SBIホールディングス(以下、SBI)が、将来的に米Ripple社の価値を取り込み、株価を大きく飛躍させるのではないか──。この期待は、多くの投資家が抱く関心事です。これまでの議論を整理し、その可能性と現実について解説します。
#### 1. SBIが現在得ている「2種類の利益」
まず、SBIがRipple/XRPから得ている利益は、大きく分けて2つあります。
一つ目は「投資利益」です。SBIはRipple社の株式を約9%保有しており、その持分に応じた利益が計上されます。しかし、Ripple社は未上場であるため、会計ルール上、SBIはRipple株を「取得原価(数10億円規模)」で計上しています。アナリストによる公正価値の推定でも約200億円と、SBIの企業規模から見れば限定的です。
二つ目は「事業利益」です。これは、SBIグループの暗号資産交換所「SBIVCトレード」などが、XRPの取引サービスを提供することで得られる収益です。こちらはより現実的な利益であり、年間でおおよそ60億円から80億円規模に達すると推定されています。
#### 2. 「1.7兆円」という潜在価値の正体
投資家の期待の源泉は、上記の利益よりも、むしろRipple社が保有する膨大なXRP資産にあります。
Ripple社は、直接保有分と「エスクロー」と呼ばれる仕組みでロックアップされている分を合わせ、約417億XRPを管理しています。現在の市場価格(1XRP=461円と仮定)で換算すると、その価値は実に19兆円を超えます。
ここにSBIの株式持分(約9%)を単純に掛け合わせると、「約1.7兆円」という巨大な金額が算出されます。これが、SBIが間接的に保有していると見なせるXRPの理論的な価値であり、株価上昇への期待の根拠となっています。
#### 3. なぜ「1.7兆円」は株価に反映されないのか?
では、なぜこの莫大な潜在価値が、現在のSBIの株価(時価総額約1.5兆円)に反映されていないのでしょうか。これには明確な理由が2つあります。
第一に「会計上の壁」です。SBI自身が、決算資料などで「Ripple社がIPO(新規株式公開)するなど、公正な市場価格が形成されるまで、同社が保有するXRPの価値は自社の資産評価に算入しない」という方針を明言しています。帳簿に載っていない資産は、公式な企業価値とは見なされません。
第二に「市場の評価の壁」です。株式市場は、実現するかどうかわからない未来の利益や、会計に計上されていない資産価値を、額面通りに評価することはありません。これを「ディスカウント(割引)」と呼びます。「1.7兆円」はあくまで理論値であり、実現の不確実性が高いと見なされているため、現在の株価にはほとんど織り込まれていないのが実情です。
#### 4. 今後の鍵を握る「IPO」シナリオ
この状況を打開する最大のイベントが、Ripple社のIPOです。IPOが実現すれば、Ripple株に明確な市場価格がつき、SBIは保有株の評価益を会計に計上できるようになります。
ただし、過度な期待は禁物です。専門家の間では、IPOの実現は早くとも2026年頃と見られています。また、仮に上場したとしても、その時の企業価値(時価総額)が例えば2兆〜3兆円程度であれば、SBIが計上できる評価益はまず「数百億円」という規模からのスタートになるでしょう。Ripple社が保有するXRPの価値すべてが、一度に企業価値として上乗せされるわけではないからです。
#### 結論
SBIとRipple/XRPの関係は、確かに大きなポテンシャルを秘めています。しかし、現状でSBIの財務諸表に直接貢献しているのは、年間60〜80億円規模の事業利益が中心です。「1.7兆円」という潜在価値が株価に本格的に反映されるには、IPOという大きなハードルを越える必要があり、それにはまだ時間が必要です。
したがって、「来年すぐにでも株価が2兆円分上昇する」というシナリオの実現可能性は低く、まずはIPOの動向と、その際に市場がRipple社の企業価値(XRP資産を含む)をどう評価するのかを、冷静に見守る必要があると言えるでしょう。