法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

スマートフォンの転換期を感じさせる「IFA 2018」

IFA 2018が開催されたドイツ・ベルリンの「messe Berlin」。IFAのオブジェは毎年おなじみ

 8月31日~9月5日まで、ドイツ・ベルリンで開催されていた「IFA 2018」。世界最大の家電展示会として知られ、例年、スマートフォンやウェアラブルデバイス、IoTなどの関連製品も数多く発表されてきた。本誌では現地からの速報記事をお伝えしたが、新製品の発表内容なども含め、レポートをお送りしよう。

変わりつつあるスマートフォンの位置付け

 モバイル業界において、もっとも重要な展示会やイベントと言えば、1月の「International CES」、2月の「Mobile World Congress」、そして、毎年、この時期に開催される「IFA」が挙げられる。携帯電話が単なる通信機器からパーソナルなデジタルツールへと進化し始めて以来、世界中の端末メーカーやソフトウェアベンダー、サービスプロバイダーなど、さまざまな企業がこれらの展示会に合わせ、さまざまま新製品を投入してきた。なかでもIFAは年末商戦を控えていることもあり、携帯電話やスマートフォンの新製品が数多く発表されてきた。

Galaxy Note9を中心に、テレビや家電製品なども幅広く展示するサムスンブース

 振り返ってみれば、今年8月9日に新製品「Galaxy Note9」が発表されたGalaxy Noteシリーズも、初代モデルはIFA 2011で発表され、ドイツを皮切りに販売が開始された。その後、2014年9月発表の「GALAXY Note Edge」まで、毎年、IFAのタイミングに合わせ、新モデルが登場している。

サムスンブースでは8月に米国で発表されたばかりのGalaxy Note9が展示され、さまざまな機能の体験コーナーも用意されていた

 今回、「Xperia XZ3」を発表したソニーも「Xperia Z1」や「Xperia Z5」など、歴代XperiaシリーズをIFAに合わせ、発表しており、国内の主要3社はそれを受ける形で、9月から10月にかけて、各社の秋冬モデル(冬春モデル)として発表する流れになっている。

プレスカンファレンスで「Xperia XZ3」を発表。Xperia初の有機EL搭載で、BRAVIA OLEDと同じような高品質な表示が可能とされていた。

 その他にもHTCやファーウェイ、モトローラ、レノボ、ZTE、TCLなど、数多くのメーカーが新製品を発表する場所として、IFAを選んできたが、ここ数年、そういった動きが少なくなりつつある。

 たとえば、前述のように、サムスンはGalaxy Noteシリーズをひと足早く、北米で発表し、IFAでは欧州向けに初めてお披露目したり、発売直後の新製品として、展示している。ファーウェイも2016年のIFA 2016では「nova」シリーズや「MediaPad M3」などを発表したが、昨年は同社のConsumer&BusinessグループCEOのリチャード・ユー氏が基調講演に登壇し、新開発のチップセット「Kirin 970」を紹介し、昨年11月の「Mate 10 Pro」発表を予告するというスタイルを採った。今年も昨年に倣い、基調講演で「Kirin 980」について解説し、今年10月にロンドンで「Mate 20」シリーズを発表することを予告した。

基調講演ではファーウェイのConsumer&BusinessグループCEOのリチャード・ユー氏が登壇し、Kirin 980を発表

 こうした動きが見えてきた背景には、各社の展示会に対するスタンスが変わってきたことも挙げられるが、ここ数年、スマートフォンそのものの位置付けが変わってきたことも影響している。

 つまり、これまではひとつのスマートフォンの発表によって、新しいトレンドが生まれたり、各社の新しい機能や技術が注目されることが多かったが、今やスマートフォンは当たり前の存在になり、さまざまな新サービスや製品を利用するときのユーザーインターフェイスとしての存在がより明確になってきたからだ。

 特に、IFAのように、一般消費者向けの家電製品を中心とする展示会では、スマートフォンそのものの魅力よりも多様な家電製品をコントロールするデバイスとして位置付けられている印象だ。

カシオ計算機から発表されたPRO-TREK smartの最新モデル「WSD-F30」。

相次ぐ有機ELディスプレイ搭載モデル

 とは言うものの、スマートフォンそのものにもいくつかのトレンドがあり、今年はそのキーワードのひとつとして、スマートフォンに搭載されるディスプレイが注目された。

 まず、もっとも注目されたのは、やはり、Xperiaシリーズ初の有機ELディスプレイ搭載となったXperia XZ3だろう。IFA 2018のプレスデーに催されたソニーのプレスカンファレンスで発表され、今秋以降、日本を含む各国で発売されることが明らかにされた。

Xperiaのディスプレイ、ここまでの流れ

 Xperiaはこれまでディスプレイに液晶パネルを採用し、IFA 2015でスマートフォンでは世界初となる4K相当の液晶ディスプレイを搭載したXperia Z5 Premiumを発表するなど、スペックを向上させてきたが、ここ数年はカメラへの注力が顕著で、ディスプレイは液晶パネルのまま、高画質化などに取り組んできた。

 そんな中、スマートフォンではもっとも早くから有機ELディスプレイ(SuperAMOLED)を搭載し、シリーズのセールスポイントとしてきたサムスンのGalaxyシリーズに加え、ファーウェイも2016年発表の「HUAWEI P9 Plus」や2017年11月発表の「HUAWEI Mate 10 Pro」、今年3月発表の「HUAWEI P20 Pro」や「HUAWEI P20」などで有機ELディスプレイを搭載。有機ELパネルを製造するLGエレクトロニクス、SIMフリースマートフォンで人気のASUSなども主力モデルで相次いで有機ELを採用するなど、市場の流れは一気に有機ELに傾きつつあった。

有機ELディスプレイ搭載で、デザインも一新したXperia XZ3。国内向けにはいつ頃、投入されるのだろうか

 こうした状況を受け、ようやく今回発表されたXperia XZ3でシリーズ初の有機ELディスプレイ搭載に踏み切ったが、同社の家庭用テレビ「BRAVIA OLED」と変わらない色再現性などをXperia XZ3で実現するなど、他メーカーにはないソニーらしい取り組みも注目される。

 従来のXperiaシリーズではベゼルにもボディカラーをあしらっていたが、Xperia XZ3ではベゼル部分を黒く仕上げている。これは映像コンテンツなどを視聴したとき、より没入感が高められることを意図している。

 スピーカーも端末を横向きに構えたときにステレオ再生を可能にしたり、ゲームや音楽、映像コンテンツを楽しむとき、内容に合わせてバイブレーションを振動させる「Dynamic Vibration System」を従来モデルから継承するなど、映像コンテンツを楽しむ環境を強く意識した構成となっている。

 端末の内容についてはミニインプレッションでも説明した通りだが、有機ELディスプレイ搭載とフレーム材質の変更などにより、本体の薄型化を実現するなど、従来のXperia XZ2から大きくジャンプアップする内容となっている。

シャープの有機ELスマホ

 同様に、有機ELディスプレイ搭載で、もうひとつ注目されるのがシャープの有機EL搭載スマートフォンだろう。今回はプレスデーに開催されたプレスカンファレンスでお披露目されたが、型番なども含め、発売時期やスペックなどが明らかにされていないが、明らかに商用を目指したモデルであり、背面におサイフケータイのロゴまでプリントされていることから、そう遠くない時期に国内市場に投入される可能性が高い。

『液晶のシャープ』から、ついに有機ELディスプレイ搭載のスマートフォンの開発が明らかにされた

 あらためて説明するまでもないが、シャープは液晶パネルの製造メーカーであり、家庭用テレビ向けなどの大型液晶から、スマートフォンなどにも利用する中小型液晶まで、幅広い製品を取り揃える。

 スマートフォンでは自社製のスマートフォンAQUOSに搭載するだけでなく、世界各国のメーカーにも液晶パネルを供給してきた実績を持つ。なかでも近年は省電力性能に優れたIGZO液晶をはじめ、液晶パネルに切り欠き(ノッチ)を付けたり、四隅をラウンドさせることができるフリーフォームディスプレイの技術などが高く評価されるようになり、世界中の端末メーカーの個性的なデザインのスマートフォンの開発にも貢献している。

 そんなシャープがスマートフォン向けの有機ELパネルを開発し、いち早く市販品に相当するレベルの製品を明らかにしたわけで、ライバルメーカーだけでなく、供給を受ける端末メーカーにとっても気になる存在ということになる。

 今回、展示されていた製品は市販品に近いものであるものの、あくまでもデモ機であるため、実際のパフォーマンスやシャープならではの機能は不明だが、デモ機を見る限り、発色もレスポンスも良く、非常に美しい映像や写真を再現できている。実際に市場に投入される製品がどのようになるのか、国内向けはどう展開されるのかなどが気になるところだ。

背面には「おサイフケータイ」のマークがプリントされていた。ということは?

有機ELディスプレイを採用する理由

 この2つの製品が有機ELディスプレイを搭載してきた背景には、スマートフォンでエンターテインメントを楽しむ方向性が強くなってきたことをうかがわせる。

 スマートフォンは日本に限らず、世界中でYouTubeなどの動画を楽しむニーズが拡がっていることは周知の通りだが、最近ではNetflixやHulu、Amazon Prime、Google Play Videoといった映画やドラマ、テレビなどの映像コンテンツの配信サービスが急速に伸びてきており、YouTubeなどの動画サービスとは違った市場が形成されようとしている。

 こうしたサービスで映画やドラマを視聴するのであれば、やはり、映像を美しく再現できるディスプレイが求められてくるわけで、その意味でも有機ELディスプレイは今後のスマートフォンの上位モデルの主流になってくることが予想される。

 では、液晶パネルを搭載するモデルがなくなるかというと、そういうわけではなく、やはり、コスト面やこれまで培われてきた省電力性能などを鑑みると、ミッドレンジ以下の普及モデルにはまだまだ液晶パネルが採用される見込みで、有機ELディスプレイとのすみ分けが進んでいくことになりそうだ。

拡がるGoogleのAndroid One戦略

 今回のIFA 2018では、ソニーやシャープ以外にもサムスンやZTE、TCL、Wikoなど、さまざまなのメーカーがスマートフォンの新製品を発表したり、最新製品を出品していたが、Googleが展開するAndroid One戦略に乗ったモデルが増えてきたのは少し気になるところだ。

米国の禁輸措置から、ひとまず脱却できたZTEは、AXON 9 Proを出品。日本市場への投入はあり得るだろうか。

 Android Oneについては、元々、新興国向けのスマートフォンのブランドとして、Googleが展開していたが、日本をはじめ、モバイル市場がしっかりと形成されている国と地域向けにもGoogleの統一仕様に基づいた普及モデルとして投入され、徐々に市場に定着しつつある。

モトローラブースでは前日のプレスカンファレンスで発表されなかった「Android One」採用モデルが発表され、出品されていた

 今回のIFA 2018ではモトローラがLenovoとのプレスカンファレンスでは何も発表しなかったものの、翌日のモトローラブースには当日に発表されたばかりのAndroid Oneを採用した新製品2機種を出品し、取材陣を驚かせていた。LGエレクトロニクスも同社のフラッグシップモデル「G7」をベースにした「LG G7 One」を発表し、出品していた。

 いずれもいわゆる『素のAndroid』に近い仕様で、セキュリティパッチの提供やプラットフォームのバージョンアップなど、これまでのAndroid One採用端末と同じ条件が適用されるという。

 国内ではワイモバイルとソフトバンクがAndroid One採用端末を扱っているが、Googleが今まで以上にAndroid Oneに注力することになると、他のキャリアやSIMフリー市場にもAndroid Oneが投入されるかもしれない。

駅からmesse Berlinに入っていく通路にもGoogle Assistantの横断幕が掲げられていた

 また、Googleについては、Android Oneだけでなく、IFA 2018の会場全体にかなり積極的に取り組んでいる印象を受けた。IFA 2018が開催されるMesse Berlinのエントランスをはじめ、会場の建物にもGoogle Assistantの広告を数多く掲げ、来場者に巨大な端末でGoogle Assistantを体験してもらうアトラクションコーナーなども展開していた。今後、日本でもこうした積極的な取り組みが見られるようになるのかもしれない。

会場内の建物もいくつもGoogle Assistantの広告が掲げられていた

法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめるiPhone X/8/8 Plus超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidタブレット超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門 改訂2版」、「できるポケット HUAWEI P10 Plus/P10/P10 lite 基本&活用ワザ完全ガイド」、「できるWindows 10 改訂3版」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。