
大将・さやかが握るお寿司は、最高においしくて、癒される。
それは彼女の丁寧な「仕事」と「お客さんの心を夕凪みたいに穏やかにする心の安全地帯でありたい」と願う気持ちからなのでした。
【さやかの寿司】あらすじ
母の納骨を終えた主人公のまひろ。
母との別れを受け入れる為に、幼かったあの日一度だけ母に連れられてやってきた寿司店へと向かいます。
海辺の街の田舎の商店街にある「江戸前夕凪寿司」。
表で挙動不審な行動を店員に見られ、恐る恐る暖簾をくぐるとランチ営業は終了。
そんなまひろに、綿飴みたいな声で呼び止められ、まかないの海鮮を頂くことに。
「さやかさん」と呼ばれる声の彼女は、ふんわりした見た目とは違って丁寧な「仕事」をする凄腕の寿司職人なのでした。
【さやかの寿司】感想
【さやかの寿司】第一章 ハンバーグの石
母親を亡くし、無職になったまひろは、家族という「重し」と仕事という「重し」が同時になくなった。
それは、まひろにとって純粋で、空っぽで少し怖くもある「自由」を手に入れたのでした。
まひろは小さい頃1度だけ、母に連れられて行ったことがある寿司屋「江戸前夕凪寿司」へと向かいます。
そこは、かつて母親が夫から「自由」になった日のお祝いの日でもありました。
暴力や言葉の暴力を受けて育ったまひろは、いつもびくびくしていて、すし屋の従業員未來から高圧的な態度をみるとDVを受けた当時を思い出してひるんでしまいます。
口が上手くて調子が良い人よりも、口下手だけど、思いやりのある人の方がいい。
大人になってもなかなか気づけないものですが、若い時に沢山経験をして、その違いが分かるようになって欲しいなぁと思いました。
最初の出会いは最悪でしたが、お互いを思いやり、次第に仲良くなっていく姿が、読んでいてとても心地よかったです。
【さやかの寿司】第二章 自転車デート
「江戸前夕凪寿司」でまひろの就職祝いが行われます。
そこで飛び込み客が2名やってきます。
見るからに下品な成金オヤジといった感じ。お相手は派手な感じの年増ギャル。
成金オヤジの寿司職人への偏見や間違った寿司うんちくを聞かされながらも、さやかさんが作る最高のお寿司たちが出てきます。
その空間は追体験できるのに、お寿司も頭でしか味わえないのは残念だなぁと思いながら、さやかさんが握るお寿司をきっとこんな味だろうと想像するのでした。
それにしても、あの成金オヤジにはイラっとくるのですが、さやかさんが握るお寿司で彼を唸らせる所は思わず(よっしゃー)とガッツポーズしてしまいそうになります。
その背景には考えられないくらいの努力があるのですが。
2章は未來の視点で描かれているのですが、成金オヤジのお連れさんがさやかさんのお寿司を褒めまくるので、心の中で年増ギャルからギャルに呼び名を変える所は「憎めないのはあなたも同じだよ」と、思いました。
旨み成分
旨み成分はざっくりと3つに分けられるそう。
これらを別々に食べるより、一緒に食べた方がよりいっそう脳が美味しいと感じるのだそうです。
人生でいちばん大事なこと
さやかさんと未來が夜お酒を飲みながら話すところで、さやかさんが寿司職人を目指した理由や落ち込んだ時の話などを話すのですが、両親を亡くしたさやかさんにおじいちゃんは、いつも「さやかが嫌になったら、いつでも辞めればいいよ。さやかの好きにしなさい。人生でいちばん大事なのはいつも自由でいることだから」とアドバイスをくれたのでした。
今まで寿司職人をやめず、ここまでこれたのは、原点って大切で、だれでも、どんな時も原点を忘れないようにしないといけないんだと思いました。
もう一つ、大切なことは「こうあるべき」という思い込みはなるべくなくすこと。
従来の狭い価値観で自分を縛らないこと。
大切なのは、頭も心も身体もなるべくのびのびと「自由」にしておくことが大切なのだということなのでした。
【さやかの寿司】第三章 親馬鹿とジジ馬鹿
人は、見かけで判断できません。
どんなに明るくふるまっていても、心の中は誰にもわからないものです。
金光社長もその1人。
若い頃がむしゃらに働いて、得たものと失ったもの。
それは同じくらい大切な物なのかもしれません。
本当はどちらも失ってはいけないけれど、全てを手に入れることは出来ないのだと思います。
人生、上手くいかないものです。
さやかが握る寿司屋には、たくさんの常連客がいてそれぞれの居場所になっています。
それは温かくて心地よくて、心も身体も満たされる。
3章にでてくるまひろは1章の時のまひろではなく、常連たちととても仲良くなっている。
人は、出会うべき人と出会えさえすれば、こんなにも短期間で変われる。
金光社長と同じように、人生を一変させられるのだと思いました。
出会いは大切。そしてそのチャンスを掴むことも大切。
【さやかの寿司】第四章 ツンデレの涙
まひろと未來。
良い関係だなと思います。
未來ちゃんじゃないけれど、わたしもまだ「心のリハビリ中」の身で…
だから、家族の本質を理解して、それを端的に語るなんて、いまのわたしにはハードルが高すぎる。家族とは何か、の答えなんて1ミリも分からないけれど…
環境が似ていたこともあり、相手の痛みが分かり、それを影ながらそっと支えている。
さやかとその祖父もまたすばらしい人たち。
相手を思いながらいつも陰でそっと見守っている。
相手の気持ちを尊重している彼らは本当にすばらしいと思いました。
現実でも、さやかさんが握る究極のお寿司やさんがあればいいのになぁ。