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私たちに足りないのは、神話的世界

『フィオナの海』(1996年)ロザリー・K・フライ作 矢川澄子訳 集英社

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今日の一冊は映画化もされた『フィオナの海』。

 

人間だけの世界に疲れたとき、客観的思考、資本主義的合理主義者会に疲れたとき、こういう物語が足りてないなあ、ってしみじみ思います。

 

映画化されていたことは知っていたので、勝手に敬遠してました(映画化されるものには、ガッカリすること多いから)。

今回手に取ったのは、奈良の人文系私設図書館ルチャ・リブロがやっているオムライスラヂオの中の“生きるためのファンタジーの会”で取り上げられていたから。

知り合いに教えてもらった、この“生きるためのファンタジーの会”は児童文学(たまに漫画)のファンタジーを取り上げていて、毎回とおおっても興味深いんです!

『フィオナの海』は5月の回。料理しながら、お風呂入りながら、ぜひぜひ、聞いてみてください。大人読みするとここまで深く語り合えるのかと感動します!↓

omeradi.org

 

さて、物語の舞台は、スコットランド北西部のわびしい海沿いの島。街の暮しが合わなかったフィオナは10歳のときに父親の元を離れ、祖父母と一緒に島で暮らし始めます。フィオナたちは、もともとはロン・モル島という小さな島で暮らしていたのですが、みなそこを離れ、大きな島へと移り住んだのです。ところが、移るときに弟のジェイミーが波にさらわれて行方不明に。ジェイミーが生きていると信じているフィオナは、窓から見えるロン・モル島に明かりが灯っていることに気付き、弟を探しに行く……という物語。

 

絶版と知って、急いで取り寄せてお迎えしたら、思っていたよりも大きな文字にまずびっくり(小学校中学年向き?)。しかし、しかし、ですよ。なんでしょう、この深い余韻。曇天のような薄暗さが全体に漂っているのに心地いい。矢川澄子さんの美しい翻訳で、ケルトのアザラシ伝説(異類婚姻譚)がすーっと入ってくるんです。忘れていた大切なものを思い出させてくれるというか、初めて読んだ気がしないというか、なんだろ……このなつかしさ。伝承や伝説を題材にした物語は、やっぱり“力”があるなあ、としみじみ。これを空想や想像力によるファンタジーとすら呼びたくない。こういう世界を失いたくない。

 

この物語は、自然に沿った暮らしVS資本主義の論理、ともいえるという”生きるためのファンタジーの会”での読み方には、なるほどでした。

 

ラヂオの座談会で語られていたことで印象的だったのは、資本主義の価値観の今の世の中では、自然(野生)に近ければ近いほど障がい者というラベルが貼られがちというところ。自閉症だったり、発達障害だったり、自然に近い彼らがいまの社会になじめなくて逃げだしたら、病院に入れられちゃう。この物語のジェイミーも、いまだったら発達障害と名前がつけられていたかも、と。神話の世界では、オオカミやアザラシに育てられていた子どもたちに、現代社会では病名がつけられてしまうのです。ああ、そうかも。神話的世界が奪われてしまって、私たちは共存しづらくなってしまっているのかもしれません。

 

ラジオゲストのおひとりである猪瀬浩平さんが人類学者の視点から、自閉症であるお兄様のことを書いたこちらの本も読んでみたいと思います。お兄様の「たたかわない」術↓

『野生のしっそう』(2023年)猪瀬浩平著 ミシマ社

人間を社会人とみるか、生き物とみるか。男性と女性の違いも感じさせられました。現実的なおじいちゃんに、やはり“命”に関することではがぜん強くなるおばあちゃん。

ぜひ、読んでみてください。

 




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