アニメーション映画
音楽
※本稿はネタバレを含みます。ご注意下さい。
アコギをエレキに持ち替えた瞬間、世界は塗り替えられた――「ビートルズ前とビートルズ後」の衝撃体験
アニメーション映画『音楽』とは
監督:岩井澤健治 × 原作:大橋裕之(「音楽と漫画」太田出版)
7年超に及ぶ個人制作期間を経てついに堂々完成!
アニメーション映画『音楽』の原作は、『シティライツ』(講談社)、『夏の手』(幻冬舎)などで人気を集める漫画家、大橋裕之先生による『音楽と漫画』(太田出版)。
楽器を触ったこともない不良学生たちが、思いつきでバンドを組むことから始まるロック奇譚。
制作期間は約7年超、作画枚数は実に40,000枚超、を全て手描き、クライマックスの野外フェスシーンをダイナミックに再現するため、実際にステージを組みミュージシャンや観客を動員してのライブを敢行。
分業制、CG制作が主流のアニメーション制作において、何もかもが前代未聞の長編アニメーションプロジェクト。
アニメーション化にあたって、監督の岩井澤健治氏は、実写の動きをトレースする“ロトスコープ”という手法を採用。
これにより、登場人物の動きがよりリアルに生々しくなる。
豪華声優陣には、楽器未経験ながら思いつきでバンド「古武術」を組む不良高校生・研二役に坂本慎太郎氏、研二の同級生・亜矢役に駒井蓮さん、「古武術」のメンバー・太田と朝倉役に前野朋哉氏と芹澤興人氏、「古武術」をフェスに誘う「古美術」のメンバー・森田役に平岩紙さん、そして研二を敵視する丸竹工業の不良・大場役に竹中直人氏がキャスティングされた。
このほか、山本圭祐氏、れっぴーず、姫乃たまさん、天久聖一氏も参加している。
『海獣の子供』、『きみと、波にのれたら』、『天気の子』が、12月には『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が公開され、さらにNHK連続テレビ小説「なつぞら」放送で、アニメーションイヤーともいうべき2019年。
そんな盛り上がりの中で、無謀とも思える挑戦の全貌がついに明らかとなる!
原作:『音楽と漫画』/ 大橋裕之
唯一無二のセンスと圧倒的な表現力で彷徨える人たちの人生に光を照らしてきた孤高の漫画家・大橋裕之。
2005年より自費出版にて活動の幅を広げていた大橋先生にとっての初メジャー作品『音楽と漫画』(太田出版、2009年)に収録された不朽の名作『音楽』。
"完全版" には、表題作『音楽』のエピソード0となる『プロローグ』、コラムニスト・ブルボン小林氏による作品解説、作者本人が語る『音楽と漫画の頃』などが新たに追加された。
研二、太田、朝倉の不良学生三人組が思いつきでバンドを組み、初期衝動に駆られるがママに楽器をかき鳴らし、バンドライフを謳歌する青春賛歌『音楽』の他、オリジナル版『音楽と漫画』と同様に、『ラーメン』『山』『漫画』という初期の大橋裕之先生にとっての重要作品を収録している。
あらすじ
不良高校生の研二は、仲間の大田と朝倉を誘い、思いつきでバンド「古武術」を結成する。
3人は一度も楽器を触ったことがない初心者であったが、そんなことは気にせずに活動開始。
彼らのロックな青春の日々が、音楽と共に走り出す。
登場人物
研二
声 - 坂本慎太郎
本作の主人公。
校内でも悪名高い不良学生。
太田・朝倉と共に特に目的もない場当たり的な学生生活を送っている。
マカロニ拳法なるものの使い手で、研二に絡まれた不良学生は次々に不良を辞めていくと噂されているが、劇中では喧嘩をしている描写もないので、真偽は不明。
スキンヘッドで眉毛もなく無表情。
口数も少なく、思い付きで行動している節がある為、何を考えているかわからない。
ひったくり犯を追いかけるバンドマンから預かったベースギターをそのまま持ち帰った事をきっかけに、太田・朝倉と共に "古武術" を結成する。
バンド内では、ベースとリコーダーを担当する。
喫煙者。
亜矢
声 - 駒井蓮
研二と同じ学校に通っている女子高生。
パーマのかかった髪型が特徴で、制服のスカートの丈も他の女子生徒と比べて長い昭和の不良少女を思わせる見た目をしている。
研二や大場ら不良達とも交友があるが、特別不良少女らしい描写(強いて挙げれば、研二に尻を触られた時に殴り倒しているくらい)があるわけではない。
"古武術" のボーカルをやるように研二から指名を受け、断ってはいるものの実際は満更でもなく、自宅で発声練習をしている。
丸竹工業の大場とは中学が同じだった為に現在でも交友があるが、交際をしていたわけではないというのは本人の談。
太田
声 - 前野朋哉
リーゼントヘアーと吊り上がった目が特徴的な研二の不良仲間。
いい加減な性格は他の二人と同様だが、幾分か真面目な性格らしく、楽器についての知識も若干はある様子。
森田の自宅にも訪れて交友を深めるシーンがある。
バンド内ではベースを担当する。
三人の中で唯一非喫煙者。
朝倉
声 - 芹澤興人
坊主頭に大柄な体が特徴な研二の不良仲間。
研二同様のいい加減な性格。
彼の思い付きの発言がきっかけでバンド名が "古武術" に決定して、後に "古美術" と知り合うきっかけにもなる。
バンド内ではドラムを担当する。
練習の時点ではひたすら2つのドラムを叩くのみだったが、フェス本番ではシンバルも叩いている。
喫煙者。
森田
声 - 平岩紙
研二と同じ学校に通っている、背中まで伸びた長髪とメガネが特徴のインドア派な外見の男子生徒。
フォークソング部に所属して "古美術" というバンドを仲間二人と結成している。
出会った当初は研二達に怯え切っていたが、研二達の演奏を聴いて大きな衝撃を受け、後にロックに目覚める。
音楽が好きでCDをおよそ3万枚程所持している。
真面目そうに見えて、学業はいまいちとのこと。
高い演奏技術を持っており、アコースティックギターによる哀愁漂う曲調から、エレキギターによる激しい演奏、ダブルネックギターによる演奏までこなす。
大場
声 - 竹中直人
丸竹工業の不良グループのリーダー格の男。
軍団と称したグループはメンバー全員がモヒカン頭にしている。
研二とタイマン勝負をしたがっているが、無視され続けている。
比較的冷静沈着で、すぐに恫喝したり暴力に訴えようとする子分達の歯止め役にもなっている。
(秘密)
声 - 岡村靖幸
なんだこの映画は。
「なんだこの映画は。」
そう、予告を見て感じた。
まず目に入るのが、作画のいい加減さ。
朝の情報番組の中のショートアニメでさえ、もっとマシな作画をしている。
おまけに内容も何が描きたいのかイマイチよくわからない。
観始めても、まるで荒唐無稽な展開が続いていく。
「なんだこの映画は。」
その印象は映画を観た後も同じだった。
だが、意味はまったく違う。
強烈で猛烈にいい映画だった。
それもそのはず、本作はあの『ひゃくえむ。』の岩井澤監督作品である。
魂を揺さぶる作品作りには定評がある岩井澤監督。
本作でも、存分に魂を揺さぶってくれている。
大まかにいうと、本作はいわゆる「バンド成長物語」である。
だが、単なる「バンド成長物語」ではなく、「音という現象が初めて鳴り響いた瞬間の衝撃」を描いている。
主人公たちは、楽器の知識がゼロだからこそ、既存の音楽理論に縛られない「ただ鳴らしたいから鳴らす」という純粋な初期衝動を爆発させる。
それは原始の、まるで音楽が誕生した瞬間のような強烈な衝撃。
そのエネルギーは観る者にも、ビシビシと伝わってくる。
このインパクトは、【世界がビートルズを初めて知った時の衝撃】と、もしかしたら似ているのかもしれない。
ビートルズが登場する前のポピュラー音楽は、洗練されたプロによる分業制が主流だった。
しかし彼らは、荒削りなエネルギーと自分たちの言葉(自作曲)で世界を塗り替えた。
音楽史で俗に言う 「ビートルズ前とビートルズ後(Before the Beatles and after the Beatles)」である。
その衝撃を実際に体験していない人間には、眉唾な話に聞こえるかもしれない。
熱狂的なビートルマニア(ビートルズファンの総称)が創り出した幻想だという声も、まったくないわけではない。
だが、本作を観て、実際に体験してしまったなら、もはや疑いようもない。
予感はあった。
ビートルズ12作目のオリジナルアルバム 『アビイ・ロード(Abbey Road)』。
その伝説的ジャケット写真を、そっくりそのまま模したような映像。
これは間違いなく、音楽をこよなく愛した人間が意図した確信犯的な演出である。
それを観た瞬間、作画のいい加減さは頭から吹き飛ぶ。
いったいこれから何が起こるのか?
そんな静かな期待感を孕みつつ、物語は進んでいく。
だが、待てど暮らせど一向に何も起こらない。
結果的にはこれが強烈なヒキになるのだが、観ている時にはそれに気づけない。
これから観ようと思っている人は、願わくば、ここで挫折しないでいただきたい。
ここからが本番だ。
話を戻そう。
荒唐無稽の展開が長らく続くが、ある瞬間から一転する。
その瞬間とは、フォークソングバンド古美術・森田のギターソロ。
一見、線が乱れたり形が崩れたりしているように見えている。
だがよく見ると、あれは「音の振動」や「弾き手の昂ぶり」を表現するために、あえて緻密な整合性を捨てた表現であることに気づく。
岩井澤監督は実写をなぞるロトスコープを使いながら、感情が高ぶる場面ではあえて実写の枠をはみ出す「崩し」を入れているという。
これは4万枚以上の作画を自ら手掛けた監督にしかできない、計算し尽くされた「雑さ」だったのである。
雑なよう見えて、まさにこれぞ神作画。
この瞬間から物語は一気に盛り上がりをみせていく。
ちなみに、この森田。
後半ではアコギをエレキに持ち替えて、神作画のギターソロを再び魅せてくれるのだが、森田はこの物語の主人公ではない。
なぜ森田だけ特別扱いなのだろう。
主人公の成長譚。
アニメに限らず、これが物語を描く上での既定路線なはず。
だが本作は、主人公の研二たちではなく、まるで森田の成長物語をみているようだ。
劇中音楽の、そのあまりに強烈な衝撃のために見落とされがちだが、もしかしたら本作最大の仕掛けはここにあるのかもしれない。
なぜ森田だけ特別扱いなのか。
それは、彼こそが「ビートルズ前とビートルズ後(Before the Beatles and after the Beatles)」という衝撃体験の最初の人間であり、それを見事に具現化しているキャラクターだからではないだろうか。
主人公・研二たちが鳴らした原始的な一音と、森田がこれまで積み上げてきた音楽への情熱がぶつかり合ったとき、世界は "ビートルズ後" へと塗り替えられる。
アコギからエレキに持ち替えたのも、「ビートルズ前とビートルズ後(Before the Beatles and after the Beatles)」を意識した、監督のこれまた確信に満ちた演出だったのだろう。
声優に主演の坂本慎太郎氏、岡村靖幸氏と玄人好みの音楽関係者を揃えたセンスの良さ。
そして音楽への並々ならぬ愛情。
まさに『音楽』と銘打つに相応しい名作である。
本作を観終えた今、確信を持って、改めてこう言える。
「なんだこの映画は。最高じゃないか。」
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