二分冊で刊行される
中井久夫氏の
統合失調症にかんする主要論文集の上巻。これを入手しようと思ったのは、もっぱらそこに「奇妙な静けさとざわめきとひしめき」という論文が収められていたことによる。わたくしがいままで一番納得ができた
吉田健一論である
丹生谷貴志氏の「奇妙な静けさとざわめきとひしめき」(初出「
吉田健一頌」(
書肆風の薔薇)、後「
天皇と倒錯」(
青土社)所収)が、その題名にしめされている通りに、この中井氏の同名の論文(と、やはり本書に所収されている「
統合失調症の発病過程とその転導」)に依拠したものだったので、一度、そのもとの論文を読んでみたいと思っていた。もちろん「
分裂病の精神病理8」(
東京大学出版会)という初出誌をさがせばよかったのだが、生来のなまけものであるのと、そこに収められている他の論文を読みたくもないということもあって、なんとなくそのままになっていた。今般、中井氏の論文だけを収めた本が刊行されたので入手した。「奇妙な・・」は、
統合失調症発症直前に短期間かつ過渡的にみられる「いつわりの静謐期」について記載した論文である。
これから読むのだが、ここでの病名が、原論文での
分裂病から
統合失調症へと変更統一されているのが、なんだか奇妙な感じである。これは中井氏の意図ではなく、本書をふくむ「精神医学重要文献シリーズ Heritage」というシリーズの編集方針にしたがってのことらしいのだが、「今日において差別的、不適当と思われる表現も著者の執筆意図、時代背景を重視し、そのまま収録した」というのもまた編集方針なのであるから、1970年代には
分裂病という病名が用いられていたという時代背景を尊重して、そのまま
分裂病としておくべきなのではないではないだろうかと思った。