先日、祖母が緊急入院をした。
コロナにかかって2ヶ月ほど体調をくずしていたわたし。久しぶりに元気が戻り、久しぶりに電車に乗った日だった。
ちょうど乗り換えの駅で、親族から電話がかかってきた。ちょうど近くの病院にいるという。
タイミングを見計らったか?なんて思う。祖母はたまに、ちょっとしたたかなところがあったから。
本人の様子はよくわからないけれど、親族の声がいつもと違うので、なにかを察し、病院に向かうことにした。
救急の待合は重い空気だった。しばらくして救急の先生に呼ばれ説明をうける。それはすごく的確で、冷静で、対応を迫られるなかでも、ひとつひとつ丁寧な話し方だった。治療のリスクや可能性、家族の意志もきちんと確認をしてくれて感謝しかない。
ただ、そこに、躊躇なくだすしかない、看取りという言葉には、正直、わたしの耐性がまだできていなかった。
うちの親族には、すぐに冷静さを保てなくなるひとがいて、この狭い親族というコミュニティでは、冷静さを保つための要員となることがある。
「大丈夫だよ。」
とは、ここでは定型文でしかないなあと思いながらに口に出す。
でもほんとうは、ずっと、口の中を噛んでいた。
どうにもできなさ。不安。いつかのだれかや、いつかの自分を重ねてしまう。どうにもできない、人間であること。
こういう気持ちは、見える景色をうそのように塗り替えてしまい、ここがどこだかわからなくなる。わたしは、それがとてもこわい。だから、口の中の痛みを頼りにして、明日は辛いもの食べられないなあ、と考えることでやりすごす。
しばらく待って、処置は成功し、先生いわく想定よりも悪くなかったと伝えられた。ただ、年齢的なこともあり、なんとも言えない部分もある。と。
処置後に通してもらった病室はかなりシビアな環境で、少し前の咳をしていたわたしなら、会えなかっただろうなと思った。
入院の説明を親族と一緒に聞いて帰る。できることもない、ただ、そういうものだ、として家に帰った。
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集中治療室での面会は、コロナ対策や患者の体力等のこともあり、10分という制限時間が設けられている。
鍵のかかっている扉からインターホンを押して病室に案内してもらった。
祖母は眠っていた。管や患部に触れないように手の自由を奪われたまま。
迷った。
起こしていいだろうか。
他の患者さんもいる中で、大きな声を出すのも憚られるし、いちおう声もかけているが、起きなさそう。
迷った。
例えばもう会えないとしたら。
例えば起こすことで容体が悪化したら。
例えばなにをしても起きなかったら。
8分くらい様子をみていたが、時計を気にしながら自分の体勢を変えると、ベッドの手すりに軽く腕をぶつけて、ガタッと音を立ててしまった。
すると、ビクッとしてバチッと、ちいさなちいさな目を開けた。
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祖母とは別居だったが、3歳くらいのとき、一度、わたしの子守りで祖母が家にきてくれたことがある。その頃祖母も働いていたし、珍しいことだったと思う。なにをしたかは覚えていない。うどんを作ってくれたような気がするけどそれも朧げ。
ただひとつ覚えていること、
祖母と昼寝をしていたが、先に起きたわたし。起こしても起きなかったのか、なんでそうしたのか忘れたけれど、寝ている祖母を起こしたくて、わたしは、わざと、おもちゃの箱を落とした。
大きめの音が鳴った気がする。
そりゃびっくりするだろう。
ビクッとしてバチッと目をあけて、だいじょうぶか?と言った。
そのときの反応とまったく同じだった。
そのとき同様わたしは、ごめん、と思った。
でも、ちょっと、しめしめと思った。
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気持ちよさそうに寝てるから起こそうか迷っててん、おきてくれてよかった!というと、
祖母も口を動かしてくれている。
数年前の脳梗塞の後遺症でなかなか言葉が出ないのだけれど、それでもなにかを言いたそう。
うん、うん、と聞きながら、言葉を待っていると「よかった」と言った。それまでの部分はわからなかったけれど、よかった部分だけはっきりと言った。
よかったんだね。
それなら、よかった。
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その後、一般の病棟に移動したところである。お医者さんはすごい。医療はすごい。それが、先生によると今回の治療をして耐えられる人は2割ほどだということだった。それを耐えたらしい。わたしは驚いている。医者も親族も驚いている。脳梗塞の時も思ったが、あなた、つよすぎる。
とはいえ、会う度に、なにかを感じることがある。なにかが遠のいていくような、近づいてくるような、いや、そんなことはないと思う。変わらぬ日常。そんなこともないのだけれど。
返事ははっきりしないが、意識はあるし、言葉はわかっているようだから、とりあえず言葉を続ける。
ほんとうのこと、ほんとうになってほしいこと。それはもう、ほとんどうそではないかと思いながら。
「したたか」の言葉の意味、あざとくてずる賢いだと思っていたけれど、調べると単純に「強い」らしい。やはり、祖母はつよい人なのか、なんて思っておく。
でも、つよい人なんていないからね。
だからどうすればいいんだろうね。
わたしには、どうすればいいかずっとわからないから、
もうちょっと付き合ってもらおうと思う。