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競馬情報に関するプログラム・データと営業秘密・著作権 知財高判令7.3.25令5ネ10057

競馬情報の提供に必要なプログラム、データ等が営業秘密であると認められたが、プログラムの著作物性が否定された事例

事案の概要

X(原告)は、インターネット上で、競馬の勝ち馬を指数化した情報を掲載する競馬新聞を提供していた。Xに在籍していたP1、P2(いずれも被告)が、Xが保有するIDM指数作成プログラム(本件プログラム、本件情報1)、データ、競馬新聞ブログ(本件ブログ)、顧客名簿等(以上、まとめて本件情報)を持ち出し、P1が設立して代表を務めるY(被告)が競馬新聞を作成して、顧客に提供した行為について、営業秘密の不正使用等、本件プログラムの著作権侵害に当たるとして、不正競争防止法及び著作権法に基づく差止、廃棄・削除請求のほか、損害賠償請求を行った(他にも多様な請求があるが割愛する。)。

一審(大阪地判令5.4.24)は、本件プログラムについて著作物性を否定し、本件ブログの著作権はXに帰属せず、また不正競争防止法に基づく請求も否定し、請求を棄却した。Xが控訴。

ここで取り上げる争点

(1)本件情報の営業秘密該当性

(2)本件プログラムの著作物性

(3)損害(不競法5条2項に基づく推定)の額

裁判所の判断

争点(1)について

判決文の重要な部分について閲覧制限によるマスキングがかかっていたが、結論部分を引用する。

本件情報1(IDM 指数作成プログラム〔本件プログラム〕及び指数作成手法)及び本件情報3(IDM 構成要素データ)は、レース結果における考慮要素に係るデータを数値化した点数を計算要素とし、X独自のロジックとデータとプログラムに基づき競走馬及びレースごとの総合得点を算出して数値化し、これを前提に、開催されるレースの条件も勘案した補正等を加えて予想値となる数値をIDM 指数(IDM 結果値)として算出するものであり、これに基づき、X独自のレース予想値として、IDM 予想値をXが発行するインターネットによる競馬新聞に掲載しているのであるから、本件情報1及び3は、「事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」(不競法2条6項、有用性)に該当する。また、本件情報1及び3は、「社外秘」とされてX社内のコンピュータ等に格納され、業務の必要から従業員全員がアクセスすることができるが、社内ID 及びパスワードの入力を必要とし、退職者がいる場合には一斉にパスワードが変更されるのであるから、「秘密として管理され」かつ「公然と知られていないもの」(不競法2条6項。秘密管理性、非公然性)に該当する。よって、本件情報1及び3は、Xの営業秘密に該当するというべきである。

その他にも、本件情報2(デジタル競馬新聞作成システムプログラム)と本件情報4(顧客管理名簿)について、Xの営業秘密に該当するとした。

これらの点に関するYの主張と、それを退ける裁判所の判示部分を一部引用する。

Yらは、競馬新聞の作成に利用する公式データは、JRAのものであり、Xの営業秘密ではないと主張する。しかしながら、Xは、本件情報1及び3により、公式データからIDM 指数作成のために必要となる考慮要素に応じたデータ等を抽出し、IDM 結果値を作成するのであるから、公式データそれ自体はXの営業秘密とはいえないとしても、IDM 構成要素となるデータとして項目毎に整理された後のデータは、単なる公式データとい
うことはできないというべきである。よって、Yらの主張を採用することはできない。

Yらは、Xにおいては、平成11年発行の書籍(乙140)及び平成17年初版の書籍(乙142)でIDM 指数及びIDM 構成要素データに係る情報(計算イメージを含む。)を公開し説明しており、公式データに基づき同程度のシステム構築や競馬新聞の作成は容易に可能であるから、本件情報1及び3は非公然性を欠くと主張する。

(中略)Yらの提出する証拠(乙140、142)には、計算式である「(中略)」を含め、指数作成手法や各考慮要素等が記載されているものの、全て開示するものではなく、IDM構成要素の数値の計算方法を開示するものでもない。したがって、これらの証拠の記載から前記⑴アに掲記するものと同程度のシステム構築をすることができるものとはいえず、本件情報1及び3の非公然性は否定されないというべきである。よって、Yらの主張を採用することはできない。

また、事実認定部分は割愛するが、以下のように述べて、裁判所は、P1らの行為が不法行為、不正競争に当たることを認定した。

これらの事実を総合すると、Yらにおいては、共謀の上、P1及びP2のXからの退職前においては、財産を隠匿するなどして同年9月及び10月におけるYのXに対するハイブリッド競馬新聞の売上の75%相当額の支払を免れさせ(民法709条、719条)、また、Xからの退職後においては、同年11月以降もハイブリッド競馬新聞の発行を継続することにより不正の利益を得る目的又はXに損害を加える目的でXの営業秘密を使用した(不競法2条1項7号)ものと認めるのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はない。

そして、共同不法行為のほか、不競法3条に基づく差止、廃棄及び損害賠償について一部の請求を認容した。

争点(2)について

原審で示された規範(プログラムの具体的記述において、指令の表現自体その指令の表現の組合せその表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れていることが必要である*1)は、控訴審でもそのまま引用された。控訴審においても著作物性を次のように述べて否定した。

本件プログラムにおいては、Excel 及びAccess 上の各計算を行うに当たり、抽出する項目の組合せ、抽出された項目の処理、計算方法等原告独自の発想に基づいているなどと主張するが、本件において、本件プログラムが、Excel 及びAccess のマクロ計算を利用する指令の表現自体、指令の表現の組合せ、表現順序から成るプログラム全体の選択の幅において、ありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れているものとまで認めることはできない。

争点(3)について

損害の額について、Xは、不競法5条2項に基づいて、Yが「受けた利益の額」が損害となると主張していた。一般に「利益」の額は、売上から変動費を控除した限界利益の額が用いられる。Xは、「売上」は税込の額を算定すべきと主張していたが、

本件のように、侵害者が、事業として資産の譲渡等を行い、これによる売上を、消費税抜きの売上と仮受け消費税に分けて帳簿に計上する場合、仮受け消費税分は、侵害者が納税を予定する額として計上するものであって、国に帰属すべき消費税分であり、侵害者に帰属すべき利益には当たらないと解するのが相当である。

と述べて、消費税分は計算の基礎とならないとした。

Yの利益相当額は、限界利益率が94%であるとして「利益」を算定したが、競馬情報を提供する業者が多数いることなどを考慮して、同項の推定を一部覆滅して、相当因果関係ある損害は、「利益」の70%をもって相当とするとした。

その結果、損害賠償の額として、弁護士費用相当額と併せて約1.5億円を認容した。

若干のコメント

原審では、本件情報をYらが保存していたことは認められないとして不正競争が認められないとしたほか、プログラム等の著作権侵害もいずれも否定していたのに対し、控訴審では、かなり事実認定が変更され、営業秘密該当性と、不正目的での使用(7号)が認められました。他方で、著作権侵害の点については、原審同様に著作物性が否定されています。

プログラムが営業秘密であるということと、著作物であるということは特に相関があるものではないものの、それなりの処理を行うプログラムについて著作物性が否定されたことについては一見すると違和感があります。本件に限らず、プログラムの著作物性については、規範もいまいち掴みどころがなく、各当事者の主張立証ポイントも的が絞り込まれていない印象があり、結果的に否定された事例が多いと感じます*2(この点については、近日中に刊行される論文集にて拙稿が掲載される予定です。)。

もっとも、本件では営業秘密の不正使用が認められている以上、差止と損害賠償による請求が十分なされるため、原告の救済という意味では十分な結果が得られています。

*1:この規範は、知財高判平18.12.26判時2019号92頁[宇宙開発事業団プログラム事件・当ブログ未掲載]において示された以降、プログラムの著作物性が問題となったほとんどの事件において用いられた言い回しである。

*2:近時の否定例として、東京地判令6.12.23東京地判令4.8.30知財高判令3.9.29など。




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