企業は、事業活動において商品やサービスを市場を通して顧客に提供することで利益を獲得し、それによって持続的に発展します。そこでは、安定的に事業活動を行うためのルーチンを確立して維持することが大事であると同時に、日々生じる問題や課題に対処することで事業活動を改善していくことや、新事業創造、新商品開発、事業多角化を含む長期的視点から見た経営戦略を策定して実施するために様々な機会を探索する行動が必要不可欠です。つまり、ルーチン外における様々な問題発見と問題解決をするための探索行動です。従来の経営学で扱ってきた企業行動の理論でも探索行動が重要なトピックとして含まれており、効果的な探索行動が、新たな戦略や事業の創造、既存の事業の改善などにとって重要であると論じられてきました。そこでは、探索を行う主体はもっぱら人間であるという前提が置かれていました。しかし、人工知能(AI)が自律的に学習し、意思決定ができるようになったり、新たなものを生成することができるようになりつつある現在、人間だけが企業の探索行動を主導するという前提が崩れつつあります。
Raisch & Fomina (2025)は、さすがに企業の探索行動から人間が排除されることは非現実的だが、少なくともこれからの時代は、企業の探索行動にはAIと人間が協働することが当たり前になっていくだろうと考え、AIと人間の協働が企業の探索行動をどう変えるかについての理論を構築しました。具体的には、企業が探索的行動によって問題解決を図る際のAIと人間の協働のあり方を「ハイブリッド型探索行動(問題解決)」として3つのタイプに分類し、それぞれのタイプごとに、探索行動の結果がどのような特徴を持つのかについての命題を導出したのです。ここでいう企業の探索行動とは、日常のルーチン業務からは解決策が見出せないような新しい問題を解決するために色々と探索する行動を指します。その際、AIには、過去のデータと統計的推論を用いて物事のパターンを特定したり予測するような予測(predictive)AIと、入力されたデータや学習したパターンから新たなデータを生成する生成(generative)AEに分け、それぞれの役割も論じています。
RaischとFominaが特定した1つ目のハイブリッド型探索行動は、自動的探索行動で、予測AIと生成AIが人間とは独立して自動的に複数の問題解決策を生み出し、人間がその中から最終的な解決策を選ぶような探索行動です。例えば、自動車メーカーが脱炭素を推進するための超軽量自動車部品の開発において、CO2排出基準をクリアするための何千通りもの設計を予測AIと生成AIにやらせて、最後に人間のエンジニアがその中からベストだと思われるものを選ぶような探索行動です。2つ目のハイブリッド型探索行動は、順序型探索行動で、予測AIが問題を特定し、人間がその問題を解決する方法です。例えば、新たな感染症が出現した際に、その予防や治療においてどの部分に焦点を当てるべきかの特定を予測AIにやらせ、AIが特定した焦点に対して人間の研究者が具体的な解決策を考えるといったような探索行動です。3つ目のハイブリッド型探索行動は、相互作用型探索行動で、予測AIと生成AIと人間が同時に問題の特定と問題解決にあたる方法です。例えば、小売業者が売上を伸ばすための広告のターゲットの選定と広告案の作成を、人間がAIを使いこなしながら行うような探索行動です。
では、それぞれの企業探索行動のタイプがどのような問題発見、問題解決アウトプットにつながるのかについて、RaischとFominaの理論を説明しましょう。まず、人間のみで探索行動を行う場合、認知的限界があるゆえに、探索範囲や問題解決の発想について、目先のものに焦点を当てがちです。一般的にはこれをローカルサーチと呼びますが、手堅い問題解決が期待される一方で、非常に新規性の高い問題発見、問題解決や、非常に複雑な問題の対処に難が出てきます。それに対して、基本的にAIが問題発見も問題解決も行って最後に人間が解を選択するような自動的探索行動では、人間が持っているような先入観やバイアスに囚われることなく満遍なく探索することになるため、人間の集団が行う探索行動と比べて探索の幅が広くなる傾向にあると論じます。一方、人間が特定の問題に対して主観的な勘も含めて深掘りしていくようなプロセスがAIにはうまくできないので、生み出される問題解決策の深さが減少することが予想されるとRaischとFominaは予想します。つまり、自動的探索行動の場合には、焦点が定まったローカルサーチではなく、ディスタンスサーチ(広く、浅く、より遠方への探索)になることを予測するのです。ローカルサーチでは解決が難しいような問題には適した方法だと言えるでしょう。
次に、順序型探索行動です。この探索行動の最初は予測AIが問題発見プロセスを担当するわけですが、AIは大量データの処理が可能であり、そこからパターン認識を行ったりするため、人間の集団のみで探索行動を行う場合には気づくことができないような発見やポイントの指摘が可能になります。人間は、AIによる問題発見活動から様々なことを学習することが可能で、その学習に基づいて、AIが見つけ出した特定の問題を選んでそれに対する解決策の生成に取り組むことになります。したがって、結果的には人間が特定の問題に焦点を絞って解決策を生み出すため、人間の集団が行う場合よりも、探索の幅は狭くなるとRaischとFominaは予想します。一方、人間がAIの問題発見活動から新たな気づきや学びを得ることでより洗練された問題解決策の考案が可能となるため、問題解決の深さは増大することが予想されるといいます。よって、より洗練されたローカルサーチによる問題解決が求められる場合には適した探索行動だと言えるでしょう。
最後は、相互作用型探索行動です。この場合、問題発見から問題解決までの全てのプロセスにおいてAIと人間がお互いに働きかけ合います。そのため、人間がAIが探したりたり特定したりする内容から学習するのみならず、AIも適宜人間からフィードバックやデータを提供されることによって学習するという効果があります。そのため、人間の集団が行うのと比較して、AIの力を借りている分、探索行動の幅が広がることになります。つまり、ローカルサーチのみならず、ディスタントサーチも行うことになると予測します。一方、自動的探索行動の際には、AIに頼っている分、生み出される問題解決策の深みがなかったのですが、相互作用型探索行動の場合には、問題解決にはAIのみならず人間も参加しているので、人間の集団が行う問題解決行動と同様に深掘りが可能になるとRaischとFominaは予想します。よって、ローカルサーチのみならずディスタンスサーチも必要な場合、けれども問題解決の深みも必要な場合には適した探索行動と言えましょう。
さらにRaischとFominaは、それぞれの探索行動の効果性を限定する状況要因を理論化しました。その1つが時間です。AIは高速な計算が可能ですし、人間のように疲労感を覚えませんので、あまり時間がなく短時間で探索しなければならないケースのように時間的制約が大きい状況では、人間の集団が行う探索行動と比較すると、とりわけ自動的探索行動の場合に、幅広く問題発見のための探索を行う効果性が高まります。その代わり、時間が限られている分だけ、問題解決の深みはさらに犠牲になると考えられます。また、順序型探索行動の場合には、時間的制約が問題発見の範囲をさらに狭くし、人間も時間を節約するために特定の問題に焦点を当てて取り組むので、問題解決の深みは増すことになると予測します。
状況要因のもう1つの変数は、対象分野に関する専門性です。企業が探索行動を行う際に、全く新しい課題に対応したり、新しい事業分野への進出を検討するなど、その対象における専門性がない場合は、AIが人間による専門性の欠如を補う働きをすることが考えられます。その結果、自動的探索行動の場合は、その特徴がより顕著になることが予想されます。つまり、企業がすでに有している専門性に頼ることなくAIが自律的に探索行動をすることによって、広く浅くといったディスタンスサーチの特徴がさらに顕著になるでしょう。一方で、人間がより積極的に関与する探索行動では、専門性の欠如が探索行動の効果性にブレーキをかける可能性があります。よって、順序型探索行動の場合には、その幅がさらに狭くなり、深さも抑制されると予想されます。相互作用型探索行動の場合も、その幅は抑制されて狭くなるでしょう。
RaischとFomina が構築した理論は、企業の探索行動をもっぱら人間が担ってきた時代が終焉し、AIが企業経営の表舞台に姿を現し出した時代において、企業行動論、企業の探索行動理論を更新していくための第一歩を踏み出したものだと言えるでしょう。AI時代における企業行動論の発展のための後続の研究が期待されるところです。
参考文献
Raisch, S., & Fomina, K. (2025). Combining human and artificial intelligence: Hybrid problem-solving in organizations. Academy of Management Review, 50(2), 441-464.