プラットフォームから加盟店への売上金支払留保条項が、民法548条の2第2項によって合意されなかったものとみなされるかどうかが争われた事例。
事案の概要
医薬品等を販売するX(加盟店)は、Y(アマゾン)に対し、マーケットプレイスサイト(本件サイト)の出品の利用登録を行って契約(本件契約)を締結した。本件契約には各種規約(本件規約)が適用されることとなっていた。
Xは、本件サイトにおいて、短期間で商品取引数2919点、総額約7000万円の取引を行ったところ、Yは、この取引が、同一の購入者が大多数の商品を購入するなど、不自然であり、資金洗浄等の違法行為を行う目的で行われた疑いがあるなどとして、取引の売上金の支払いを留保し、その後も支払わなかった。
Yは、支払を留保する根拠として、本件規約中の、
第2条 サービス利用者のアカウントが、偽装、詐欺、又は違法行為に利用されているものとAmazonが判断した場合、Amazonは、その独自の裁量により、サービス利用者への送金又は支払を永続的に留保することができるものとします
を挙げていた(本件規定)。
Xは、Yによる支払留保が違法であるとして、手数料控除後の売上金として、約6500万円の支払いを求めた。
ここで取り上げる争点
本件規定が、民法548条の2第2項によって合意しなかったものとみなされるか。
裁判所の判断
これらの争点の前提として、Xは、本件規定内に「永続的に留保」できるとする部分が公序良俗に反して無効であると主張していたが、裁判所は、本件規定が、詐欺事案やマネーロンダリングにサービスが悪用されることを防止するためにあるとして、その目的のためには支払留保は、一定期間に限定することもできないから、必要かつ相当な範囲内にとどまっているとした。
続いて、本件規約が定型約款に当たることは争いがないとして、548条の2第2項該当性について(太字は引用者)、
本件規定の不当条項等該当性について検討するに、本件規定に定める送金等の留保の措置は、Yがサービス利用者に対して契約上負っている売上金の送金等に係る義務の履行を拒絶することを可能とし、サービス利用者の権利行使を阻止できるようにするものであるから、「相手方の権利を制限する条項」に当たる。しかしながら、前記1(2)に説示した点に照らせば、本件規定は、違法行為等の存在をうかがわせるような徴表が発見されたことを前提に、不当な資金の移転を阻止するために不可欠な手段として送金等の留保の措置を取ることができるとするものであり、上記の目的を達成する上で必要かつ相当な範囲内にとどまっていると評価すべきものである。また、本件規定の意味内容が、サービス利用者のアカウントが違法行為等に利用されているとYにおいて判断した場合には、送金等の留保の措置を、期限を定めることなく取ることができるものであることは、本件規定の文言からサービス利用者が理解し得るものであり、かつ、本件規約中、本件規定部分は太字で記載され、サービス利用者に対しても強調されて示されていることからすると、本件規定が、サービス利用者にとって認識困難であるとか、あるいは予測が困難であるということはできない。
そうすると、本件規定は、信義則に反してサービス利用者の利益を一方的に害するものと認めることはできないから、民法548条の2第2項に定める不当条項等に該当するということはできず、これに反するXの主張は採用することができない。
として不当条項該当性を否定した。
続いて、Xが行った取引について、送金の留保を行うことができるかという点については、1台約30万円の高級カメラが、1カ月弱の間に特定のアカウントに対して242台販売されるなど、ほとんど同一の製品についての取引であり、特定のアカウントとの取引が、全売上の約94%を占めている上、配送したとされる伝票も訴訟において提出されず、決済はすべてアマゾンギフト券が用いられたことなどを挙げ、取引として極めて異質であり、アマゾンギフト券を現金化する目的で取引が操作された疑いがあるなど、架空取引であることが推認されるとして、本件規定を適用して支払いを留保したことはYにおいて合理的な判断であり、支払を拒絶できるとした。
若干のコメント
先日は、ECサイトにおける転売禁止条項に違反した場合に適用される違約金条項が、548条の2第2項に定める不当条項等に該当するという事例を紹介しました(東京地判令5.8.24)。本件は、プラットフォームが受領した売上金を加盟店に支払う際に、違法行為の疑いがある場合に支払いを留保できるという条項が、不当条項等にあたるが問題となったものであり、その内容の必要性、相当性に加え、規定の表示の際にも強調してあったことなどを理由に、不当条項等には当たらないとされました。
上記事例でも述べましたが、定型約款に関する規定は2020年に施行されたばかりなので、こうした裁判例の数は多くなく、貴重な事例の一つだといえるでしょう。
本件だけをみれば、マネーロンダリング等にプラットフォームを利用された可能性が高く、支払を留保できるとした条項は有効であり、かつその適用も妥当だったと言えると思われますが、他方で、プラットフォームが不透明な形で事業者(加盟店やアプリ提供者)に対して強権を活動するケース(一方的に返金・返品したり、リジェクトしたりするなど)もあり、加盟店が泣き寝入りするケースもないわけではありません。独占・寡占状態にあるプラットフォーマーへの規制の一つとして、2021年に「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(取引透明化法)が施行されており、本件のY(アマゾン)も、総合物販オンラインモール分野の特定デジタルプラットフォーム提供者に指定されています。