法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

堅実なラインナップで秋冬商戦に挑むau 2018年秋冬モデル

 10月11日、KDDIと沖縄セルラーは2018年秋冬モデルとして、スマートフォン4機種とフィーチャーフォン1機種を発表した。例年、秋冬商戦は毎年9月に発表されるiPhoneも含め、てハイスペックなモデルが並ぶことで知られているが、今年のauはすでにグローバル向けに発表済みの2機種を含め、堅実なラインナップを並べた。10月下旬から順次、販売が開始される予定だが、説明会全体と各機種の印象などをレポートしよう。

auの2018年秋冬モデル

スマートフォンを楽しむ

 ケータイに代わり、スマートフォンが市場の主役になったと言われて久しいが、スマートフォンが進化を遂げる一方、ユーザーが求める機能も変化しつつある。かつては製品としての完成度の高さや動作の安定性が重視されていたが、ここ数年はSNSの利用拡大により、カメラ性能を求めるユーザーが多く、最近ではマルチカメラの搭載により、ボケ味の利いた写真がひとつのトレンドとなっている。

 もうひとつ最近、明確に動きが見られるのがエンターテインメントに対するニーズだ。スマートフォンでは元々、YouTubeなどの動画を視聴するユーザーが多かったが、各携帯電話会社が1カ月のデータ通信量が数十GBクラスの大容量プランを提供する一方、映画やドラマなどが視聴できる映像配信サービスが注目を集め、通勤や通学、空き時間などに視聴するユーザーが増えている。各携帯電話会社が提供するdTVやビデオパスをはじめ、HuluやAmazonプライム、そして2015年に日本に上陸を果たしたNetflixなど、各社の競争が激しさを増している。

 こうした状況に対し、端末メーカーは映像コンテンツなどを視聴しやすいモデルを開発し、市場に投入している。ディスプレイサイズは6インチ前後と大型化する一方、家庭用テレビのノウハウを活かした高画質のディスプレイを搭載する製品が増えてきている。

 今回発表されたauの 2018年秋冬モデルの内、まさにこうしたエンターテインメントを楽しむ強力な2機種をラインナップに加えている。auは今年5月、Netflixの視聴サービスをバンドルした「auフラットプラン25 Netflixパック」を発表し、8月29日から申し込みを開始したが、すべり出しは予想をはるかに上回るスタートと伝えられており、これに応える2機種を投入する形になる。Xperia XZ3とGalaxy Note9はいずれも有機ELディスプレイを搭載し、色鮮やかな表示が可能であり、Netflixやビデオパスで配信されるHDR対応コンテンツも視聴できる。Xperia XZ3がよりエンターテインメント性が強いのに対し、Galaxy Note9はエンターテインメントに加え、Sペンによる手書き入力やリモート操作など、機能性の高さも持ち合わせており、オールマイティな強さを見せる。

 残りの機種についても確実にユーザー層が存在する機種を並べている。各社向けを合わせて、シリーズ全体で200万台というヒットを記録したAQUOS senseの後継モデル「AQUOS sense2」、使いやすさを考え、チュートリアルなどを充実させた「LG it」、そして、今年7月に開発が明らかにされていた「INFOBAR xv」がいよいよ秋冬モデルとして、11月下旬に販売が開始される。

 この他にもアクセサリー類として、今年8月にGalaxy Note9と共にグローバル向けに発表された「Galaxy Watch」がau+1 collectionで扱われることも発表された。今年4月に就任した高橋誠 代表取締役社長は、スポーツ好きで知られ、かつて「au SmartSports」に携わったことがあり、新体制らしい製品が加わったという見方もできる。

 今回の発表は『秋冬モデル説明会』という位置付けで、サービスや料金などについての発表は行なわれなかった。サービスについては前述の「auフラットプラン25 Netflixパック」のため、Netflixのコーナーも用意されていたが、同プランに含まれるビデオパスについては何も展示がなく、ややバランスを欠いている印象も残った。ただ、全体的に見れば、堅実なラインナップを揃えたという印象で、プレミアムな位置付けのiPhone XS/XS Max/XRを加えることで、今年の秋冬商戦を戦っていくことになるようだ。

 ちなみに、説明会では質疑応答で、10月に相次いで発表されたシャープの「AQUOS zero」、Googleの「Pixel 3」「Pixel 3 XL」がラインナップにないのかという質問も出たが、どちらも今回は扱わない旨の回答だった。しかし、それぞれの企業とは連携しているという回答もあり、拒否しているわけではないようだった。

 ただ、前述のように、Netflixをはじめとした映像配信サービスなどを重視するということであれば、どちらもラインナップ入りを考慮して欲しかったモデルと言えそうだ。ちなみに、AQUOS zeroはソフトバンクの専売という形で、Pixel 3/3 XLはNTTドコモとソフトバンクが取り扱うことが明らかにされている。Pixel 3/3 XLについてはauの相互接続試験をクリアしており、SIMカード(au ICカード)を装着すれば、基本的には動作するという。

堅実な5機種をラインナップ

 さて、それぞれの機種の位置付けや端末の印象などについて、説明しよう。ただし、いずれも発売前のモデルであり、試用時間も短いので、実際に発売される製品と差異があるかもしれない点はご理解いただきたい。

Xperia XZ3 SOV39(ソニーモバイル)

Xperia XZ3 SOV39

 今年8月末に開催されたIFA 2018で発表されたフラッグシップモデルで、Xperiaシリーズ初の有機ELディスプレイを搭載する。ソニーの家庭用テレビ「BRAVIA」で培われた技術を活用し、「BRAVIA」と比較しても遜色のない色彩やコントラストを実現する。通常のSDRの映像をアップコンバートして、HDRボディは従来のXperia XZ2に比べ、グッと薄くなり、持ちやすくなった印象。

 メインカメラはXperia XZ2を継承した1920万画素のイメージセンサーを採用しているのに対し、サブカメラは1320万画素イメージセンサーにより、セルフィーの利用を強化している。端末を横向きの状態で構えると、カメラを起動できる「スマートカメラ起動」も新たに搭載される。「サイドセンス」と呼ばれるユニークな操作もサポートされる。本体側面から内側にスワイプすることで、そのシーンにあったアプリの一覧が表示される。少し慣れは必要だが、意外にスムーズに操作できる印象だ。

 Xperia XZ2 Premiumに搭載されたデュアルカメラが搭載されないのは残念だが、映像コンテンツの視聴には有機ELディスプレイが適しており、大音量のフロントスピーカー、映像に合わせて本体を振動させるDynamic Vibration Systemも継承されており、エンターテインメントを存分に楽しみたいユーザーのための一台と言えそうだ。

Galaxy Note9 SCV40(サムスン電子)

Galaxy Note9 SCV40

 今年8月にグローバル向けに発表されたGalaxy Noteの最新モデル。Sペンによる手書き入力はクリエイティブなユーザーをはじめ、メモを取ることが多いビジネスパーソンや記者などにも安定した人気を持つ。今回はSペンがBluetoothに対応したことで、Sペンをさまざまなアプリのリモートコントロールに利用できる。セルフィーなど、カメラのシャッターをはじめ、Netflixの動作視聴時に再生や一時停止の操作も可能。

 6.4インチというauのスマートフォンでは最大級となる画面サイズはコンテンツの視聴に大きなアドバンテージとなるが、ゲームも迫力ある画面でプレイすることができる。気になる本体の発熱については、新開発のウォーターカーボンクーリングシステムにより、効率良く冷却できるようにしている。バッテリーはスマートフォンとして、最大級となる4000mAhの大容量バッテリーを搭載する。

 従来モデルで好評を得ていたDeXステーションについては本体のUSB Type-C外部接続端子とディスプレイのHDMI端子を接続するだけで利用できるように進化を遂げており、今まで以上に活用できるシーンが拡大している。デュアルカメラはGalaxy S9+で搭載された可変絞り機能搭載のものが継承されており、明るいシーンでも暗いシーンでも美しくバランスのいい写真を撮影できるようにしている。エンターテインメントからビジネスまで、幅広いシーンで活用できる一台。

AQUOS sense2 SHV43(シャープ)

AQUOS sense2 SHV43

 昨年、主要3社やMVNO各社で販売され、200万台という大ヒットを記録した「AQUOS sense」の後継モデル。ディスプレイをひと回り大きな5.5インチに変更し、家庭用テレビ「AQUOS」で培われた高画質技術「リッチカラーテクノロジーモバイル」により、映像コンテンツなども美しく再生できるようにしている。大画面ディスプレイを搭載しながら、ボディ幅は71mmとコンパクトで、ボディ周囲のラウンドした形状により、手にフィットし、持ちやすいデザインに仕上げている。

 防水防塵やおサイフケータイをはじめ、普段の利用に欠かせない定番機能をしっかりとサポート。バッテリーへの負荷を軽減するインテリジェントチャージにより、バッテリーの長寿命化を可能にしている。

 カメラはセンサーサイズを大型化した1200万画素CMOSセンサーを搭載し、F2.0のレンズとの組み合わせにより、うす暗いシーンでの撮影にも強い性能を実現している。インカメラも800万画素イメージセンサーを採用しており、美肌補正機能などもサポートし、美しいセルフィーを撮影できるようにしている。定番機能に安定した動作、飽きのこないデザインなど、幅広いユーザーにおすすめできるスタンダードな一台と言えそうだ。

LG it LGV36(LGエレクトロニクス)

LG it LGV36

 はじめてスマートフォンを持つユーザーをターゲットに、チュートリアルなどの自ら学ぶ機能を搭載したエントリーモデル。au公式の学習アプリ「auかんたんガイド」がプリインストールされており、タップやスワイプなどのタッチ操作の基本、音声入力、文字入力、メールの操作などを実際に画面上で体験しながら、学習できるようにしている。

 本体はコンパクトながら、程良いサイズ感にまとめられたボディで、背面のラウンドした形状と相まって、手にフィットして持ちやすい。背面カバーを外すと、最近は珍しい着脱式バッテリーが装備されている。2500mAhのバッテリーだが、必要に応じて、交換用の電池パックを購入できる。画面を二度タップするだけで、画面のON/OFFが切り替えられるLGエレクトロニクス製端末でおなじみの「ノックオン」などもサポートされており、実使用にも便利な気の利いた機能が搭載されている。従来型携帯電話からの移行を検討している初心者にはぜひ試して欲しい一台と言えそうだ。

INFOBAR xv(京セラ)

INFOBAR xv

 2003年10月にau design projectの端末として発売された初代モデル以来、日本を代表するデザイン端末として、高い人気を得てきたINFOBAR。そのデザインを現代の技術で再デザインされたモデル。初期のモデルでは実現できなかったフレームレスタイルキーを実現し、より初期デザインの「infor.bar」のコンセプトを再現できる一台として仕上げられている。

 プラットフォームはAndroidベースのフィーチャーフォンとなっているが、テザリングやLINEに加え、auの4G LTEケータイ初の「+メッセージ」にも対応する。発売に合わせ、当初の計画にはなかったオリジナルグッズも製作され、順次、発売される。

堅実なラインナップだが、物足りなさも……

 ここ数年、国内のスマートフォン市場では各端末メーカーがグローバル向けに発表したモデルを主要3社やMVNO各社が採用し、それぞれの商戦期に投入するという流れができつつある。たとえば、今回のau 2018年秋冬モデルで言えば、Xperia XZ3やGalaxy Note9が該当する。これに加え、各社のユーザー層などを考慮したミッドレンジのモデル、普及モデルなどがラインナップに並ぶ形になる。

 今回のau 2018年秋冬モデルのラインナップを見てみると、本稿で説明してきたように、堅実なラインナップを揃えてきたという印象だ。Xperia XZ3とGalaxy Note9というブランド力や知名度を持つフラッグシップに据えつつ、ユーザー層のど真ん中を幅広くサポートできるAQUOS sense2を中心に置き、はじめてのユーザーをサポートするLG it、フィーチャーフォンで個性的なものを求めるユーザーと既存モデルのファンに応えるINFOBAR xvという構成に、既存モデルやiPhone XS/XS Max/XRなどを組み合わせれば、幅広いユーザーのニーズにしっかりと応えられる印象だ。

 ただ、正直なところを書いてしまうと、やや物足りなさが残ったのも事実だ。

 今年4月に就任した高橋誠 代表取締役社長は当初から「ワクワク感」を強くアピールしているが、今回発表されたモデルの内、2機種はグローバル向けにすでに発表されauのラインナップに加わることが確実視されていたモデルで、AQUOS sense2は前週に発表、INFOBAR xvも開発は発表済みで、秋に発売されることも確実な状況だった。つまり、発表内容は「ほぼ予定通り」で、ほぼ「ワクワク感なし」になってしまった感が否めない。確かに、Netflixなどのコンテンツサービスとの連携などは「ワクワク」させる要素だが、それを今回発表されたモデルを含め、積極的にフィーチャーしているかというと、そういうわけでもなく、十分な連携が取られているような印象は少なかった。

 また、アクセサリー類ではGalaxy Watchがau +1 collectionで販売されることになったが、グローバル向けではApple Watchと同じように、eSIMに対応したモデルも販売されるなど、今までとは違った利用スタイルが拡大しつつある。ところが、国内市場は相変わらず、スタンドアローンモデルのみに限られており、これまでのスマートウォッチの基本的な流れはあまり拡大していない。

 これは少なからずユーザーに「スマートウォッチって、こんなもの」というイメージができてしまっていて、それを打ち破ろうとするアピールがメーカーにもキャリアにもできていないことが関係している印象だ。この部分はスマートウォッチに限らず、スマートフォンにも言えることで、もっとユーザーに対し、新しい利用スタイルを提案できるような積極的なアプローチが必要ではないのだろうか。

 今回発表されたauの2018年秋冬モデルは10月から順次、発売される予定で、au SHINJUKUなど、直営の各店舗ではデモ機も展示される予定だ。ぜひ一度、端末を手に取り、新モデルの楽しさや便利さを体験していただきたい。

※高橋誠氏の「高」は新字の「髙」

法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめるiPhone X/8/8 Plus超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidタブレット超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門 改訂2版」、「できるポケット HUAWEI P10 Plus/P10/P10 lite 基本&活用ワザ完全ガイド」、「できるWindows 10 改訂3版」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。