プログラムの著作権侵害にかかる事案において、プログラムの特定に疑問がある事例。
事案の概要
X(原告)は、C社と雇用関係にあり、C社はY社(被告)に吸収合併された。Xは、自ら開発したとするプログラム(本件プログラム)を、Yが無断で複製して第三者に売却したことが、著作権(複製権、頒布権)を侵害するとして、損害賠償を請求した(他に、Xがパワハラ・セクハラの被害を受けたことについて、安全配慮義務違反の主張もしていた)。
原審(東京地判令2.3.24(平31ワ10821))は、Xの請求をいずれも棄却した。
なお、Xは請求の趣旨で「別紙プログラム目録記載のコンピュータプログラムについての著作権を有することを確認する」と記載していたが、当該別紙には、
コンピュータプログラム「Visual Basic」
とだけ書いてあった。
ここで取り上げる争点
Xが本件プログラムを作成したか
Yは、そもそも「本件プログラム」の存在自体を認識していないとして争った。
裁判所の判断
原審引用型の控訴審判決であるため、原審の引用部分と合わせて引用する。
Xは,本件プログラムを創作するに至ったアイディアや本件プログラムの機能について主張するが,それらについてのプログラムの著作物としての具体的な表現(ソースコード等)の主張はなく,Xが職務の空き時間に作成したと主張する本件プログラムについて,具体的な表現としてのプログラムを認めるに足りる的確な証拠はない。そして,Yが本件プログラムを複製し,売却したことを認めるに足りる的確な証拠もない。
以上によれば,Xの請求のうち,本件プログラムについての著作権侵害を理由として損害賠償を求める点,本件プログラムの著作権を有することの確認を求める点は,いずれも理由がない。
(中略)
また,著作権法上の「プログラム」は,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」をいい(同法2条1項10号の2),プログラムをプログラム著作物(同法10条1項9号)として保護するためには,プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され,その作成者の個性が表れていることが必要であると解されるところ,Xは,本件プログラムの具体的記述の内容を主張立証していないから,本件プログラムの具体的記述の内容を主張立証していないから,本件プログラムが著作権法上の「プログラム」に該当するものと認めることはできない。
原審同様に、請求のすべてを棄却した。
若干のコメント
本件以外にも、プログラム著作物の著作権侵害に関する訴訟では、プログラムの機能等を主張するのみであって、コードの具体的な表現についての創作性を主張しないまま、請求が棄却されることが少なくありません。大阪地判令元.5.21では、ソースコードを提出したものの、どこが創作的なのかを具体的に主張しなかったために認められていません(知財高判令29.3.14の原審も同様)。本件では、原告からのプログラムも提出されておらず、そもそも存在自体も特定されなかったようです。
ここで気になったのは、別紙プログラム目録において、プログラムが
コンピュータプログラム「Visual Basic」
としか書かれておらず(Visual Basicはコンピュータ言語であるため、プログラムを特定したことになりません。いわば「イタリア語の文書」くらいの特定でしかありません。)、およそ特定されていないにもかかわらず判決に至るまで修正されていないことです。裁判所も相手方も特定することを求めたと思われますが、本人訴訟だったためか、このまま判決に至ったのだと思われます。
なお、大阪地裁の島田美喜子判事による「『プログラム』を著作物とする著作権侵害訴訟に関する諸問題」(L&T別冊10「知的財産紛争の最前線」90頁)では、プログラム著作権侵害事件における主張立証、審理について述べられており、その中で本事件が挙げられていました。