
2023年の本屋大賞にノミネートされていた作品。
清瀬と松木のすれ違いの本当の理由が気になって、軽い気持ちで借りた本でしたが、とてつもなく繊細で人の気持ちというものを考えさせられる本でした。
【川のほとりに立つ者は】あらすじ
新型ウィルスが広まった2020年の夏。
カフェの店長を務める29歳の原田清瀬(はらだきよせ)は、恋人の松木圭太(まつきけいた)とすれ違いの日々が続いていました。
理由は松木の「隠し事」。
理由を問い詰めても頑なに口を閉ざす松木に苛立ち、部屋を飛び出した清瀬。
そのまま月日がたったある日、松木がケガをし、意識を失い病院に運ばれたという連絡をうけます。
意識が回復しないまま、彼の部屋を訪れた清瀬は3冊のノートを見つけます。
そこには、子どもが書いたであろうノートと無数の手紙の下書きたち。
この本を読んで清瀬は私だと思いました。
【川のほとりに立つ者は】作者:寺地はるな(てらち・はるな)
1977年、佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞し、デビュー。2020年度咲くやこの花賞(文芸その他部門)を受賞。21年『水を縫う』で第9回河合隼雄物語賞を受賞。
他の著書に「夜が暗いとはかぎらない」「どうしてわたしはあの子じゃないの」「声の在りか」「ガラスの海を渡る舟」「カレーの時間」などがある。
(本書より引用)
【川のほとりに立つ者は】登場人物
原田清瀬(はらだきよせ)
カフェ「クロシェット」の店長として働く29歳。
店長とは名ばかりで、シフトに穴があいたら出勤し、店内でトラブルが起きたら責任を取らされるといった毎日が忙しい生活を送っている。
松木圭太(まつきけいた)
清瀬の恋人
心優しい青年。
ある「隠し事」が原因で清瀬と宙ぶらりんの状態。
そんな中、友人とのケンカで階段から転落し、意識不明の連絡が入る。
青木(あおき)君
カフェ「クロシェット」のバイト。大学生。
品川(しながわ)さん。
カフェ「クロシェット」のバイト。
岩井樹(いわいいつき)
松木圭太の友人
心優しい青年。
松木と同じく階段から転落し、意識不明の状態。
菅井天音(すがいまお)
岩井樹の友人
【川のほとりに立つ者は】ネタバレ感想
読んでいる間、品川さんのやらかしには、正直私もイラっとし、なだめる店長の清瀬と同じ気持ちでした。
正しい主張をする彼女に対して、なだめつつ、これまでの品川さんの失敗やらを想うとストレスが溜まる清瀬なのでした。
そんな時、スマホにかかってきた見知らぬ番号からの電話。
今年の2月までは付き合ってた松木とは、現在宙ぶらりんの状態でしたが、電話の相手は病院から。
しかも松木の状態が意識不明だということで、咄嗟に婚約者と言ってしまう清瀬。
当時その場にいた岩井くんの彼女「天音さん」の話によると、松木は友人の岩井くんと殴り合いのケンカでそのまま階段から落ちたらしい。
「悪いのは松木さんです」
確信に満ちた「天音さん」の言葉に、清瀬が知る松木からは想像も出来ないので、驚く清瀬。
・・・が、涙を流す顔を両手を覆い、肩を震わす「天音さん」の横顔から見えたその顔は唇の両端が持ち上がり、たしかに笑っていたのでした。
清瀬と松木の出会いの話もあり、読んでいる限りの松木は、暴力をふるう印象ではなかったので、反論しようとし、思いとどまる清瀬と同じ行動をとるだろうなと私も思いました。
それにしても、「天音さん」の挑発するような言葉や態度は、演技をしているのか、何を考えているのか分からず、あの笑みも不気味さを増します。
本音で話すということ
清瀬の友人篠ちゃん。清瀬の性格をよくわかった上でこう言います。
「この話をこの人にしたら思いかな、傷つくかな、みたいに、いちいち細かく話題選んでるやろ。よく気がつくぶん、人に気を遣う。でもその気の遣い方、間違ってると思う。だってあんたそのせいで感情を消化できずに、しょっちゅう爆発してるやん。」
清瀬は人によって話を選んでいます。
確かにそんな風に毎日考えていると、生きづらい。
親はみんな「毒親」なのかもしれない
いっちゃんは字が書うまく書けない。
「読まれへんやろ。この子な、昔っからこんな字しか書かれへんねん。おかしいやろ」
いっちゃんのお母さんは、謙遜のつもりかそれを人前で平気な顔していう。
もちろん悪気はありません。
そう言われた時のいっちゃんの気持ちは、恥ずかしく、悔しかったんだそうです。
親というものはときどき平気な顔で、人前で自分の子どもを貶す。
自分の子どもを自分という人間の一部みたいに思っているのかもしれない。
私も子供の頃両親に人前で謙遜され、傷ついて影で泣いていたことがありました。
もしかしたら、私自身も子どもたちに、無意識で言っていたのかもしれません。
言った本人は忘れていますが、言われた方は忘れられないものです。
謙遜しすぎても褒めすぎても無関心でも過保護でも過干渉でも、その時々で、その子に合った言葉をその状況で伝えないと、子どもは、傷つくのかもしれません。
愛情のかけ方って難しい…
「だれかをわかろうとする/わかった気になること」
品川さんのカミングアウトで清瀬が思わず「知っていれば」と口走ってしまいます。
私も清瀬のように、自分で思っているよりずっと偏見に満ちた人間なのかもと思いました。
私は今まで、他人の行動の表面的な部分だけ見て判断し、大切なことを見誤ってしまっていたのかもしれません。
人の気持ちは、どこまで分かるんだろう?
目の前の相手を知るためには、親子、夫婦、友人も含め、分かったつもりになるのではなく、とことん、コミュニケーションをしなければいけないのしょう。
私は他の事をしながら、話を聞いていて、ちゃんと話しを聞いていないと怒られたことが幾度とありました。
自己肯定感
自己肯定感にも色々あるのかもしれません。
親からの愛情を受けた人、受けなくても自分を持っている人。
その人の持つ性格、環境、影響を受けた人、本等々。
誰かの役に立つことで、自分の存在を認められたいと思う。
そう思ういっちゃんのような人は多いと思います。
本当の自分
私も清瀬のようにほんとうの自分とか考えたりしました。
清瀬の友人篠ちゃんは良い事を言ってくれる。
「わたしは『ほんとうはいい人』とか『ほんとうは嫌な奴』みたいな言いかた、嫌いや」
「ほんとうの自分とか、そんな確固たるもん、誰も持ってないもん。いい部分と悪い部分がその時のコンディションによって濃くなったり薄くなったりするだけで」
確かに、眠い時はいいかげんになったりする。お腹空いている時はイライラしたりする。
心に余裕がある時は、人に優しくなれる。何かに夢中になっている時は他人に無関心だったりする。
自分が忙しかったりすると、子どもの事はつい後回しにしていた気がします。
余裕がないというのは、いつも何かに追われている気がします。
恵まれているということに感謝する
今私は、自分が恵まれていることに感謝しています。
天音さんの本心を知る清瀬。
自分とは違う世界で生きてきた女性。
自分が生きていくためにはどんな事でもする。自分に自信がない、人に知られたくない弱点がある男の人は特に利用しやすい。けれど、清瀬が男を利用せずに生きていけるのは、恵まれていたから。
「あのね、言っとくけどあんたが男を利用せずに生きていけるのは、あんたがわたしより優れているからじゃない。ただわたしより恵まれてただけ。運よくまともな家で生まれ育って、友だちがいて仕事があって、運よく順調に生きてこれただけ。ただちょっと運がよかっただけのくせに、偉そうに道端で説教する気?」
自分に言われているような気がして怖かったです。
清瀬がいうこのセリフは私の言葉かもしれません。
「・・・わたしは今まで、松木だけじゃなく、誰のこともわかってなかったと思うんです。わかろうとしてこなかったんです。他人にたいして『なんか理由があるのかもしれん』って想像する力が足りなくて・・・そのせいで、職場の人を傷つけたりもしたんです」
毎日のように目にするむごい事件をみる度、いつも「なんで」とか「信じられへん」とか思ってきたけれど、その言葉で他人事に出来てた私。
似たような苦しみを味わったことで考え方が変わったこと。
誰かが手を差し伸べてくれても、どの手を取るのかを決めるのは自分。
結局人生は、自分自身が決めるということ。
ラストで天音さんが大切に持つあの「大吉」の包み紙は、いっちゃんの気持ちが彼女に少しだけ届いたそんな気がしました。