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限定提供データ該当性(限定提供性/電磁的管理性)大阪地判令8.1.22(令7ワ7894)

不競法の限定提供データ該当性が争われた事例。

事案の概要

パチンコホール運営会社向けの情報サービス(本件サービス)を提供する(原告)は、何者かが、Xが提供する限定提供データ(不競法2条7項)を不正に取得し(同法2条1項11号)、記事(本件記事)を作成したことがXの営業権を侵害したことが明らかであるなどとして、本件記事が投稿されたサイト(本件ウェブサイト)を管理する(被告)に対し、情プラ法*15条1項に基づいて、本件記事の投稿者に関する発信者情報の開示を求める申立て(本件申立て*2をした。

(補助参加人)は、本件記事は自らが投稿したものであるとして、本件申立ての手続に利害関係参加人として参加した。

大阪地方裁判所は、令和7年6月30日、Xの本件申立てを全部却下する決定(本件決定)をしたところ、Xは、情プラ法14条1項に基づく異議の訴えを提起し、本件決定の取消等を求めた事案である。

本件サービスには、パチンコ台の出玉データ等の情報(台データ)をグラフ表示させる機能などがあり、これを本件サービスのユーザであるパチンコホール運営会社は、集客目的で自社のサイトに掲載することができる。

顧客(ウェブサイトの閲覧者)が台データを閲覧する際には、利用規約(本件利用規約)が表示され、これに同意する必要があるが、ユーザ登録や認証などは必要なく、閲覧は無償であった。利用規約には、禁止事項としてスクレイピングやこれに類する行為が挙げられていたほか、botによるデータの自動収集を回避するため、人間によるアクセスであるかを検証するツール(「Cloudflare Turnstile」(CT))*3が導入されていた。

Zは、上記ツールを回避し、botを用いて、台データを取得したことがあった。

 

ここで取り上げる争点

台データの限定提供データ該当性

限定提供データとは、「業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く。)」をいう。要件は、主として(a)限定提供性、(b)電磁的管理性、(c)相当量蓄積性から構成されるが、このうち、本件では(a)と(b)が争点となっている。

裁判所の判断

限定提供性について。

Xが保有する台データを閲覧するためには、本件利用規約への同意とCTによる検証を通過する必要こそあるものの、ユーザー登録を求めるなどのデータにアクセスする者を特定、限定するための措置などが講じられているわけではなく、上記台データは、その提供相手を誰とするかについて、Xの選択や裁量が入る余地のないまま、インターネット上で上記同意等の手続に応じさえすれば、何人たりとも無償で提供を受けることのできる情報であるところ、そもそも、不特定の者に提供されている情報であって、「特定の者」に対して提供されている情報とはいえない。

電磁的管理性について

データ保有者がデータを提供する際に、特定の者に対して提供するものとして管理する意思が外部に対して明確化され、第三者が認識できるようにされている必要があると解されるところ、上記のとおり、本件の台データは、そもそも、「特定の者」に対して提供されている情報とはいえないから、そのような管理の意思が外部に対して明確化されているものではなく、電磁的管理性の前提を欠くものといえる。

 

また、CTによる検証の仕組みによりbotによるアクセスを制限していたが、限定提供データは、特定の「者」に対して提供する情報についての電磁的方法による管理を求めているのであって、botのアクセス制限をしていることが「者」を限定することにはならないとした。

その結果、台データが限定提供データに該当するものではないとして、本件申立てを却下した本件決定は相当であるとした。

 

若干のコメント

有償で提供・販売するPOSデータやAI学習用データセットなどは、経済的価値があることは疑う余地がないですが、一定の条件で広く提供されていることから、非公知性や秘密管理性を要求する営業秘密(不競法2条6項)に該当せず、また、網羅性、悉皆性を有することなどから、選択や構成に創作性を要するデータベースの著作物(著作権法12条の2)にも該当しないことが多いです。これらのデータの保護を目的として、2018年の不正競争防止法の改正で「限定提供データ」について不正取得、開示、使用等が「不正競争」の一類型として定められ(同法2条1項11号から16号)、2019年に施行されました。

ところが、これまで限定提供データの要件該当性が争われた裁判例はほとんどなく、知る限りでは本件が初めて(ただし、要件のうち、限定提供性と電磁的管理性のみ)ではないかと思われます。

本件の争点のうち、「限定提供性」は、一定の条件の下でデータ提供を受けることをいい、人数の多寡は問わないとされています。典型的には会費を支払って提供を受けるケースが想定されます。本件では、利用規約への同意を要求しているものの、相手を特定しているわけではないとして否定されました。

また、「電磁的管理性」については、単にデータが電磁的に管理されていることのみならず、「特定の者」以外にはアクセスできないように管理されていることをいい、典型的にはID・パスワード管理がされているケースが想定されています。本件では誰でもアクセスできるようになっているとして、この要件も否定されました。

限定提供データ保護制度が創設されたことにより、実務的には、対象データが限定提供データに該当するような取扱いルール・管理を定めることが増えている印象はありますが、裁判例の蓄積も乏しいため、該当性について悩ましい場面はあります。本件は発信者情報開示事件ではありますが、実務的には貴重な判断事例です。

*1:特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律。旧プロ責法

*2:プロ責法から情プラ法へと改正された際に導入された非訟手続。いわゆる「発チ」事件。

*3:botかどうかを判別するためのツールとしてCAPTCHAが用いられることが多かったが、ユーザ体験を損なうという難点も指摘されており、それに代わる仕組みとしてCloudflareが提供している。




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