既存のシステムに新たな機能を追加制作する業務を委託する契約が、請負/準委任/労働者派遣のいずれかであるかが争われた事例。
事案の概要
X(原告・ユーザ)は、Y(被告・ベンダ)との間で、本件基本契約と本件個別契約(併せて本件契約)を締結し、インターネットショッピングサイトの出品・在庫管理に関するシステムの開発(既存システムの機能追加)を発注した。本件基本契約には、「成果物の納入、検査」などの規定があり、本件個別契約にはプロジェクト名が記載され、9つの項目が記載されていたが、「別紙仕様書に準ずる」との記載はあるものの、仕様書の添付はなかった。また「Xに常駐、月額80万円、検収完了後月末締め翌月払い」などの条件が記載されていた。Xは、毎月、支払ってその合計が約1460万円に達した。
Xは、Yが納品やシステムの修正に応じなかったなどとして、本件契約を解除し、主位的には、Yに対して債務不履行による損害賠償として、約1460万円を請求し、予備的には、納品されたシステムの不具合により、モールから退店させられたとして逸失利益等の損害賠償として、約3000万円を請求した(本訴)。
これに対し、Yは、Xとの間で締結された契約は、労働者派遣契約である等と主張し、未払いの対価260万円を請求した(反訴)。
ここで取り上げる争点
本件契約の法的性質(Xは、本件契約は、請負契約(主位的請求)または準委任契約(予備的請求)であると主張したのに対し、Yは、労働者派遣契約であるとして争った。)
裁判所の判断
最初に、裁判所は、以下のように述べて本件契約は、「完成させるべき仕事の内容が特定されていたとは認めるに足りない(本件業務の内容が,請負契約において完成させるべき仕事に当たるほど特定されていたとは認めるに足りない)」として、請負契約ではないとした。
当事者間において本件基本契約及び本件個別契約が書面により締結されているところ,これらの契約書面(本件基本契約書及び本件個別契約書)の規定内容をみても,完成させるべき仕事の内容が特定されていたとはいえない。
すなわち,本件個別契約書(甲4)においては,Yがなすべき事柄として「仕様書に準ずる」とか,「指示仕様書の機能一式の製造からテストまで」などの記載があるものの,実際には本件個別契約書に仕様書は添付されていない。かえって,本件個別契約書には,Yがなすべき事柄として「仕様書の作成」が掲げられている。
また,本件個別契約書には,本件業務の内容として,9項目(①独自サイトWEBシステム,②卸注文システム・見積りシステム,③在庫管理機能追加,④物流システム,⑤おてがる操作画面作成,⑥楽天ポイント・手数料チェック機能,⑦マーケティング分析機能,⑧笑得ドットコム 写真大喜利機能,⑨笑得ドットコム リニューアル)が記載されているが,これらは単に本件業務の内容の抽象的な項目を挙げたにすぎず,完成させるべき仕事の具体的な内容とはいえない。
(中略)
本件契約に係る代金支払等について見ても,本件個別契約書によれば,毎月80万円(消費税込み)を検収完了後に月末締め翌月10日払いをすることとされており,本件個別契約書の記載振りをみても,特定の完成成果物に対して代金ないしは報酬が支払われることが前提とされているとは直ちに解しがたい。
(中略)個別業務の成果物に対する検収等の有無にかかわらず,毎月のように一定の金額が支払われていたことが認められる。そして,個別業務の成果物に対して各別に検査や検収,Yによるテストが実際に行われたことをうかがわせる証拠はない。
本件では、準委任契約(原告の予備的主張)、労働者派遣契約(被告の反訴)であるとも主張されていたが、裁判所は、以下のように述べて準委任契約であるとした。
本件契約は,Xにおいて稼働していた本件システムに独自販売サイト等の新たな機能を付加作成するためのものであるところ,Xは,それまで断続的に原告からシステム開発を依頼され,本件システムについて事前知識のあるYとの間で本件契約を締結したのであるから,本件契約はその相手方が本件システムに事前知識のあるYであることが重要な動機となっているものと認められる。
また,本件契約に係る実際の作業の過程を見ても,前記認定のとおり,AからBに対し,たびたび具体的な指摘がされ(略),それを受けて,Bが実際の制作作業を行ったものであるが,一方で,上記指摘の内容から一義的に制作作業の内容が確定するともいえず,Bには一定の裁量が残されていたものと認められる。
また,実際にBがXの指揮命令権の下で労働者として働いていたことを認めるに足りる証拠もない(略)。
なお,本件基本契約書には,Yが行う義務の着手から成果物の納入に至るすべてにおいて,XとYとの間に労働者派遣法に規定される派遣元と派遣先としてのいかなる関係も存在しないことを確認する旨が規定されている(34条)。
以上の事情によれば,Y(B)の作業には,本件システムの事前知識やBの専門性を前提とする一定の裁量が認められていたものであるから,本件契約は,作業者(派遣労働者)の個性や裁量が重視されない労働者派遣ではなく,むしろ,準委任の性質を持つものと認められる。
もっとも、Xが主張していた債務不履行(善管注意義務違反)の主張については、事務処理の具体的な問題を主張しているものではなく、不具合があったとしても直ちに事務処理が善管注意義務違反になるものではないとしてXの請求は棄却した。
他方で、Yの反訴請求は、労働者派遣契約であること等を前提とするものであるから棄却された。
若干のコメント
ベンダの責任が問われる事案では、そもそもベンダの債務の内容を確定する必要があり、その前提として締結された契約が請負か準委任であるかが争われることがあります(当ブログで紹介する事案でも、東京地判平3.2.22、東京地判平22.9.21、東京地判平24.3.14,、東京地判平24.4.25、東京地判平26.9.25、東京地判平27.11.24、東京地判平28.4.20、東京地判令2.3.13、東京地判令2.9.24、東京地判令2.12.22、東京地判令3.9.30など、多数あります。)。
多くの場合、ベンダが準委任契約だから完成責任はないと主張するのに対し、ユーザが請負契約だから完成責任があると主張しますが、本件では、ベンダが「労働者派遣契約」だと主張したところが特徴的でした。しかし、本件では基本契約書において明示的に労働者派遣ではないと明示されていたのでこの主張にはさすがに無理があったのかもしれません。
本件では、請負契約かどうかを判断するに際して、(業務の内容が)「完成させるべき仕事に当たるほど特定されていたか」否かで判断していますが、実務的には、契約の性質の問題のほか、そもそも契約の成否の場面でも契約締結段階でどこまで固まっていたかが問題になります。
この点に関し、司法研修所『民事訴訟における事実認定』98頁以下では、ソフトウェア開発委託取引では、仕様に関する合意が段階的に形成されているということを踏まえて、必ずしも詳細な仕様が固まっていなくても契約の成立を妨げるものではないという趣旨のことが述べられています。
いずれにせよ、①開発の対象が簡単な項目レベルでしか決まっていないこと、②毎月固定額の支払いが行われていたこと、③検査・検収といった手続が行われていなかったことなどからすると、本件は準委任契約だと認定したことは適切だっただろうと思われます。また、言うまでもないですが、「詳細は別紙」としつつ、その別紙が存在しないという事態は、業務の内容が生煮えであったことを印象づけます。