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女性によるキャリアの水平展開を阻む「ガラスの壁」

これまでの経営学研究では、女性のキャリアを阻む障害として「ガラスの天井」「ガラスの崖」「ガラスのエスカレーター」などが特定されてきました。ガラスの天井は、女性が管理職やリーダーに昇進するのを阻む天井を指し、ガラスの崖は、組織が危機に陥ると女性がリーダーに選ばれやすいが、危機であるがゆえに失敗してキャリアにダメージを負いやすいという意味での崖を意味し、ガラスのエスカレーターは、男性優位の組織における女性とは正反対に、女性が多数いる組織では男性がエスカレーターに乗ったかのようにリーダーに昇進しやすい現象を指します。お気づきとは思いますが、これらのように女性が男性と比べて不利な状況にあることを示す現象は、階層をもった伝統的なピラミッド型組織を想定しています。

 

しかし、これからの時代は、産業構造の変化やテクノロジーの発展などに伴い、組織はフラット化して階層がなくなっていき、雇用も流動化し、兼業・副業も含め非典型的雇用を含む多様な働き方が増えてくると思われます。このような方向に時代が変化すると、働く人々のキャリアは必ずしも同じ組織に長期間雇用され組織の階層を登っていくようなものではなくなり、さまざまな組織を渡り歩いたり、自律的に複数の仕事をこなしたりと、垂直というよりは水平方向にキャリアを展開することでチャンスを見出し活躍の場を広げていくという道が出てきます。そうなると、伝統的な組織で男性よりも不利な状況に置かれてきた女性にはチャンスが巡ってくるのでしょうか。例えば、伝統的な正社員といえば男性が多いですが、非典型的な雇用というと女性も多くいることから、これからの時代では女性にとって不利な状況は解消されていくのでしょうか。

 

しかし、Lee, Koval, & Lee  (2023)は、個人のキャリアが水平展開するような状況になっても、女性に対してまた別の障害が存在するため、依然として女性は男性と比べて不利な状況に置かれると主張します。それは女性がキャリアを水平展開することを阻害する「ガラスの壁」と呼ばれるものです。垂直にキャリアの階段を上ろうとしてもガラスの天井にぶち当たり、水平にキャリアを展開しようとしてもガラスの壁に阻まれてしまうという八方塞がりな状況が存在し、その原因となっているのが、社会に蔓延するジェンダーバイアスステレオタイプだというのです。以下において、Leeらがどのような論を展開しているのかを説明していきましょう。

 

まず、働く人々が組織に頼ることなく自律的にキャリアを展開してく際には、「キャリア進歩のパラドックス」に対処する必要があります。例えばフリーランサーを考えてみます。フリーランサーがキャリア進歩のために新たな顧客を見つけるためには、その顧客が求めているスキルを有していかなければなりません。しかし、経験をしないことにはそのスキルは身につきません。企業で働いていればOJTなどでスキルを身に着ける機会がありますが、フリーランスの場合には、自分がスキルを持っていないのに依頼してくる顧客もなく、かといって仕事を通してスキルを訓練する機会も得られないので、スキルアップもできません。このようなキャリア進歩のパラドックスに対処するために推奨されてきたのが、最初は特定の専門スキルを磨いて自分の地位や評判を確立したうえで、徐々にそのスキルの幅を広げて新たな顧客を獲得していくキャリアの水平展開です。

 

キャリアの水平展開は、最初はスペシャリストからスタートし、徐々に経験やスキルの幅を広げてジェネラリストになっていくことで顧客基盤を拡大し、活躍の場を広げ、キャリアを進歩させていくという方法です。Leeらはこれを「進歩的な役割拡大」と呼んでいます。では、進歩的な役割拡大を通したキャリアの水平展開は、男女関わらずうまくいくものなのでしょうか。ここでLeeらは、女性は「ガラスの壁」に阻まれるので男性よりもうまくいかないことを主張するのです。ではどうして女性にのみガラスの壁があるのか。それは、男性のイメージが主体的、活動的であるのに対し、女性のイメージは関係重視で優しく主体的でないというステレオタイプ、そして、女性は男性と比べて理性的でなく感情的なので状況に流されやすいというステレオタイプが社会に蔓延しているからなのです。

 

ですので、男性が先ほど説明した進歩的な役割拡大によってキャリアを水平展開しようとすると、周りからは、本人が自分の専門性を軸に主体的かつ理性的にキャリアをつくろうとしていると半ば好意的に捉えられる可能性が高いのに対し、女性が同じようなキャリアの横展開をしようとすると、周りからは、顧客の事情や気分や感情などいろんなことに流されて場当たり的に働いているというように主体性のなさ、節操のなさを感じてしまう可能性があるというのです。男女でまったく同じ行動をしていたとしても、ジェンダーバイアスステレオタイプのせいでこのような差ができてしまうわけです。

 

進歩的な役割拡大を行う男性の場合は、主体的にキャリアを作っていると周りからみられるので、本人の能力を好意的に評価することににつながるし、顧客も、その男性は自分が依頼した仕事にちゃんとコミットしてくれると思うでしょう。しかし、同じことをしている女性の場合は、場当たり的に働いているように見えることが能力を過小評価することにつながり、感情に流され、不安定なので自分が依頼した仕事に十分にコミットしてくれないのではないかと疑ってしまったりします。男女でこのような印象の違いができてしまうならば、顧客がどちらに仕事を依頼するかといえば、男性のほうに依頼することが多くなってしまいます。よって、女性は仕事を受注するうえで男性に対して不利な状況に置かれることになります。このようなことが繰り返されれば、女性は「キャリア進歩のパラドックス」に対処することができず、キャリアの水平展開がままならなくなってしまうのです。これがガラスの壁の正体です。

 

Leeらは、研究対象をフリーランサーに絞ったうえで3つの調査を行い、上記の説が妥当かどうかを検証しました。最初の2つの調査は、韓国におけるK-Popミュージックのソングライター(作詞・作曲家)をフリーランサーとして対象とした調査です。調査1Aではアーカイブデータを分析し、ソングライターがスペシャリストから自分のキャリアをスタートさせた後に、進歩的な役割拡大を通してソングライターとしてのキャリアの水平展開を図っていく様子を確認し、そして、そしてそのようなキャリアの水平展開の恩恵を受けているのは男性のみであって、女性はそのような水平展開の恩恵を受けないことを確認しました。

 

調査1Bでは、サーベイ調査を用いて、複数の役割をもって水平展開している男性のソングライターは、単一の役割を持っている男性のソングライターよりも主体的であってかつ能力も高いと評されるのに対し、同じような女性のソングライターはそのようには評価されないことを確認しました。調査2では、舞台を韓国から米国に移し、フリーランスの業界も映画業界に代え、米国の一般的な人々に対してシナリオ実験を行いました。その結果、女性のフリーランサーで進歩的な役割拡大を通したキャリアの水平展開を行っている場合には、同じような男性と比べて主体性がないと評価され、能力やコミットメントも低いと評価されることを明らかにしました。

 

Leeらの実証研究はフリーランサーのみを対象としたものでしたが、今回紹介し、実証調査でも確認されたような「ガラスの壁」は、時代の変化とともに組織に頼ることなく自律的なキャリアが求められるような状況や、雇用が流動化するがゆえに、外部からみた本人の能力やスキルの把握が難しいような状況になればどんな職業でも起こりうることをLeeらは示唆します。つまり、時代の変化、新しい組織のあり方や働き方の進展とともに、たとえガラスの天井、ガラスの崖、ガラスのエスカレーターのような状況がなくなりつつあったとしても、新たにガラスの壁が際立つことで依然として女性によって不利益な状況は継続する可能性が高いとLeeらは警鐘を鳴らすのです。

参考文献

Lee, Y. G., Koval, C. Z., & Lee, S. S. (2023). The glass wall and the gendered evaluation of role expansion in freelancing careers. Academy of Management Journal, 66(4), 1042-1070.

 




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