル蓄積体制と中国」(『季刊経済理論』2020年1月)
- 河音琢郎・平野健「アメリカ資本主義の現段階」(『経済』2024年11月号)
- 萩原伸次郎『日本の構造「改革」とTPP ワシントン発の経済「改革」』(新日本出版社)
- 関岡英之『拒否できない日本』(文藝春秋)
- 國島弘之「株価高騰と株主〈投資ふぁんど〉主導型コーポレート・ガバナンス」(『経済』2024年9月号)
- ロナルド・ドーア『誰のための会社にするのか』(岩波書店)
- 菊池信輝『日本型新自由主義とは何か』(岩波書店)
- 柚木澄「アメリカ式経営の導入と日本的経営」(『経済』2020年11月号)
また、著者は高校の教諭から大学の研究者になった(現在、中央大学教授)というユニークな経歴の持ち主で、高校卒業者の進路指導の現実などから表象を得て本書を書いていることも興味深い。
余談だが、ぼくはこの本を読んでからしばらくして、自分自身が少し前にこの著者に会って長く話をしたことがあるのを、ようやく思い出した。
処方箋についても書かれているが、大きな方向しかない。
ただ、村上ではないが、この本を読書会で紹介した人が、原丈人『「公益」資本主義』と同じ方向性であることを述べていた。もっとも原がヒントになった岸田政権の「新しい資本主義実現会議」は高市政権になって廃止されてしまったようだが…。
本書は、一般人向けにわかりやすく書かれたとはいえ、それでも難しい記述は少なくない。
この本で述べていることが理解できるように学習会をやったらいいと思う。ぼくもまだわからないことが多いので、ぜひ地元でやりたいものだと思った。