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ソフトバンク孫氏、株主の不安に「株主価値」をあらためてアピール

質疑では60代退任方針への問いに「だいたいそんな感じで」

孫氏

 25日、ソフトバンクグループは株主総会をオンラインで開催した。1時間のプレゼンテーション、40分の質疑で構成される形となった。

 世界恐慌やコレラの流行など、歴史上、人類の日常を大きく変えてきた出来事を振り返った代表取締役社長兼会長の孫正義氏は、「新型コロナウイルス感染症は、900万人への感染が確認された。解決するため、デジタルシフトが一気に加速する」との見通しを示す。

 会議、配達、ショッピング、エンターテイメント、あらゆることがオンライン化すると指摘する孫氏は、ソフトバンク自身の事業としてネット通販やフードデリバリーなどが、世界中で業績を伸ばしていることを紹介し、今後注力する分野とする。

ごもっともな心配に「株主価値」を紹介

 一方で、直近の決算で巨額の赤字となったことで株主が抱くであろう不安に孫氏は「ごもっともな心配」と述べ、ソフトバンクグループが保有する株式の価値を説明。

 これは決算会見でも紹介されたものだが、今回は最新の株主価値が開示された。孫氏は「最大の赤字だが、営業利益あるいは純利益での赤字だ。それは私にとって、たいして大きな問題ではない。より大きな問題は23兆円の株主価値が21.7兆円に減ったことだ。しかし6月24日時点では、12月末時点よりも増えた」と述べる。

 ソフトバンクグループの株価が一時半減したことは、新型コロナウイルス感染症の影響で株式市場が過剰反応したのでは、とした。

Tモバイルの株式

 孫氏は、2日前に発表した米Tモバイル株式の売却を紹介。

 「米国参入に意気込んだが、スプリントの買収がソフトバンクの足をひっぱり、大きな負債となり、心配をおかけした。ソフトバンクはだめだ、ソフトパンクだ、と心配をおかけしたが、大半が明日、入金ということになった」とコメント。

 2.1兆円で買収したが、当時、借入額が大きく「ソフトバンクはばくち打ちだと心配される」(孫氏)。今回の売却見込み額を示した孫氏は、まだ手放していない株式があることを踏まえつつ、借入額はほぼ同じながら、7年間で5倍近く株主価値が増えたと胸を張る。

株式価値の成長をアピール

 2019年12月末を100とした場合、ソフトバンクグループの保有する株式は、平均的な株価を上回る成長となった。これに孫氏は「実はあまり下がっていなかった。むしろ最近は上がっている。デジタル情報革命は、何が起きても変わらず伸びていることが背景にあるのではないかと思う」と語る。

 通信量の伸びとソフトバンクグループの株主価値(保有株式の価値から負債を除いた数値)を重ねた孫氏は、1995年から保有してきた事業体の内訳を紹介。当初はヤフー、そして携帯電話事業が大半を保有する時期を経て、アリババが2014年から価値が顕在化。現在はArmやソフトバンクビジョンファンドなどを含め、複数の柱がある状況を示す。

質疑

――以前から60代で次の経営陣にバトンタッチする意思を示していた。変わりはないか。

孫氏
 変わりはない。あと7~8年は元気に続けたい。69歳くらいになったら、医学も最近進んでおり、おおむね60代と言い張って少しオーバーするかもしれない。だいたいそんな感じということで、69歳の誕生日を過ぎたら退場とは言わないでいただきたい。約束はおおむねということで、今のうちに修正しておきたい。そのときの私の健康状態、事業の状況にもよる。ちょっと違っても責めないでほしい。

――投資先の決定をどうするのか、社長個人の能力に頼るのは限界があるのでは?

孫氏
 私の能力、結構自信があります。ありすぎて、ワンマンとかよく言われるが、自信って大事。しかしこれだけ多くの投資を行い、グループを率いるのは、私個人の能力が(ソフトバンクグループの)限界になってはいけない。能力を備えた社員、幹部がどんどん増えている。

 ビジョンファンドも、ラジーブがいなければ存在し得ない。Grab、Uberなどビジョンファンドを始めたからこそファミリーカンパニーとなっている。ビジョンファンドが大いに伸びると思っている。総力戦で伸びている。

――配当額があまりに低い。

 配当がないかもしれない、ということを3月末に発表しました。当分期待しないでほしいというのが私の気持ち。同じ株主還元として自社株買いを2.5兆円実施すると発表した。

――新型コロナの影響で新興企業が苦しい状況にある。雨が降ったときこそ、傘を貸すべきではないか。

孫氏
 我々は貸金業ではない。担保をもとに資金を提供するわけではない。将来性を見て投資する。絵にかいた餅のようなビジネスプランでは、一歩間違えるとWeWorkのようなことになる。今は良い方向にWeWorkは進みつつあり、期待はしている。ただ救済するために資金は提供しない。成長するから伸びる。雨が降ったら貸すのではない、晴れがもうすぐ見えるときには大いに傘を貸す。

――Armはどのような技術があるのか。

孫氏
 スマートフォンにはCPUがある。クルマでいえばエンジン。世界中ほぼ全て(スマートフォンに搭載されるCPUの中核は)Arm。自動車にも搭載され、最近ではAI機能を搭載、あるいはAI用チップをセットにしている。AI化がどんどん進んでいる。

――Armへの今後の期待は?

孫氏
 その素晴らしさを何度も申し上げたが、その想いはますます強くなっている。デジタル情報革命の、ある種のペースメーカー。CPUによって情報革命が起きる。エネルギーとしてデータが投入される。両方が重なってデジタル情報革命が進む。すべての企業が何らかの形でArmを使う。

――自社株買いの方針は?

孫氏
 方針として2.5兆円の自社株買いを発表した。4.5兆円の軍資金の8割をすでに入手し、残り2割にもめどが立っている。着実に実行したい。

――投資先のシナジー追求が全体的に甘い。

孫氏
 シナジーは強制できない。20~30%前後の株式を保有する形で、アリババも同様。アリババに一度もシナジーを強制したことはない。素晴らしい会社であれば立派に伸びていく。

 業務提携は何度も行い、成果もいたるところにある。シナジーはなんとなく動かし、お互いに協力しあうと大株主の我々がハッピーになる。彼ら(投資先企業)が我々のファミリーのままでありたいと思えば、良い意味での忖度が働く。

――OneWeb、WeWorkで多額の損失を計上した。誰も責任を取らない。理解に苦しむ。

孫氏
 最大の責任は私にある。WeWorkも、当社の幹部や社員は最初からたくさん反対していた。怒り狂ったような人もいた。

 私も言い返しながら、皆で合意して投資した。減俸すべきは私。わたくしはソフトバンクからの報酬は減俸している。事実上、うちの人事から、報酬について問われ、2億円を1億円に決めた。そして全額を寄付している。事実上、寄付を含めると報酬はゼロ。

 一方、ソフトバンクの筆頭株主ですから、株価が下がれば最大の減俸になる。私に対する一番の罰になる。投資家のみなさんが懲らしめようと思えば株価が下がるでしょうし、成功した部分が大きいと思えば上がる。総合的な判断を毎日いただいている。

――ポストコロナで、もっとも注力したいのは?

孫氏
 オンライン教育、オンラインエンターテイメント、オンラインワークプロセスなど、ネットを使った革新、情報革命をやりたい。範囲は広がる。あらゆるものがデジタルトランスフォーメーションする。自動運転なども今後、大いに伸びる。全て共通しているのは、デジタルトランスフォーメーション。これを活用すること。オールドエコノミーへ一切投資する気はない。

――取締役2名増員の理由は?

孫氏
 社外役員が2名に減っていた。4名に戻す。できるだけガバナンスを強化する。幹部も私に言いたい放題、意見する。喧々諤々やっている。でも社外から意見をいただくのは襟を正す状況。そのため増員した。

――投資先88社のうち何社がアリババのように成長するのか。

孫氏
 アリババはまだ成長中。株価で世界トップ5に入るような規模。1~2社は同程度になってくれるのではないか。あるいはミニアリババのような企業は10社くらいになるのではないか。

――チャットで質問を送り、議長が読み上げるスタイルは都合の良い質問だけ取り上げることになるのではないか。

孫氏
 同じ部屋にいながらというのは素晴らしい。コロナの状況が変われば、またやりたい。ただネットの良さもある。グループ各社もオンライン株主総会を実施したが、たしか4万人、同時に視聴していた。それだけの人がリアルに集まり質問するのは難しい。今回であれば実現できる。完全オンラインは今回初めて。さらに進化させたい。

――孫氏の突っ走りに待ったをかけられる人物はいるのか。

孫氏
 先日、川本さん(社外取締役の川本裕子氏)とミーティングして、多くの意見をいただいた。タジタジになった。先が思いやられる……いや、素晴らしいなと思った。早稲田の教授、金融界の専門家として深い見識があり、素晴らしい指摘をいただける。

 (同じく社外取締役の)飯島さん(飯島彰己氏、三井物産会長)、松尾さん(松尾豊東京大学教授)からもどんどん指摘をいただいている。米国からの新しい役員はケイデンスの会長で、会長就任後、株価が20倍などになるなどとても伸びた。

 でもね、待ったをかけるばかりが良いとは限らない。突っ走って良い結果になることもある。ケースバイケースで頑張りたい。

――7000円以上の自社株買いはやめてほしい。Tモバイルをこれ以上売らないでほしい。

孫氏
 いくらなら正しいのか、その時の保有する持株の価値、資金繰りなど総合的に判断しなければいけない。いくらなら買う、買わないを公言するのは控えたい。掲げた方針は着々と進める。

 Tモバイルについては、その価値に期待されているのであろう。残りの株式は4年間、売ってはならないという約束になっている。原則そうなる。ただ相手との交渉、我々の状況による。今回も交渉で変わった。今回の変更では、ドイツテレコムが先買い権を持っていて、購入する可能性があるということになっている。Tモバイルの成長は大いに期待している。

――衛星事業に進出するか。

孫氏
 OneWebで通信衛星事業を考えた。しかしロケット打ち上げなどの衛星事業は進出しないだろう。

孫氏、アリババ役員を退任

最後には、13年間、取締役を務めたアリババグループ創業者のジャック・マー氏のことがあらためて紹介された。あわせて本日、アリババへ申し入れ、孫氏もアリババ側の取締役を退任することが紹介された。

孫氏とマー氏

 孫氏は「ジャックが卒業するのにあわせて、私も退任することにした。この場を借りて皆さまに伝えたい。これまでのジャックの貢献に感謝したい。退任後もソフトバンクグループはアリババの筆頭株主。そしてアリババは当社最大の財産。ジャック退任後は、ダニエル・チャンが引き継いでいる。私とジャックの退任は、彼を大いに信任するという意味でもある。アリババの株はできるだけ長く持ち続けたい」と述べ、株主総会を締めくくった。