システムの不具合についてZoomで説明したいと述べたユーザと、これを拒絶したベンダとの間でハラスメントに発展した事案。
事案の概要
原告Xは、被告会社Yに対し、本人確認システム(本件システム)の開発を、請負代金48万円(税込)で委託した。
Yは、Xに対し、本件システムの検査ができる状態になったので触ってほしい旨の連絡をし、Xは検査を開始したが、ログイン段階からうまくいかないなどの不具合が多発した。
そこでXは、不具合の状態をまとめた課題管理表に記入し、画面のコピー等を取りまとめるなどしてYに送付してやり取りを行ったが、なおも検査がうまく進まない状態が続いた。
Xは、初期設定がうまくいかないので、Zoomで画面共有して説明してほしいという要望をあげたが、Yは、文章で説明してほしいと応じた。
その他に、本件システムに係る決済システムについて、c社とのやり取りが生じていたが、c社とYとのやり取りについて、XはYに対し「(自分を)いじめる意図・迷惑をかける意図・話をそらして業務を継続しないことを目的にメッセージを送られていると感じています。これ以上不快な思いをさせたり、傷つける連絡はやめて下さい。」などと連絡した。
Xは、Yに対し、Yから精神的苦痛を生じさせるメッセージを送られたなどとして、慰謝料10万円を求めたのに対し、Yは請負代金の支払を求めた(その他の請求もあるが割愛する。)。
ここで取り上げる争点
不法行為の成否
発注者であるXが、ベンダであるY(その代表者)の言動により精神的苦痛が生じたことについて不法行為が成立するか否か。
裁判所の判断
裁判所は以下の事実を認定した。
- 本件システムの検査が初期段階から進まず、徐々に諍いが生じたこと
- 動作不良を確認するために、XはZoomでの説明を求めたが、Yが断ったこと
- そのような中でYはXに対し、決済システム会社c社からの応答がないのは、Xが「(Xがc社から)良いお客様だと思われていないのは、ほぼ確実だと思われます。」などと説明し、Xが傷つくからやめてほしいと言ったこと
そして、以下のように述べて不法行為を認めた。
Xが述べる初期設定の段階から先に進むことができず、多くの時間を費やすことになった原因が、本件システムにあるのか、その使用方法等にあるのかは、必ずしも明らかではない。しかしながら、上記のとおり、Xにおいては、その不具合の状況につき、画像を用いて具体的に伝えており、それでも伝わらないため、Zoomを利用した説明をしたいと希望していると認められる。この点、仮に、上記原因がXの使用方法等にあるとしても、本件契約のように、システムの専門家ではない一般人が利用することを想定しているシステムの開発業務であって、納品後には注文者による検査が予定されている以上、注文者において同検査ができるよう協力することは、請負人に求められている仕事の一部であって、応じる義務があると解すべきであるから、Zoomにより説明したいというXの要望に応じられない理由がないにもかかわらず(通常行わないというのは理由にならないし、忙しいというのも日時を固定した申入れでない以上、理由にならない。)、対案を示したりすることなく、拒絶することは上記義務に違反するものであるといえる(中略)。
また、そのような中で、Xに対し、決済システム会社とXとの関係性を疑うような内容のメールを送り、Xがそのようなメールを送らないでほしいと依頼した後に、「良いお客様だと思われていないのは、ほぼ確実だと思われます。」とか、こちらもビジネスとしてやっているなどというメールを送り続けたことは、そのようなメールを見たXが精神的に苦痛を覚えることを認識しながら、あえて行った行為であると評価することができ、これら一連の行為は、YのXに対する不法行為を構成するといえる。
その結果、慰謝料として3万円を認定した(Yからの請負代金請求は棄却された)。
若干のコメント
本件は、システムの品質や開発プロセスそのものではなく、ベンダの代表者からユーザ(個人)がハラスメントを受けたことについて不法行為責任が問われた事例です。問題となったメールの文面を見ても、背景が明らかではないとなぜそれが不法行為になるのかは分かりにくいのですが、ここで注目したのは、裁判所がユーザがZoomでの説明の場を求めたのに、これを拒絶したことは、ベンダとしての義務に違反すると述べた箇所です。
一般論としても、納品物の検査が予定されている場合、その検査の主体はユーザだとしても、その検査に協力するのはベンダの責任であることからすると、なぜここまで本件のYはZoomでの確認を拒絶したのかは不明ですが、裁判所に「通常行わないというのは理由にならない。忙しいというのも・・理湯にならない。」と言わしめたのは、それなりの事情があったことをうかがわせるものです。
なお、実務的には、システム開発の事案では、圧倒的にユーザからベンダに対するハラスメントが多いと感じます。それは納期の遅れ、品質の低下について苛立つユーザが、ベンダに対して厳しく詰ったりした結果、無意識のうちにハラスメントとなる一線を越えるケースです。最近では、開発トラブルの相談に交じって、この種の相談も増えており、ベンダとしては「お客様だから我慢しろ」と現場のメンバーを宥めるだけではなく、毅然としてユーザに対し節度ある対応を求めていく必要があるでしょう。