
『イシ 二つの世界に生きたインディアンの物語』 シオドーラ・クローバー作 ルース・ロビンズ画
中野好天・中村妙子共訳 岩波書店
名著と言われているし、これは読んでおかないとなあ・・・と、どちらかというと課題本的な感覚で消極的に手に取った本。結果・・・読んで、よかったぁ(涙)!!!
表紙で損してる(?)し、内容もわりと淡々としているので、本好きの子向きに限定されるかも。でもね、例えこれが実話じゃなくて物語だったとしてもいいなあ、と思う。なんていうのか、シンプルな表現の中に美しさがあるというか、見事に自然と“共に”ある暮らしに感銘を受けたというか。文化って一体なんだろう?こういうネイティブな人たちの暮らしのほうが文化が高いというのではないか、と思ってしまう。表面的な“知識”は自然界では通用しない。身についた“知恵”が必要なの。白人とヤヒ族、一体どちらが野蛮人なのか、そんなことを思いました。
作者は『ゲド戦記』の作者ル・グウィンのお母さんで、イシと共に過ごした人類学者の夫が残した記録をもとに書き上げたもの。原題は“ISHI, LAST OF HIS TRIBE”とあるように、アメリカ・カリフォルニア州にいたヤヒ族最後の生き残り、イシの生涯を描いています。原書はこんな感じ↓

イシが白人たちに見つかったのは、1911年、50歳前後のころ。それまでは、白人に見つからないように、いわば潜伏生活をしていたんですね。自由に歩けない、自分たちの足跡を完璧に消しながら移動しなければいけない、なんと息の詰まる!!!・・・と、傍から見ると思うのですが、イシたちは大好きな家族に囲まれ、そんな中でも雰囲気はとてもあたたかいのに驚き。食べものを獲るのにも苦労しているのに、不思議と悲壮感はなく、逆に豊かささえ感じてしまうのです。そう、自然界の中の完璧な“環”の一部。body, mind, spiritの三角形のバランスが完璧なのです。
周りの人がみな亡くなってしまい、一人ぼっちになったイシはいつの間にか中年になっており、ついに白人に捕まってしまいます。そして、好奇の目にさらされはするけれど、出会った保安官が良い人で、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の人類学者たちに紹介され、そのキャンパス内の博物館にイシは住むことになります。正直、全然ワクワクしない生活だっただろうなあ。でも、白人の心から信頼できる友人もでき、彼らに誠実であることにイシは生きる意味を見出していた気がする。親友ともいえる人類学者のマジャパ(これがル・グウィンのお父さん?)と診察してくれる医者の息子マリワルと共に、イシは後に原点に戻る旅をするのですが、イシの世界観を心からリスペクトするマジャパとマリワルにも心打たれました。
過去と向き合わなければ前に進めない。だから、きっとイシは元の世界への旅をしたんだと思います。でも、そこに残るのは過去の亡霊たち。イシは過去へ回帰したいとは思わないんですね。自分の今は、どんなに輝いていなくても今の生活にあり、そこに自分の使命がある。こうして、イシは博物館でヤヒ族の文化を残すことに貢献するんです。そのイシの決意を知ったとき、胸がぎゅっとしめつけられました。
とても尊い魂に出会えて、背筋が伸びる思い。静かに・・・けれど、深く感動しました。