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総務省「事業者間ローミング検討会」、2025年末頃に“フルローミング”“緊急通報のみ”それぞれを導入へ

 総務省は5日、「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会 第3次報告書」に関する意見募集結果を発表した。キャリアの通信障害時や災害時に、ほかのキャリアの通信網を使ってサービスを利用できるローミングや、各社が提供している公衆Wi-Fiの開放などについて、その実現性や課題などが議論検討された。

公衆Wi-Fiの開放と「00000JAPAN」

 無線LANビジネス推進連絡会では、大規模災害時に公衆Wi-Fiの無料開放に関するガイドラインを制定し、携帯インフラが広範囲に影響を受け、それが長時間継続する恐れがある場合や自治体などから要請があった場合に、統一SSID「00000JAPAN」で公衆Wi-Fiが開放される。直近では、2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震で開放されている。

 キャリアの通信障害に関しても、携帯電話事業者からの要請を受け、2023年5月18日からキャリアの通信障害時にも「00000JAPAN」で公衆Wi-Fiを開放するガイドラインを制定し、9月から運用が可能になった。

 ガイドラインでは、通信障害が発生した際に、そのキャリアがほかのキャリアに障害が発生したことを通知し、復旧に時間がかかると見込まれた場合は、ほかのキャリアや連絡会に「00000JAPAN」の開放を依頼することになっていた。

 しかし、12月11日午前に発生したKDDIの障害(西日本エリア)では、設備支障が発生していた時間が22分と短時間であったため、ガイドラインに基づく「00000JAPAN」の開放を依頼しなかった。

 検討会では、12月の障害の影響エリアが広範囲だったことや、設備支障の解消後も利用しづらい事象が続いていたことを踏まえると、「00000JAPAN」の開放依頼を行えるよう条件を再検討するという意見もあったという。

事業者間ローミング

 通信障害や災害時など非常時に、ほかのキャリアの通信網を利用して通話や緊急通報、データ通信などのサービスを利用できる「事業者間ローミング」について、一般の通話や緊急通報、データ通信、通報を受けた警察や消防などからの呼び返しができる「フルローミング」方式と、緊急通報の発信のみできる「緊急通報のみ」方式の2つを中心に技術的な検討が進められてきた。

 たとえば、先述の令和6年能登半島地震では、携帯電話サービスに支障が生じていた地域の中でも一部のキャリアのみ障害が発生していた地域もあり、これらの地域では事業者間ローミングが発動できれば効果的であったとしている。

 事業者間ローミングにあたっては、「平常時には正常に行われていた通信が通信障害、災害等により一時的に不可能となった場合に代替的に提供されるサービス」と位置づけており、災害や通信障害など通信支障の種類に応じて具体的な運用を今後進めていく。また、基本的にはすべての利用者に制限を設けることなく提供すべきサービスだとし、「メイン/サブブランドの違い」や「MNOとMVNOの違い」といった技術的な条件以外の理由による制約を設けることは望ましくないとする。

 また、同様の効果が期待できる「副回線サービス」では、基本的に異なるキャリアのSIMを使って通信するものであるため、主回線の電話番号を利用することは難しい。事業者間ローミングでは、「SIMを切り替えることなく、ほかのキャリアへ迂回して利用できる」ことが要件の1つに数えられている。

フルローミング方式

 「フルローミング」方式は、一般の通話やデータ通信ができる方式で、緊急通報時は消防や警察など緊急通報受理機関から発信者の電話番号が確認でき呼び返しができる方式。検討会では、LTE回線での提供を想定している。

緊急通報のみ方式

 「緊急通報のみ」方式では、障害があるキャリアのHSS(Home Subscriber Server、加入者情報を管理するデータベース)での認証可否に応じて分けられている。従来は、障害発生時にHSSへのアクセスができないものと考えられていたが、障害によってはアクセスできる可能性があると明らかになったためだ。

 HSS認証が機能する場合、緊急通報受理機関は発信者番号が確認できるようになる一方、機能しない場合は、IMSI番号(International Mobile Subscriber Identity、国際移動体加入者識別番号、加入者に割り当てられている識別番号で電話番号とは異なる)が通知される。

 なお、どちらの場合もコアネットワークに障害が発生しているため、緊急通報受理機関から呼び返しはできない。

緊急通報のみ方式も検討課題に

 従来はフルローミング方式のみが検討されていたが、これに加え緊急通報のみ方式も、2025年末頃を導入目標時期と定め、官民連携で準備を進めていく。

事業者間ローミングに課題も

 なお、事業者間ローミングを運用した際、既存の一部端末で緊急通報が利用できない端末があるという。

 また、フルローミング方式では、契約キャリアの電波がつかめなくなった際には自動でローミング先に切り替えることができるが、コアネットワーク障害時など「電波はつかめるけど通信できない」場合は、ユーザーが手動で切り替える必要がある。

 たとえば、先述の2023年12月の障害発生時には、一部ユーザーで障害が発生している一方で、利用できているユーザーもあるため、一律で停波する措置をとることができない場合が想定される。

 また、主にエリア対策用にキャリアがユーザーに貸し出している小規模基地局(フェムトセル)などでは、事業者間ローミング実施のうえで一括で設定できる機能は備わっていないため、事業者間ローミングの対応は行わないとしている。

 このほか、緊急地震速報など(ETWS)について、ローミング中は一部機種で鳴動しない事象があり、端末のソフト更新やキャリア側で解消に向けた検討を実施することなどが議論、検討された。

 あわせて、事業者間ローミング実施時にユーザーが対応すべき手順や、利用できないサービスがあること、条件などをユーザーが簡便にかつ正確に知る手段の確保が求められるとした。

5Gでの事業者間ローミングやWi-Fi Calling検討を求める声も

 今回の検討案については、おおむね賛同の意見が寄せられた一方、5G通信での事業者間ローミングやWi-Fi Callingを検討するよう求める声も寄せられた。

 5G通信については、5Gの新周波数を使って音声/ビデオ通信を行うVoNR(Voice over New Radio)の導入予定が未定という状況であるため、今後導入ニーズなどを踏まえ検討していくという。

 Wi-Fi回線を利用して音声通話やSMSが利用できるWi-Fi Callingについては、今回の検討会では対象外としたものの、今後の参考にするとした。