実験結果の報告書に含まれる多数の写真、図、グラフ等の著作物性が争われた事例(一部肯定、一部否定)。
事案の概要
脳・生命科学の研究開発等を行う会社Xは、Yの委託を受けて、実車を運転するドライバーの脳発動の測定するなどの実験を行い、その結果として報告書(X報告書)を作成し、Yに提出した。X報告書には、多くの図、写真が含まれている。
Yらに所属する従業員らは、論文を作成し、ウェブサイトに掲載したが、その際に、X報告書の記述・写真等を無断で使用したとして、Xが、Yら(会社のほか、執筆者個人)に対し、著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権を侵害する等と主張し、論文の複製・頒布の差止めのほか、損害賠償等を請求した。
ここで取り上げる争点
- X報告書に含まれる写真及び図表(の一部)の著作物性
- 損害の額
そもそもX報告書が、Yの職務著作あるいは共同著作物になるかといった著作権の帰属なども争われていた。図表以外にも報告書中のテキスト部分についても、著作権侵害が争われたが、その対比が「別紙対比表」にて行われ、判決DB等で公表されていないため、これらの争点は割愛する*1。
裁判所の判断
肯定した図が一部あるため、肯定した例、否定した例をいくつか紹介する。
(肯定)図4(実験に用いる車両の機器設定の状況を示すために車両を撮影した写真)

いずれも、実験車両の外観や機器の状況を視覚的に端的に理解することができるように、被写体の状況を踏まえ、構図、撮影ポジション・アングルの選択、明るさ等を工夫して撮影したものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図4は、上記の工夫において創作性を認めるのが相当であるから、写真の著作物に該当するものといえる。
(肯定)図5写真(ドライブシミュレータの外観の写真)

本件実験に用いられたDS及びfNIRSの形状等を示すために、被験者がシミュレーションを実施中のDSの外観を左後方からそれぞれ撮影したものであり、DSが実車乗車時と同様の視界や道路環境を再現したものであることを視覚的に端的に理解することができるように、被写体の状況を踏まえ、構図、撮影ポジション・アングルの選択、明るさ等を工夫して撮影したものであることが認められる。
(否定)図5模式図

本件図5(模式図部分)は、実験状況を簡潔に説明するために通常の模式図を利用するものにすぎず、ごくありふれた表現にとどまるものであるから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
(否定)図6(計測原理を示す画像)

本件図6Aは、頭部の断面図の画像に赤や青の線を付記したものにすぎず、また、本件図6Bは、動脈を示す赤色の管と静脈を示す青色の管を組み合わせるものにすぎず、いずれもごくありふれた表現にとどまるものであるから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
(肯定)図7A/B(頭部アタッチメント及び装着時の写真)

本件図7A及びBは、頭部アタッチメントを装着した様子を示すために、①本件実験に用いられた頭部アタッチメントの形状を真上から撮影したもの(図7A)及び②当該頭部アタッチメントを被験者が実際に装着した際の様子を前方、後方、右方、左方の4方向から撮影したもの(図7B)であり、いずれも、頭部アタッチメントの形状やその装着状況を視覚的に端的に理解することができるように、被写体の状況を踏まえ、構図、撮影ポジション・アングルの選択、明るさ等を工夫して撮影したものであることが認められる。
(否定)図7C/D(頭部アタッチメントを装着した状況をMRIで撮影した図(C)と、計測チャンネルとブロードマンの領野の対応関係を模式化した図(D))

本件図7Cは、3D-MRIにより機械的に表示された図に、関連する数字を端的に付記したものにすぎず、ごくありふれた表現にとどまる(中略)
本件図7Dは、赤、青、黄色、緑といった一般的な色彩を用いて、頭部アタッチメントを上から見た際の計測チャンネルを模式図化した上で、これに対応するブロードマンの領野の各番号を記載するものにすぎず、ごくありふれた表現にとどまる
(肯定)図8(被験者の実験時の様子を示す写真)

頭部アタッチメントを装着して実車を運転中の被験者の状況を視覚的に端的に理解することができるように、被写体の状況を踏まえ、構図、撮影ポジション・アングルの選択、明るさ等を工夫して撮影したものであることが認められる。
(否定)図13(脳活動のデータのグラフ)

本件図13は、計測チャンネルの位置を示すために頭部の3D画像に数字を付したり、△COEのようなデータの数量的な変化を示すために一般的な折れ線グラフを使用したりしたものにすぎず、ごくありふれた表現にとどまるものである
(否定)図16(実験データをグラフ化したもの)

本件図16及び20は、計測チャンネルの位置を示すために頭部の3D画像を使用したり、△COEや加速度のようなデータの数量的な変化を示すために一般的な折れ線グラフを使用したりしたものにすぎず、ごくありふれた表現にとどまるものである
以上より、図4、図5(写真部分)、図7A及びB、図8についてのみ著作物性が認められ、他の多くの写真・図表については否定された。
そして、これらの図が、Yらが執筆した論文に掲載されていることから、著作権侵害(複製権)と著作者人格権侵害(氏名表示権及び公表権)が認定された。
Yらは、引用(著作権法32条)が成立することや、Xの明示又は黙示の許諾があったとの主張もしていたが、出典の記載もないことなどからいずれも否定された。
損害賠償の額は、写真1枚につき2万円(著作権侵害、著作者人格権侵害についてそれぞれ1万円)とし、掲載された枚数に応じて賠償額が算定された。
若干のコメント
本件は、多数の図表についての著作物性が争われた事例であり、ビジネスで使われる図表・グラフ等の著作物性の判断にも参考になると思われます。本件では、模式図、グラフなど、作成に一定の工夫を凝らしたものについて著作物性が否定されたのに対し、実験の状況を示すために撮影された写真については比較的肯定されています。
従前から、写真(著作権法10条1項8号)の著作物性は芸術作品など以外にも広く認められやすいのに対し(当ブログで取り上げた 東京地判平27.1.29(IKEA商品写真)のほか、旅館の施設・料理を撮影したものである東京地判令6.6.21など。)、図表に関しては、図形の著作物(同項6号)が著作物の例として挙げられているものの、なかなか認められていません(当ブログで取り上げた東京地判平23.4.10(ビジネスモデル図)など。)。そもそもグラフは、数値等の事実を表現したものであり、思想又は感情を表現したものとはいえないものも多く、分かりやすくて広く知られた表記法に従って描画する限りは創作性は後退するため、著作物性が認められにくいものだといえます。
もっとも、模式図(俗にいうポンチ絵)やグラフに著作物性が認められにくいとしても、これらを利用する場合には、①許諾が得られるものについては許諾を得るか、②引用の要件を満たす態様での利用にとどめるか、③そっくりそのまま転載する必要がないものは独自に作成し直すといった対応を検討しておくとよいでしょう。
*1:なお、テキストについては、いずれも著作物性を否定されている。